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第25話 孝子嬢の災難?

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 2028年も押し迫ってきたんだが、先週あたりからウチの孝子嬢の顔色が優れない。
 雇い主の俺としては気になるから昼休みを狙って声をかけたんだが、孝子嬢にどうもストーカーが居るらしい。
 
 孝子嬢曰く、JR東小金井駅から車内で同じ列車に乗り合わせる若い男(二十代後半から三十代)につけられていると言うのだ。
 最初はあまり気にしなかったのだが、車内でねめつけるような視線に気づき、いつもの出勤時間を変えてみたが、どうも駅前で張っているらしく、同じ列車に乗り込んでくるんだそうだ。

 わざと途中の駅で降りてみて次の列車に乗り換えりもしたが、最近はあからさまにつけていることを隠そうともしない。
 孝子嬢は東小金井駅の北側にあるハイツ〇●に住んでいるが、そこもその男に知られていて、ここ三日ほどはそのアパート付近で張り込んでいる様子が窺えるそうだ。

 男は身長が180センチ近くある大柄な男であり、孝子嬢も身の危険を感じて、警察にも相談に行ったのだが、生憎と今のところ遠目に見ているだけで特段の罪を犯しているわけでもなく、ストーカーかも知れないが、それだけで警察が動くのは難しいらしい。
 確かに被害者意識だけの訴えでは警察も動きにくいのだ。

 具体的なDVなんかがあれば裁判所等から接近禁止命令を発出することも可能だが、「お前の顔が気に食わないから俺に近づくな」、あるいは、「あんたの顔が怖いから私に近づかないで」と言っても常識的には理不尽な訴えになるだろう。
 ヤクザならそんな時には力づくで追い払うだろうけれど、一般人は無理だな。

 だが、俺ならば違う対応も可能だ。
 ちょっとばかり高くつくかもしれんがな。

 金銭的な物じゃなく主として精神的なストレスになるんだが・・・。
 雇い主の俺としては、必要な処置をとるしかない。

 孝子嬢には男について調べた上で必要な処置をとってみようと言っておいた。
 明らかに孝子嬢はほっとしていたようだ

 その日は帰宅する孝子嬢を密かに尾行することにした。
 で、東小金井駅で降りたところから孝子嬢を尾行している男に気づいたよ。

 男の人相風体を確認し、取り敢えず孝子嬢がアパートに戻るまで見届けた。
 男は暫くアパート周辺で張っていたが、やがて自宅へ戻り始めた。

 男の住まいは同じ小金井市内東町のアパートだ。
 但し、孝子嬢のアパートが東小金井の北側なの対して、この男のヤサは駅の南側だ。

 早速男のアパート周辺にいた霊や妖精などから情報収集した。
 男は、矢島やじま俊一しゅんいち、31歳だ

 フリーターらしいが、時間調整が自由なパートなので、どうも孝子嬢の出勤時間に合わせた張り込みが可能らしい。
 奴の背後霊からも聞いたが、この男は前科こそないが、高校生時代には万引きで二回補導歴がある男だし、未だに万引きを色々やっているみたいだ。

 そうして危ないのはストーカーによる犯罪歴がある男だということが分かった。
 残念ながら襲われた女性の方が泣き寝入りしてしまったので、この男は罰せられていない。

 もう一つ、孝子嬢の周辺を探って驚いたのは、予備軍的な存在が孝子嬢の周囲に数人いたことだ。
 孝子嬢も相応に美人だからな。

 あわよくばと狙う男が結構いるみたいだ。
 淡い恋慕程度なら放っておくんだが、恋情よりもセックスを優先する野獣のような男たちのようだから、いつ、理性のタガが外れるとも限らん。

 ウーン、このまま放置するのはまずそうだ。
 決して独占欲とかそういうのではないんだが、雇用主として彼女を庇護ひごする責任があるだろう。

 ということでウチの居候にお願いして、よこしまな情欲を持っている男たちに成敗を頼んだ。
 あ、命を取れとまでは言っていない。

 だが、前科が無くとも強姦等の犯罪歴がある男には、男の機能を奪ってもらうようにお願いしたよ。
 以後は死ぬまで不能だな。

 俺なりの処罰だ。
 お陰様で俺の方は十日ほど睡眠不足が続いたな。

 今回のお助けマンは、高校時代の修学旅行で北海道に行った際にとりついた「パウチカムイ」という憑依霊だ。
 まぁ、アイヌ版のサキュバスと考えればわかりやすいかな。

 こいつは俺が依頼をすると、一晩に一回のセックスを連続三日間で俺に強要してくる。
 おまけに今回は人数が多かったから十日連続だ。

 生憎と俺が果てりゃぁ済むというものじゃないんだぜ。
 彼女が満足するまで果てしなく続くサドンデスだ。

 俺もその間は放出できないんだ。
 本音ベースでこれは男にとってはキツイんだぜ。

 そのおかげで、目の周りに隈ができたぜ。
 まぁ、そのおかげできっちりと危ない野郎に仕置きはできた。

 俺が寝られなかったと同様に奴らは毎夜悪夢にうなされた。
 そうして俺の奉仕が終わった段階では、合計4人が男としての生殖機能を失っていた。

 本当はレンチャン12日間になるはずだったが、パウチカムイの方が俺の体力が持ちそうにないということで少しまけてくれたんだ。
 因みにパウチカムイは、凄い美人だぜ。

 年のころは一応二十歳くらいに見える若い女性だな。
 長い黒髪で、組紐で縛って背後にまとめている。

 二重瞼ふたえまぶたで瞳は一見して黒目に見えるが、実は少し緑がかった濃い紺色だな。
 顔の彫は深いな。

 肌は抜けるように白い肌で、どちらかというと丸顔。
 座高が低く、手足が長いので多分アイヌの種族的特徴をひいているんだと思う。

 おっぱいはそれほど大きくはないけれど、そこそこある。
 ウェストが細いんで、凹凸がはっきりしていて、出るところは出ているように見え、スタイルは抜群だぞ。

 多分、髪の色を茶髪か金髪に染めて、瞳の色を薄い青に変えれば、白人種でも通用する。
 そんな素敵な女性を抱けるんだから男にとっては極上の褒美なのかもしれんが、結構きついんだぞ。

 実は俺は未だにDTなんだぜ。
 少なくとも生身の女性とセックスしたことは一度もないが、仮想空間みたいなところで、いろんな女とやりこんでいる痴人だな。

 まぁ、そんな話はともかく、小室孝子嬢については、彼女自身の美貌の所為で周囲から狙われる傾向にありそうなので、現在の東小金井のアパートから俺の家に住まいを変えないかと打診してみた。
 俺の住まいは、渋谷区松濤の豪邸で8LDKもあって、今のところは妹が同居中だが部屋は余っている。

 尤も、塩崎紀子という元居住者の霊が邸に居ついているけどね。
 惨劇のあった紀子嬢の部屋をきれいに改装しているので、塩崎紀子嬢の霊が現れるとしてもそこだけで、普通の人には紀子嬢の霊は見えないはずだ。

 小室孝子嬢が若し霊感の強い人ならあるいは見えるかもしれないが、塩崎紀子嬢は悪さをするような霊魂じゃない。
 行き場を失って狭間に居るだけの存在だ。

 今は俺の「蔵」の住人でもある。
 事務所で俺の邸への転居を勧めたら、小室孝子嬢が5分ほども固まっていた。

 仕方無いから俺も彼女の顔をじっと眺めていた。
 やがて、茫然自失から彼女が気づいたようでポッとほほを染めながら言った。

「あのぅ、迷惑じゃありませんか?」

「いや、別に迷惑にはならんよ。
 但し、同居している妹にもお願いしているんだが、余裕があれば家事を手伝ってほしい。
 家賃は、これまで君が支払っている金額で良い。
 食費は、居候の妹も居るから無料でも構わないんだが、・・・・。
 できる範囲で炊事当番をしてくれるという条件で、無料にしよう。
 どうかな?」

 少し考えてから、孝子嬢は頷いた。

「所長さんが宜しければ、それでお願いします。」

 うん、今年のクリスマスは松濤の邸で三人で過ごすことになりそうだ。

 ◇◇◇◇

 私は小室孝子、27歳になって完全にアラサーだ。
 恋人は今のところいない。

 できれば恋人になってほしいなという人はいるけれど、チョット遠い。
 近くにいるんだけれど手が届かない人だ。

 でも他にウザい男が私の周囲に居ることに気づいてしまった。
 朝の出勤時に同じ電車に乗り込んでくる奴だ。

 格好は至極普通の男に見えるが、何となく私が好きになれないタイプだと初見で判断した。
 私の勘はよく当たる。

 そう言いながらも、元カレの件では、男の本性を見間違えてしまったから私の勘も当てにはならないのかもしれないけれどね。
 朝の出勤時に電車の中で私の近傍に必ず立っている男が居る。

 年齢は二十代後半から三十代前半と思われる男で、まぁフツメンだろうけれど、身長は高いし、肩幅も広い男だ。
 その男が私を値踏みするようにねめつけて来る視線がとても嫌だった。

 避けるために途中の駅でホームに降りて次の電車を待っても、男が追いかけるように降りて私の背後に立つ。
 今のところは視線を向けて来るだけで悪さはしていないが間違いなくストーカーだ。

 帰宅時には東小金井駅で待っていることに気づいたのは1週間前のことだ。
 以前から同様のことをしていたのかもしれないが、私が気づいていなかったのだろう。

 気になると意識してしまい、ますます男が怖くなる。
 警察にも相談してみたが、悪いことをしていないのであれば警察も民事不介入で動くのが難しいとのことで対応してくれそうになかった。

 そんなこんなで精神不安定になり、仕事上でも少しミスをしてしまった。
 そうしてその情緒不安定な様子が所長にも知られてしまったようだ。

 事務所で、顔色が悪いけれど何かあったかとたずねられた。
 迷ったけれど、所長に事実関係を話し、相談してみた。

 話を聴いた上で、所長が言ってくれた。

「その男について調べた上で必要な処置をとってみよう。」

 所長にそう言われただけで不安感が一気に吹き飛んだことを感じた。
 あぁ、これは私が所長さんを頼りにしているんだとつくづく思った。

 そうしてその日から四日後少しやつれた所長さんが私に言ってくれました。

「あの男のことはもう心配しなくても良いよ。
 君にまとわりつくことはない筈だ。」

 そうして、その通りになりました。
 所長さんが何をしたのかは知りませんが、少なくとも例のストーカー男は私の周囲から消えたのです。

 でもそれから1週間もたたないうちに所長さんから驚くような提案がなされました。
 何でも今私が住んでいる東小金井のアパートの周辺には危ない奴が多数いるそうなので、私さえ構わなければ所長さんの家に住まないかというご提案でした。

 一瞬、嫁に来ないかと言われたような気がして、私固まってしまいました。
 どのくらい固まっていたのかは不明ですが、目の前には心配顔の真摯な目をした所長さんが私をのぞき込んでいます。

 私も暫し、彼の顔をまじまじと見つめていました。
 所長さんにはいかがわしい情念なんか欠片も見えなかったように思います。

 ただ、一週間前から比べるとかなりやつれた所長さんの顔が痛々しいように思えました。
 私は所長さんの提案に乗りました。

 乗ったというよりは飛びついたという方が正確なんじゃないかと思います。
 だって、近づけないと思っていた人と同じ屋根の下で暮らせるんです。

 正直なところ、お手付きでもいいから私を抱いてほしいとその時に本気で思いましたね。
 これは大きなチャンスなんです。

 玉の輿になるのかどうかわかりませんが、豪邸の持ち主である若く好ましい男性のすぐそばに住めるんですから・・・。
 でも、所長さん、私のことどう思っているんでしょう?

 ちゃんと女としてみてくれていますか?
 そこがとても心配なんです。

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