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3部 永久の歌姫編

聖槍を継ぐ者2

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 視界が元に戻れば、どうやら光に包まれていたらしいと知る。

(なるほど。これなら大蛇の動きも止まるか)

 光で前が見られないほどの状況になっていたようだ。大蛇どころか、小さな蛇すらも動きを止めていた。

 長時間話していれば、さすがに大蛇が動き出していたかもしれない。だからこそ、詳しい話などせず聖槍だけ渡したのだろう。

「シャル、それ……」

 戸惑ったように聖槍を指差すアクアに、説明は後だと大蛇を見る。

 まずはあれを倒さなくてはいけない。倒すための力は手に入れた。

「アクア様、防御の援護頼めますか」

「……イェルクから聞いたのかな」

「はい」

 それなら仕方ないと笑う。彼はグレンと戦う自分を見ているだけに、そのようにサポートしていたことも知っている。もとより、動くつもりでもあった。

(防御を求めてくるってことは……)

 突っ込むつもりだろう。夫にする援護と同じで構わないはずと思えば、竪琴の力を開放した。

 あのときやろうとしていたことは、逃げることではなく竪琴の力を開放することだったのだ。

 奏でられた音色は、周囲の空気を震わすほどの魔力が込められている。塔に集まっている力すら、音色によって引き寄せられているのかもしれない。

 これほどの魔力を音色で操るのか。見るだけに徹したセネシオは、驚いたようにアクアを見ている。

「シャル、いつでもいいよ」

 すべて合わせると言われれば、シャルは背後の確認をすることなく前だけに意識を向けた。辛うじてセネシオが動けるので、いざとなったら任せる気だ。

 あれだけの魔法が使えるなら、なんとかしてくれるだろうという、勝手な判断だったりする。

(これは力の塊だ)

 握り締めている手から、ピリピリとしたものを感じていた。魔力のようで魔力ではない力の波動。

 まるで早くしろと言われているような気がし、シャルはフッと笑う。

(お前も、早く暴れたいわけか)

 聖槍に意思があるのかはわからないが、少なくともシャルはそう感じていた。解き放たれる瞬間を待っているような感じが。

「聖槍よ…」

 力を解き放つ鍵はひとつ。ただ呼びかけるだけでいい。

 吹き荒れる力は冷気となって周囲を覆う。冷気とわかるが、決して寒さを感じることはない。

 闇夜の中、銀色の輝きとなって冷気は巻き上がると聖槍へ吸い込まれていく。白銀の輝きを得た聖槍は、生き生きとしているようにも見える。

「月ノ輝き…ケス…」

 真っ直ぐに突っ込んでくる大蛇。防御をすべて任せてしまっている分、これを気にする必要は欠片もない。

「シャルを守って!」

 アクアの呼びかけひとつで、周囲に集まっていた魔力が壁となって大蛇を阻む。さすがに完璧とまではいかなかったが、威力が下がればそれだけでいい。

 一歩跳び下がると、壁が衝撃で吹き飛ばされた。目で見えるものではないが、吹き飛ばされた魔力を感じ取ることはできる。

 聖槍を持つからか、土地柄的な問題なのかわからないが、普段よりも敏感になっているようだ。

(感覚のすべてが研ぎ澄まされていく……)

 常になにかを守る戦い方をしていたが、なにも意識せず戦うのは久しぶりだった。こうも違うのかと思うほどに。

 一撃で終わらせなくてはいけない。本能で感じていたそれは、聖槍を全力で使える制限のようなものだ。それ以上は身体が耐えられない。

(なら、一発で終わらせるだけだ)

 攻撃を仕掛けてきた大蛇を数度避ける。動きを様子見しているのだが、やはりうねる身体は予測がしづらい。

 そちらを予測するよりは、相手の動きを利用した方が早いと判断した。決めればすぐさま動くだけのこと。

「アクア様! 飛び込みます!」

 これだけで通じるだろうか。求めているものを彼女がしてくれるかは賭けでしかない。

 してもらえなかったとしても、行動を変えるつもりはなかった。自分がどうにかすればいいだけだと思っているから。

 何度目かわからない突っ込みをしてくる大蛇。正面からシャルが行けば、大きく開かれた口からブレスが吐き出される。

 予測通りの攻撃だが、ここでの防御は求めていない。聖槍が一本あれば十分に防ぐことができる。

 白銀に輝く一振りがブレスを吹き飛ばせば、大蛇の腹が真上に見えた。身体の下へ潜り込んだのだ。

「シャル!」

 慌てたようなセネシオの声が聞こえてきたが、大蛇が巻き込もうとするところまで予測済みだ。

「シャルを囲って!」

 そして、アクアの手助けが欲しかったのはこの瞬間。しっかりと手助けしてくれた彼女に、さすがだと思う。英雄王と共にいる女神様は侮れないとも思ったほど。

 もしかすると、英雄王は無茶な戦い方も普通にするのかもしれない。

「感謝します!」

 援護が上手く得られなかったら、聖槍を使ってどうにかするつもりではいた。だから問題はなかったのだが、無駄な力をなるべく使いたくないのが本音。

 終わった後もまだやることがある。限界まで聖槍を使って眠る、なんて真似はしたくない。

 軋む囲いを感じながら、一瞬の隙を逃すことなく大蛇の背に跳び乗る。あとは駆け上るだけ。

「そっかぁ、上に登って頭を叩くのか。グレン君もやらないようなことするなぁ」

 もう大丈夫と思ったのか、アクアが感心したように言う。

 目の前では、聖槍が強い輝きを放ちながら頭へ突き立てられている。

 氷に包まれた大蛇の身体。同時に、周囲の蛇もすべてが動きを止めた。

「これで、終わりだ!」

 突き立てた聖槍を引き抜くと、今度は凍りついた身体を砕くように斬りつける。

 崩れていく大蛇を見て終わったと思うなり、シャルは仲間の元へ戻った。

「ソニア!」

 いや、もはや護衛対象など後回しだ。今の彼にはソニアのことしかない。

「大丈夫、とまではいかないけど」

 それほどダメージを負っていなかったセネシオが、治癒魔法を使ってくれていた。お陰で大事に至らなかったと言うが、それでも深手に変わりはない。

「神殿でよかったね。神官長に頼めば、僕より腕のいい治癒が受けられるよ」

 治癒に関しては苦手でね、と言うセネシオに、誰もがそうだろうと思ったのは言うまでもない。

 どうやら、彼は完全に戦闘方面しか訓練をしていないとわかったからだ。それもどうなのかと思わずにはいられないのだが。

 神官騎士になりたかったという点と、ソル神殿の神官長がシルベルトだと考えた辺りで、気にするだけ無駄だと思う。







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