メルレールの英雄-クオン編-前編

朱璃 翼

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3部 永久の歌姫編

聖槍を継ぐ者

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 灼熱の炎が大蛇へ襲い掛かる。悲鳴を上げるように甲高い声が上がると、鱗の一部が溶けていた。

 セネシオの放った魔法は、想像以上の威力を持っており、効果を発揮した。これならやれるかもしれないとシャルが思ったのも束の間、怒り狂った大蛇の攻撃が無差別に襲い掛かる。

 光の筋が針のように降り注ぎ、四人に襲い掛かる。シャルはそれほど困らなかったが、他の三人は翼がある分だけ、攻撃に対して苦戦した。

 翼は一歩間違えれば急所となるだけに、なにがなんでも避けなくてはいけない。

「逆ギレされたような気分だよ」

 攻撃したところ、キレた魔物だと表現すれば、同意するようにシャルも頷く。

 どう見ても逆ギレだ。襲いかかってきて、反撃されたから怒っているなど呆れてなにも言えない。

(これが本当に外からの魔物なのか)

 外から来た魔物は言葉を話すとも聞かされていたシャル。頑丈さを考えれば間違いないと思うのだが、知能は個体差があるのかもしれないと思い直す。

 このとき、光の筋がただの攻撃と思っていた全員。過ちはすぐに気付かされる。

「これは…」

 最初に気付いたのはセネシオだ。放たれた光の筋がいくつか地面に刺さって残っている。

 警告しようとした瞬間、大蛇の咆哮が地面を揺るがすように響き渡った。

「退くんだ! これは、分裂してる!」

 ただの攻撃だと思っていたそれは、中に違うものが混ざっていたのだ。大蛇の咆哮を合図に残された光の筋が小さな蛇へと変わっていく。

 それほど大きくはならなかったが、性質が外の魔物であれば厄介な存在だ。

 少なくとも、先ほどまで相手をしていた魔物とは、まったく違うだろう。

 慌てたように距離を取ろうとしたが、気付いたのが遅すぎた。蛇は足や翼へ巻き付き、締め付けるように動いていく。

「クッ…」

 翼を使えないと飛ぶことはできない。なによりも、このまま折られでもしたらと思うと、蛇を引き剥がさなくてはと思う。

 真っ先に剥がそうとしたのはソニアだ。自分ではなく、アクアに巻き付いた蛇に手を伸ばす。

「…っつ」

 電気が走るような感覚。まさかと無我夢中で引き剥がした瞬間、蛇から電流が流れた。

 自分に巻き付いている蛇だけなら、身体が痺れる程度で済んだだろう。けれど、アクアに巻き付いた蛇まで手にしていたソニアは二重の攻撃を受けてしまった。

「ソニア!」

 駆け寄ろうとしたシャルの周囲にも蛇は多く、セネシオも蛇に巻き付かれていたことから攻撃を受けている。

 回避できたのは、助けられたアクアと蛇を避けたシャルだけだ。

(このままだと、全員やられる)

 退くタイミングはすでに逃している。逃げたとしても、大蛇にこのようなことが出来る時点で、神殿から逃げるぐらいのことをしなければ逃れられなかったかもしれない。

 小さい蛇がどこまででも追いかけてくるだろう。

「クソッ」

 冷静にならなければいけないのはわかっているが、ソニアが気になって冷静になれない。

(落ち着け…)

 ここで自分が冷静さを欠くわけにはいかないと言い聞かせる。考えるのだ。大切な者を守るために、ここをどう切り抜ければいいのか。

 頼れるものなどもうない。自力でどうにかするしかない現状、シャルはどうすればソニアを助けられるかしか考えていなかった。

 頭をフル回転させて考えていれば、急に真っ白な空間へ放り込まれたシャル。

(いや、意識だけ飛ばされたのか)

 これは意識がどこかに引き寄せられたのだ。瞬時に自分の状況を理解すれば、なにへ引き寄せられたのかと考える。

『ここへ放り込まれて、驚かないとはな。さすがだと言えばいいのか』

 聞き覚えのない声が背後から聞こえてきた。振り返った先に、見覚えのない青年がいる。

 青年に見覚えはないが、けれど知っていた。彼が受け継いできた時計、そこに記録されていたからだ。

「イェルク・ソレニムスか……」

『俺がわかるわけか。なら、話は早い』

 淡々と言う青年は、とうに死んでいるはずの人物。三千年前、光の英雄と呼ばれた一人だ。

 死後の世界にでも行ってしまったのか。そんなことを思わず考えてしまったが、それならば自分だけここなのに納得しない。

 あの大蛇を前にして、自分が一人で死ぬことはないだろう。そのときは、おそらく誰も助からない。あの場にいた全員が殺されているだろう。

 それだけはハッキリと言えた。

 状況は理解できていないが、ひとまず死後の世界ではない。なんらかの空間に、精神だけが飛ばされたのだということは理解した。

 場所は理解できたが、問題は戦況だ。

『時間は取らない。今はそのようなときではないだろ』

「そうだな」

 詳細を聞くよりも、早く戻せと言いたい。誰よりも大切な者がいるのだから。

『力を求めてるのだろ。大切な者を守るために』

「くれるわけか」

 次の瞬間、早く戻りたいという気持ちよりも興味を引く言葉に、動きが止まる。

 三千年前のことを知るからこそ、目の前にいる人物に関してもある程度は知っていた。月を表す聖槍の使い手であり、その聖槍は光を元にしている。

 つまり、手にすることができれば大蛇とまともに戦えるということだ。

『この力は、お前の気持ちに同調したからな』

 求めるなら与えると言われれば、迷うことなどない。失わないためには、使える物はなんでも使うのだ。

『……なにかしら、似ている者が継ぐのか』

 考えを察してか、イェルクは小さく呟いた。

『時間がない。いきなり実戦で使うものでもないんだが、あの人の血族なら問題ないだろ』

 それは誰よりもわかっていた。聖剣や聖槍といった物に関しても、記録という形で残されている。

 神の力そのものであり、使えば身体に負担がかかる物。強制的に眠りに落ちるというものだ。

「寝るだけなら問題はない」

『そうだな。問題はない。ならば、ひとつ助言だ』

 聖槍の使い方ではない。彼が与えた助言は、思ってもみないもので驚いた。

 まさか、そんなことを言われるとは思わなかったのだ。

『すべてが終わったら、星視の間へ妃様と来てくれ』

 そこでならもう一度だけ話ができると言われれば、彼だから知っているなにかを話してくれるという意味だと頷く。

 この一件に関して、話せる限り聞き出そう。聖槍など手にしてしまえば、このまま無関係でいることなどできないのだから、情報は必要だ。

 目の前に光が集まり、槍へと変化していく。溢れ出る力は、シャルが扱ったこともないほどのもの。

(使える、使えないじゃない。俺に、従え! 聖槍!)






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