32 / 44
本編
32.相互確認
しおりを挟む「生前」の俺はヘテロでもゲイでもなかった。
性欲というものが感じられなくて、精通のときに一度男の象徴が仕事をして以降は存在を主張してくることが一切なかった。
若い頃は、男友達が集まるとよくある猥談に混じれない自分に焦って、病院に行ったりもしたが……致命的にどこかが悪いということはなく、どこへ行っても健康体だと太鼓判を押されまくって帰るだけだった。
無性愛者という単語を知ってからは、自分はそういうものなんだろうと思っていた。
総司郎に告白されたときも、「愛せるものなら愛したい」と縋るような気持ちもあった。
結果───総司郎に触れられた場所は焼き鏝でも当てられたのかと思うほど熱く、しびれる感覚を引き起こした。
初めて快感を得て、それが他人から与えられるものだということに頭がおかしくなりそうなほど悦楽を感じた。
なんということはない、自分は総司郎以外のなににも興奮しない人間だったのだ。
(それもどうかと思うが……)
これまでの空白を埋めるように唇を貪られ、俺も同じだけの熱量を返す。
破壊神となってからは行為をしたことがなかったのに、体の構造が同じせいか性感帯も変わっていないようで、覚えのある場所をしつこく愛撫されるたびに背筋が震えた。
この年下の幼馴染のことをいつから好きだったのかは、自覚がないので全くわからない。
愛情が、愛欲にいつから変化したのかも。
総司郎は「初めて会ったときから好きだった」と言うし、俺も同じタイミングで彼を好きになったと自信満々に豪語されたことがあるが、案外それが真実なのかもしれない。
触れるたびに愛しさが込み上げ、触れられるたびに喜びが全身を支配する。
「っあ、そこ、もう?」
「ごめん、海くんが俺のものだって早く確かめたいんだ」
前戯もそこそこに慣れた動きで後ろを探られ、反射的に腰が跳ねる。
風呂場で準備したとはいえ、久しぶりの行為と性急な展開に呼吸を合わせるので精一杯だった。
普段ならこちらからも協力しながら慣らすのだが、総司郎の体にしがみついて感覚をやり過ごすことしかできない。ぎゅっと目を閉じると余計に後孔を探られる動きを意識してしまって逆効果だった。
「も、もういいから」
「ダメ。もっとちゃんと慣らさないと」
「そんな───ひゃうっ!」
「感じるところも同じだね、よかった」
隘路を行き来する総司郎の指からは水音がしていて、潤滑剤を手に取った気配もないのに濡れているようだ。
まさか、手からジェルを創造してる……?
そんな器用なことができるならこの上なく便利だ、ってそうじゃなくて。
「ちょ、あっ、待って、何してんの総」
「何って」
「だって後ろ、濡れて……」
「あぁ。指先からローション生成しながらやってるから」
「やっぱり! お前ただでさえ創造物の量とか抑えられないのにそんなこと……俺ヤダぞ、ジェルの入れすぎでお腹破裂して死ぬとか!」
「そんなマンガみたいなこと起こるわけないでしょ。ちゃんと加減してるし」
「か、げん……?」
俺がおうむ返しした言葉に「しまった」という顔をした総司郎は、一瞬時が止まったように硬直した。
こいつは加減ができないから手のかかる創造神なんだ。
指先から作る繊細な量の創造物を手加減できるのなら、俺が呼ばれることはなかったはずだ。
これまでの記憶が走馬灯のように脳裏を流れ去っていく。
俺の今までの、多大な努力と奮闘はいったい……。
「……」
「おい、創造神」
「その呼び名いま使う?」
「お前創造物の制御とかできるのかよ」
「…………」
「いつから、どのくらい」
「さ、最初から……ある程度は」
「……」
交互に黙り込むことを繰り返しながら問いただしたのは、総司郎はこれまで着任した破壊神たちを不当解雇するばかりか、能力が制御できないふりをして勤務年数が上の俺を引き当てるまで本部に無能を装っていたということだった。
呆れて物も言えない。
喜びに打ち震えて熱くなっていた俺の体も冷めそうな思いだ。
「はーー……能力的に劣っている俺がお前に合わせるためにどんだけ苦労したか知ってるよな?」
「海くんがたくさん構ってくれるから、つい言い出すのが遅れて……」
「はぁあ……」
「その件は後で改めて謝るから、今は……ね?」
「……仕方ないな」
そう簡単に許してやるわけではないが、覆い被さる総司郎の首を引き寄せて口付けると嬉しそうに笑うので、どうでも良くなったのも事実だ。
今はおとなしくしといてやろう。今は。
口唇の隙間を許さないと言わんばかりに激しくキスを交わしているうちに、指が引き抜かれ、代わりに比べものにならないほど熱い塊が押し入ってきた。
「んぅっ……ぁああっ」
思わず口付けを解いて呼吸を整える。
やはり最初の圧迫感は大きい。それでも自然と体が力を抜くのは、徐々に昔を思い出してきた証だろうか。
「つらい?」
「い、いから……最後までやれ」
「了解、お姫様」
汗の滲む額を手のひらで拭われながらなにか変な呼び名を振られた。誰がお姫様だ。
抗議しようと口を開くと勝手に情けない声が出てしまうので、今回は見逃してやることにする。
ゆっくりと、しかし記憶にあるより性急に、奥まで押し開かれる。
「ぅ……」
「はぁっ、は、ふ……ど、した?」
「入れただけでイきそうになった……」
「おいおい、余裕ないなぁ。童貞かよ」
「仕方ないだろ……この体では初めてみたいなもんだ」
「それもそうか」
腕を伸ばすと総司郎の上半身が倒れてきて、キスしやすくなった。唇だけでなく鼻の頭や額にも口付ける。少し熱く汗ばんだ皮膚が愛おしい。
正常位で正面から深くキスするのはきつい体勢になりがちだが、それでも総司郎に触れたかった。
目の前にある鎖骨がおいしそうに見えて歯を立てたら、思ったよりガリッという痛そうな音がしてしまった。
「……ッ」
「痛かった?」
「……痛い」
「俺はもっと痛かった。我慢しろ」
「はい……」
がじがじと齧り続けて口を離すと、くっきり赤い歯型がついていた。
この程度なら数日で痕も残さず消えるだろう。
俺の首筋の傷は未だにうっすら皮膚を失った形跡が残っている。この程度じゃ仕返しにもならない。
自分でつけたマーキングに満足していたら、お返しとばかりに鎖骨から胸の周辺にいくつも吸い付かれた。自分では殆ど見えないが、くっきりしたキスマークが大量に散っているに違いない。
服装に自由が認められている総司郎の仕事とは違って、俺の職場は必ずスーツでの出勤だった。
ワイシャツの一番上のボタンを緩めることすら許されない俺の仕事着の下に痕を残すことが、総司郎は好きだった。その代り、襟から見える可能性のある首筋には絶対に痕をつけないように言ってあった。
耳の後ろにまで鼻先を潜り込ませ、下顎の際にまで吸い付く総司郎の様子に苦笑が漏れる。
お互いに社会人だから仕方がなかったとはいえ、彼なりに我慢していたんだということを今更知ることになるとは。
「そろそろ良い?」
「あぁ……似合わない遠慮なんてするな」
「そうやっていつまでも年上ぶっていられると思わないでよ、ねっ!」
「ひぁうっ!」
衝撃と快感で、目の裏にちかちかと星が散ったみたいになった。
実際に俺のほうが年上だろうとか、中が馴染むまで待っていてくれたのかとか。いくつか考え事が浮かぶが、愛しい相手に貪られながらそんな些事に思い巡らせられるほど俺も枯れてはいない。
膝が胸につきそうなほど腿を押し込まれ、激しい抽送を受け入れる。
「あっ、あ、総、そう───」
「……っごめん、加減できない」
「んっ、ふは、ぁあっ……」
寄る辺無さげに二人の体の間で揺れていた俺の雄芯がゆっくりと総司郎の手に包まれる。
「総、んっ……きもちいい、うれしい……そうしろぅ……」
「俺もだよ海くん」
「あぁ───」
突き上げに加えそこまで擦られたら、久しぶりの刺激にとことん弱くなっていた俺はあっという間に達してしまった。
すぐに総司郎も追いついたようで、動きが止まってぎゅうっと抱き竦められる。
二つの肉体の間に隙間が少しでもあることが許せないというような、そんな抱擁だった。
「なんだ、俺の総司郎は甘えん坊だなぁ」
「……」
「安心したか?」
「……安心はしたけど、満足はしてない」
一度萎えたものが俺の中で再び硬さを取り戻すのが分かった。
求められるのは嬉しい限りだが、俺の方はそこまで復活早くとはいかない。若さだなぁ。
「仕方ない。今日はとことん付き合おう」
飢えた獣の眼を光らせて俺を睨み据える総司郎の髪を、くしゃくしゃとかき混ぜて挑発的に微笑んでやる。
彼が今感じている不安や焦りを、俺の体で消すことができるのなら簡単だし安いものだ。
年下の恋人を寂しがらせた責任は、やはり俺にあるのだから。
「その言葉、後悔すんなよ」
「えっ……」
先程までのしおらしい様子はどこへやら。
一ラウンド終えた後とは思えないほど元気を取り戻した総司郎が、凶悪さすら感じるニッコリ笑顔を向けてきて、俺は早くも自分の発言を撤回したくなったが───すぐに何も考えることができなくなり、ただ快楽に溺れ喘ぐだけとなってしまった。
15
あなたにおすすめの小説
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました
禅
BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。
その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。
そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。
その目的は――――――
異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話
※小説家になろうにも掲載中
植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています
水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。
「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」
王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。
そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。
絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。
「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」
冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。
連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。
俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。
彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。
これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。
過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~
水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった!
「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。
そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。
「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。
孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる