9 / 94
9. 箱の中の少女
しおりを挟む
「おっしゃー!!」
あれから3週間。ジークの腕からギブスが外された。ほぼ完治である。
「まだ無茶はするな。と言っても無駄だと思うが」
ラウルがいちおう釘を刺すが、やはり言っても無駄のようである。ジークはさっそく腕をぶんぶん振り回していた。早く使いたくてうずうずしている様子だ。
「思ったより早かったわね、治るの」
用済みとなったギブスの後片付けをしながら、アンジェリカが言った。
「日頃の鍛え方が違うんだ」
ジークは嬉しそうに言った。その姿は、自信家というより、むしろ無邪気な感じに見えた。アンジェリカは、はいはいといった調子で適当に受け流していた。リックはその後ろで、にこやかな顔をして立っている。
あの事件以来、ジーク、リック、アンジェリカの3人でいることが多くなった。とはいっても仲良しこよしというわけではなく、ジークとアンジェリカはなにかにつけて言い争っている。それをリックがなだめるというパターンだ。それはそれでバランスが取れていていいのかもしれない。
「10歳の女の子相手に、何もそんなにムキにならなくてもいいんじゃないの?」
ふたりきりになったときに、リックはジークに言ってみた。
「10歳だろうが女だろうが、ムカつくものはムカつくんだよ」
それがジークの答えだった。
「アンジェリカ?!」
突然リックが素頓狂な声をあげる。
「え? なに?」
いきなり呼ばれたアンジェリカは何ごとかと思い、隣のリックを見上げた。リックはジークの背後を指差し固まっている。ジークとアンジェリカは指されたものを探すために振り返った。それを見た途端、口を開いたままでジークも固まった。
「あ、これ今日からだったのね」
アンジェリカだけひとり冷静である。いや、ひとりではなく、後ろの方でカルテの整理をしていたラウルもいたって冷静だった。
「なんだこれ!!」
ジークは驚いてるのか怒っているのか判別がつかないような口調で叫んだ。アンジェリカは、なぜ大声を出すのかわからないといった表情できょとんとしていた。
「公報広告よ」
「じゃなくて!! なんでおまえがってことだ!!」
リックが指を差していた先には、白いワンピースを着たアンジェリカが森の中にたたずんでいる映像があった。テレビという小さな箱の中に。
「史上最年少で王立アカデミー合格。おまけに名門ラグランジェ家のひとり娘だ。まわりが放っておくわけないだろう」
アンジェリカの代わりにラウルが答えた。よほど驚いたのか、二人は反論も返事もできないままただ呆然としている。アンジェリカは本当に不思議そうに首を傾けていた。
「ただの公報広告にちょっと出ただけなのに、なにをそんなに驚いてるの?」
感覚の違い。アンジェリカにとってはちょっと出てみただけという感覚だったが、どちらかといえば田舎町で育ったふたりにとってはテレビの中は別世界。その別世界に目の前の子がいたという事実は、かなりの衝撃だったのだろう。近くに感じ始めていたアンジェリカが、一瞬、遠い人のように思えた。
「……なんでオレには声がかからねーんだ」
しばしの沈黙の後、ジークがぽつりとつぶやいた。アンジェリカとリックは顔を見合わせ、そして吹き出した。
ジークの真意はわからないが、その一言でその場が和んだことは間違いなかった。
あれから3週間。ジークの腕からギブスが外された。ほぼ完治である。
「まだ無茶はするな。と言っても無駄だと思うが」
ラウルがいちおう釘を刺すが、やはり言っても無駄のようである。ジークはさっそく腕をぶんぶん振り回していた。早く使いたくてうずうずしている様子だ。
「思ったより早かったわね、治るの」
用済みとなったギブスの後片付けをしながら、アンジェリカが言った。
「日頃の鍛え方が違うんだ」
ジークは嬉しそうに言った。その姿は、自信家というより、むしろ無邪気な感じに見えた。アンジェリカは、はいはいといった調子で適当に受け流していた。リックはその後ろで、にこやかな顔をして立っている。
あの事件以来、ジーク、リック、アンジェリカの3人でいることが多くなった。とはいっても仲良しこよしというわけではなく、ジークとアンジェリカはなにかにつけて言い争っている。それをリックがなだめるというパターンだ。それはそれでバランスが取れていていいのかもしれない。
「10歳の女の子相手に、何もそんなにムキにならなくてもいいんじゃないの?」
ふたりきりになったときに、リックはジークに言ってみた。
「10歳だろうが女だろうが、ムカつくものはムカつくんだよ」
それがジークの答えだった。
「アンジェリカ?!」
突然リックが素頓狂な声をあげる。
「え? なに?」
いきなり呼ばれたアンジェリカは何ごとかと思い、隣のリックを見上げた。リックはジークの背後を指差し固まっている。ジークとアンジェリカは指されたものを探すために振り返った。それを見た途端、口を開いたままでジークも固まった。
「あ、これ今日からだったのね」
アンジェリカだけひとり冷静である。いや、ひとりではなく、後ろの方でカルテの整理をしていたラウルもいたって冷静だった。
「なんだこれ!!」
ジークは驚いてるのか怒っているのか判別がつかないような口調で叫んだ。アンジェリカは、なぜ大声を出すのかわからないといった表情できょとんとしていた。
「公報広告よ」
「じゃなくて!! なんでおまえがってことだ!!」
リックが指を差していた先には、白いワンピースを着たアンジェリカが森の中にたたずんでいる映像があった。テレビという小さな箱の中に。
「史上最年少で王立アカデミー合格。おまけに名門ラグランジェ家のひとり娘だ。まわりが放っておくわけないだろう」
アンジェリカの代わりにラウルが答えた。よほど驚いたのか、二人は反論も返事もできないままただ呆然としている。アンジェリカは本当に不思議そうに首を傾けていた。
「ただの公報広告にちょっと出ただけなのに、なにをそんなに驚いてるの?」
感覚の違い。アンジェリカにとってはちょっと出てみただけという感覚だったが、どちらかといえば田舎町で育ったふたりにとってはテレビの中は別世界。その別世界に目の前の子がいたという事実は、かなりの衝撃だったのだろう。近くに感じ始めていたアンジェリカが、一瞬、遠い人のように思えた。
「……なんでオレには声がかからねーんだ」
しばしの沈黙の後、ジークがぽつりとつぶやいた。アンジェリカとリックは顔を見合わせ、そして吹き出した。
ジークの真意はわからないが、その一言でその場が和んだことは間違いなかった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。


断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる