64 / 276
2部 二刀流の魔剣士編
シュレの過去2
しおりを挟む
問われていることはシュレでもなんとなくわかること。
情報を得ることや運動がしたいなど嘘ではないが、本当でもないと気付いていた。それでも突っ込まないのは、突っ込んではいけないと思っていたから。
彼は自分達とは違う世界で生きているのだ。こうして話せているだけでも十分だろうと思っていた。
「俺はなにか役に立てるのか」
しかし、突っ込んでいいと言うなら突っ込みたいと思う。
「わからないが、俺はお前がいてくれるなら助かると思う。ただ…」
「強くなりたいんだ…」
なぜ突っ込みたいのか知りたいと思っていたが、問いかけるより前にシュレは自嘲気味に言った。
「フィフィリス・ペドランのためにか」
「そうだ」
惚れた女傭兵のためだろうと思っていたが、それがなぜなのか。気になっていたのはそこだ。
そして、それはアイカを嫌うことへも繋がるのだろうとも思っていた。
少しばかり考えていたシュレは、一度息を吐くと話し出す。
「俺は母親がハーフエルフ、父親が人間だ。人間の血が濃くて、魔力は弱く魔法は不得意。傭兵をやるには不向きだとわかっている」
それでもやらなくてはいけない。そんな状態になってしまったのは、里に流行り病が広がってしまったこと。
母親と妹のため、治療費を稼ぐのに傭兵組合へ向かった。
「当時のトップ二人には拒否られたが、自分が組むからとフィフィリスが受け入れを認めるよう動いてくれた」
すでに傭兵組合のトップクラスで仕事をしていたこともあり、絶大な信頼があったフィフィリス。
彼女が言うならと、常に組むことが条件で傭兵組合へ入ることが許された。
『弓だけじゃな。一人で動けない傭兵は依頼がこないか』
仕方ないことかもしれない。理不尽だと思うが、組織としてはそのような傭兵を受け入れることはできない、というのもわかる。
しばらくは二人で組む日々。簡単な魔物退治から始まり、シュレの実力を試すような仕事だった。
「弓しかできなくても、俺は自分の腕を疑いもしなかった。なんでもやれると思っていたし、あのときは感情的だった」
その言葉で、シュレがアイカにたいしてあのような態度をとる理由がわかった気がする。
失敗から学んだものがあるのだと。
「商人の護衛をしていたときだ。俺の勝手な行動が、依頼主へ怪我をさせたのは」
当然ながら、傭兵のミスで怪我をさせてしまえば傭兵に処罰が下る。
新米だったシュレはなにも言われなかったが、フィフィリスは処罰を受けた。
「傭兵組合の処罰は厳しいだろ。カロルは厳しい奴だったからな」
グレンはそういったことには関与していなかったこともあり、どのようなものかは知らない。
「俺も正確には知らない。聞いてもフィフィリスは教えなかった」
それ以降は処罰を受けるようなこともしていなかったからだ。
そして、処罰を受けるだけではなかったのだとも言う。
「フィフィリスにも怪我を負わせた。それは、俺がやってしまったことだ」
彼女は責めることはしなかった。責められたほうが楽だったが、楽になるなと言われているのかもしれないと今は思っている。
「勝手な行動と、根拠のない力の過信が起こした結果。同じことが起きるとは限らなければ、これより酷いことが起きるかもしれない」
「だから、アイカにあの態度か」
シュレなら軽く流すこともできれば、本当に嫌いならもっと冷たくすることも可能だ。
それをわざと喧嘩という形にしているのは、アイカの性格を理解してのこと。
なんとなく察していたが、やはりそうだったかと苦笑いを浮かべる。
「わかってて静観していたんだろ」
呆れながら見ていただけのグレン。止めようと思えば止められるのに、それをしなかったのは察していたからだとシュレも気付いていた。
「さすがに、俺はあそこまでじゃなかったが」
あれは酷過ぎると言えば、確かにと納得はする。
「悪くはないんだがな…」
少しだけ経験が足りないとグレンは思う。実力があるからこそ、なんでもできると思っているアイカ。
「昔の俺も思っていたが、結局のところなんでもできるわけじゃないんだ。それを後悔する形で知っても遅い」
「なんでも一人でやろうとするのも問題だけどな」
『それはシオンとリオンだ』
今ではマシになったが、あの当時はとにかく一人で抱え込む友人に困ったものだ。
言って直るようなことでもないし、とにかく気を付けて見ているしかない。
「それも面倒だな」
「そうだろ。でも、後悔したくないって気持ちからだからな」
簡単に止められるものでもないと、グレンは自然に変わるのを待つことにしていた。
先が無限にあるからできたことだと、これもわかっている。
人間よりは長生きなんだからゆっくりやっていけばいいと言われてしまえば、シュレも笑うしかない。
確かにそうかもしれないと思えてしまうのだ。
「俺は強くなりたい」
強いと思っていた頃、そうではないと思い知った。思い知らされたのだ。
「力だけではなく、本当の意味で強くなりたいと思った」
今度は彼女に守られるでもなく、対等に戦える存在になりたい。
守ることはできなくても、対等に戦うことはできるはずだと。
「強さは力だけじゃない、か。本当にそう思うさ」
『アクアか…』
「まぁな。武器が使えなくても、戦うことはできるとも教えられたしな」
元は神官でしかなかった妻は、三千年経っても武器を手にすることはない。それでも一緒に戦うのだ。
「お前といるには、そうであるべきだと思っているんだろ」
「シュレがフィフィリスへ思うのと同じわけだな」
これは、会わせたらその部分だけ気が合いそうだと笑う。他はわからないが。
.
