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2部 二刀流の魔剣士編

シュレの過去

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 一体なにを見せてくれるのだろうか。そんな思いでシュレはグレンの部屋を訪ねた。

 通常、傭兵を雇った商人が都合で宿を取る場合、一部屋が当たり前だ。

 今回アイカがいることで二部屋なら納得だが、三部屋とは珍しいこと。おそらく組合が条件としてだしたのだろう。

 当然ながらグレンのために。

「入るぞ」

 軽くノックをすると、シュレは当たり前のように入る。呼ばれたのだから、別に構わないだろうと思ったのだ。

「……寝てるのかよ」

「起きてる」

「起きたの間違いじゃないか」

 壁に寄りかかったまま目を閉じていたグレンに、やれやれとシュレは近寄る。

 また寝ずにいたのだろう。どうにも、彼は昼夜が逆転しているようなのだ。

「夜に少し動いていたからな。これをヴェガに見せるため」

 懐から時計を取り出すと、光の球体が浮き上がる。

 シュレは驚いたように球体を見た。それがなんなのかわかったのだ。

 これは魔力装置だった。遠くの姿を映すためのもので、今現在は作られていない。

 王家にのみ預けられていて、戴冠式や新年の挨拶などに使われている。

「これに使える魔力装置をいくつか設置してきた」

 言いながら映し出されたのは、バルスデ王国の騎士団敷地内。

『よく入り込めたな』

 見事なまでに騎士団内部が映っている。敷地内は昔と変わっているのだから、あの後も情報屋から聞き出したのだろうとヴェガはため息を吐く。

「月光騎士団だ。あれが最年少団長だな」

 映った騎士達を見ながら、目的の人物を見つけ出して笑うグレン。

「あれが…」

『クオン……リオンによく似てる』

 小さく呟かれた言葉に、シュレはすべてが納得できた。見せたかったと言った意味も。

 最年少団長の情報を真っ先に求めたのも、やたら騎士団の情報を聞いていたのも。すべてはこのためだったのだ。

 詳しいことはわからないが、この小さな獣が主とする人物は彼に関わるのだということはわかる。

 わかってしまったと言うべきなのだろう。

『なぁ、あいつ絶対バカだよな』

「お前、それを言うのか? リオンと比べるのは可哀想だぞ」

 生きている年数が違うのだから、比べることが間違っている。知識の意味もそうだろうとグレンは視線だけで言う。

「バカというか、力に絶対の自信がある奴って感じだな。あれはあれで、嫌いじゃない」

 冷静に見ていたシュレが言えば、どうなんだとグレンがヴェガを見た。

『そこは同じかもな。リオンもそうだったし…』

 違うが同じだと思える。それは動きを見ていてもわかることで、懐かしい気持ちにさせた。

 騎士団の訓練をする姿が映し出されるだけで、声すら聞こえてこない。

『なぁ、これ普通の訓練じゃないだろ』

「ん?」

 気にせずに眺めていたグレンは、ヴェガに言われて確かにと気付く。

 これは合同訓練だと気付いたとき、グレンがニヤリと笑う。思わぬ人物がそこに映し出されたからだ。

「レインより強そうだな」

『お前、そこなのかよ』

 騎士団最強と言われている騎士団長。動きを見ただけでも、グレンにはどれだけ強いのか読み取れる。

 見れば見るほど手合わせをしてみたいと思えた。

 それはシュレとヴェガにもわかっただけに、一人と一匹はなんともいえない表情で見る。

「ところで、見知らぬ名前がよくでてくるんだが」

「あー、そうだな。どう説明するか。とりあえず友人の息子だ」

 自分の存在を知っているといっても、神を信じているかは別問題だ。

 特に東では、神などというものはほとんど広がっていない。神話が広がるのは西のみなのだから。

「友人…噂の太陽神か。英雄王には太陽神の加護があったと聞いたが」

「信じるのか?」

 傭兵は現実主義だ。神話なんてものを信じるわけがない。いくら英雄王が立ち上げた傭兵組合でも、信じないと思われた。

「俺が、というよりはあいつがだが」

 フィフィリスが話していた影響だと言われれば、グレンは納得した。

『たまには昔話もいいか。グレン、あれも見せられるだろ』

「そりゃ構わないが…」

 魔力装置から映し出されていた映像を消すと、グレンはどれにするのかと言うようにヴェガを見る。

『シオンでいいだろ』

「まぁ、それが一番か」

 グレンのすべてを変えた存在といっても過言ではない。悪い意味ではなく、いい意味での変化を与えてくれたからこそ、彼にとっても大切な存在だ。

 映し出された赤い髪の青年。金色の瞳が印象的で肩にはピンク色の獣を乗せている。

「太陽神とも呼ばれるが、七英雄と言えば一番わかりやすいだろ。シオン・アルヴァースだ」

「これは…」

 どんな仕組みなんだと言うようにシュレが問いかければ、そこからだったなとグレンも言う。

 この魔力装置は一般的に知られていないものなのだから。

 一部の仲間が持っていた魔力装置。それは初めて作られた時計にのみつけられた特殊なもの。

 いつでも思いだせるように、息子であるヴェストリア・バルスデ・フォーランと側近であったクレド・シュトラウスの二人が作った。

「魔力で記録し、好きなときにいつでも見られるものだ。魔力の鍛練で、記憶も映し出せるようになったが」

 さすがにこれは自分達だからできることだと苦笑いを浮かべる。

 三千年と生きてきたからできるようになったこと。作った本人達ですら、このようなことができるようになるなど、思ってもいなかっただろう。

「俺とシオン、イリティス、アクアの持っている時計にはついてる。他はどこまであるか知らないが」

 どう作っているかもわからなければ、どれぐらい作れるかもわかってはいない。

 その技術だけは誰にも伝えられていないからだ。

「ヴェガもいいと言ってるしな。お前になら話してもいいだろう」

 ただし、聞けば巻き込まれていくことになる。どうするかと視線で問いかけた。




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