情報を得ることや運動がしたいなど嘘ではないが、本当でもないと気付いていた。それでも突っ込まないのは、突っ込んではいけないと思っていたから。
彼は自分達とは違う世界で生きているのだ。こうして話せているだけでも十分だろうと思っていた。
「俺はなにか役に立てるのか」
しかし、突っ込んでいいと言うなら突っ込みたいと思う。
「わからないが、俺はお前がいてくれるなら助かると思う。ただ…」
「強くなりたいんだ…」
なぜ突っ込みたいのか知りたいと思っていたが、問いかけるより前にシュレは自嘲気味に言った。
「フィフィリス・ペドランのためにか」
「そうだ」
惚れた女傭兵のためだろうと思っていたが、それがなぜなのか。気になっていたのはそこだ。
そして、それはアイカを嫌うことへも繋がるのだろうとも思っていた。
少しばかり考えていたシュレは、一度息を吐くと話し出す。
「俺は母親がハーフエルフ、父親が人間だ。人間の血が濃くて、魔力は弱く魔法は不得意。傭兵をやるには不向きだとわかっている」
それでもやらなくてはいけない。そんな状態になってしまったのは、里に流行り病が広がってしまったこと。
母親と妹のため、治療費を稼ぐのに傭兵組合へ向かった。
「当時のトップ二人には拒否られたが、自分が組むからとフィフィリスが受け入れを認めるよう動いてくれた」
すでに傭兵組合のトップクラスで仕事をしていたこともあり、絶大な信頼があったフィフィリス。
彼女が言うならと、常に組むことが条件で傭兵組合へ入ることが許された。
『弓だけじゃな。一人で動けない傭兵は依頼がこないか』
仕方ないことかもしれない。理不尽だと思うが、組織としてはそのような傭兵を受け入れることはできない、というのもわかる。
しばらくは二人で組む日々。簡単な魔物退治から始まり、シュレの実力を試すような仕事だった。
「弓しかできなくても、俺は自分の腕を疑いもしなかった。なんでもやれると思っていたし、あのときは感情的だった」
その言葉で、シュレがアイカにたいしてあのような態度をとる理由がわかった気がする。
失敗から学んだものがあるのだと。
「商人の護衛をしていたときだ。俺の勝手な行動が、依頼主へ怪我をさせたのは」
当然ながら、傭兵のミスで怪我をさせてしまえば傭兵に処罰が下る。
新米だったシュレはなにも言われなかったが、フィフィリスは処罰を受けた。
「傭兵組合の処罰は厳しいだろ。カロルは厳しい奴だったからな」
グレンはそういったことには関与していなかったこともあり、どのようなものかは知らない。
「俺も正確には知らない。聞いてもフィフィリスは教えなかった」
それ以降は処罰を受けるようなこともしていなかったからだ。
そして、処罰を受けるだけではなかったのだとも言う。
「フィフィリスにも怪我を負わせた。それは、俺がやってしまったことだ」
彼女は責めることはしなかった。責められたほうが楽だったが、楽になるなと言われているのかもしれないと今は思っている。
「勝手な行動と、根拠のない力の過信が起こした結果。同じことが起きるとは限らなければ、これより酷いことが起きるかもしれない」
「だから、アイカにあの態度か」
シュレなら軽く流すこともできれば、本当に嫌いならもっと冷たくすることも可能だ。
それをわざと喧嘩という形にしているのは、アイカの性格を理解してのこと。
なんとなく察していたが、やはりそうだったかと苦笑いを浮かべる。
「わかってて静観していたんだろ」
呆れながら見ていただけのグレン。止めようと思えば止められるのに、それをしなかったのは察していたからだとシュレも気付いていた。
「さすがに、俺はあそこまでじゃなかったが」
あれは酷過ぎると言えば、確かにと納得はする。
「悪くはないんだがな…」
少しだけ経験が足りないとグレンは思う。実力があるからこそ、なんでもできると思っているアイカ。
「昔の俺も思っていたが、結局のところなんでもできるわけじゃないんだ。それを後悔する形で知っても遅い」
「なんでも一人でやろうとするのも問題だけどな」
『それはシオンとリオンだ』
今ではマシになったが、あの当時はとにかく一人で抱え込む友人に困ったものだ。
言って直るようなことでもないし、とにかく気を付けて見ているしかない。
「それも面倒だな」
「そうだろ。でも、後悔したくないって気持ちからだからな」
簡単に止められるものでもないと、グレンは自然に変わるのを待つことにしていた。
先が無限にあるからできたことだと、これもわかっている。
人間よりは長生きなんだからゆっくりやっていけばいいと言われてしまえば、シュレも笑うしかない。
確かにそうかもしれないと思えてしまうのだ。
「俺は強くなりたい」
強いと思っていた頃、そうではないと思い知った。思い知らされたのだ。
「力だけではなく、本当の意味で強くなりたいと思った」
今度は彼女に守られるでもなく、対等に戦える存在になりたい。
守ることはできなくても、対等に戦うことはできるはずだと。
「強さは力だけじゃない、か。本当にそう思うさ」
『アクアか…』
「まぁな。武器が使えなくても、戦うことはできるとも教えられたしな」
元は神官でしかなかった妻は、三千年経っても武器を手にすることはない。それでも一緒に戦うのだ。
「お前といるには、そうであるべきだと思っているんだろ」
「シュレがフィフィリスへ思うのと同じわけだな」
これは、会わせたらその部分だけ気が合いそうだと笑う。他はわからないが。
.
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
次は幸せな結婚が出来るかな?
キルア犬
ファンタジー
バレンド王国の第2王女に転生していた相川絵美は5歳の時に毒を盛られ、死にかけたことで前世を思い出した。
だが、、今度は良い男をついでに魔法の世界だから魔法もと考えたのだが、、、解放の日に鑑定した結果は使い勝手が良くない威力だった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる