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第十二章 異世界探訪

12ー11 クアルタス その三

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 ハンターギルドを出た俺は、取り敢えずギルドが紹介してくれた宿に顔を出し、十日分の宿代を前払いし、それからエルベアの城門を出て市街地の探索に出た。
 ハンターとしてもやっていけるとは思うのだが、確認のための探索でもある。

 薬草についてはギルドに備えられていた薬草図鑑を確認し、ゴーレムに記憶させて現在周辺を調査させているところなんだが、俺自身も動かないと傍目には何もしていないように見えるのはまずいだろうな。
 俺のゴーレム達は仕事が速いからな、周辺の植生を半日で調べ上げて何処に何があるのかかなり詳細なマップを造り上げてくれた。

 で、俺の脳内マップと重ね合わせることで、そのまま情報としてインプットされたことになる。
 常設依頼の薬草三種、「ナジャパ」、「ドーシャ」、「ラァルピ」を取り敢えず30把ずつ集めたよ。

 依頼は10把なので、それぞれ三束ずつにしたわけだ。
 これらはポーションの作成に使う薬草のようだ。

 それと、常設依頼ではないが、「アジャマド」、「ケィラ」という上級の傷薬を造るのに必要な薬草も一応亜空間の収納庫に入れている。
 この亜空間収納庫では時間経過を十万分の一にしているから鮮度を保つのに都合が良いのだ。

 魔物の類も居るには居るが、左程に群れてはいないようだから恐らくは群れる前に討伐されているんだろうと思う。
 その分、この長城内では安全になるだろうからな。

 ゴブリンが群れたりすると上位種に変化する奴も出て来るから特に注意をしているのかもしれない。
 念のため上位種の魔物の探索を試みてみたが俺のマップには引っかからなかった。

 ゴーレムの情報によれば、エルベアから見て北西側の都市「セルバド」付近でゴブリンの集落ができつつあるようだが、これも大きくなれば討伐隊が編成される見込みと報告してきている。
 いずれにせよこのエルベア周辺は、長城内であればかなり安全な地域と思われる。

 エルベアの役所等で記録を調べているゴーレムからは、稀にワイバーンに近い飛行種が長城を越えて侵入することがあるらしく、長城では上空までの結界は張れていないので、被害が生じることもあるようだ。
 但し、エルベア市内への侵入は今のところ無いらしい。

 エルベアの周囲を取り巻く城壁は上空にまで及ぶ半球状の結界を生成しているためにワイバーン程度の侵入は防げるらしい。
 俺自身もいろいろ歩き回ってエルベア周辺の状況確認をできたと思う。

 日没にはまだ早いのだが、ハンターギルドに戻って、クエストの確認をしてもらいその上で宿に戻ることにした。
 その際にハンターギルドの受付嬢からエルベアで一番大きな教会を教えてもらった。

 できるかどうかわからないが、クアルタス世界の神様というか管理している超存在と話ができないかと思っている。
 普通ならできないんだろうが、できて「めっけもの」程度で試してみるだけだ。

 神様のような存在と話をしてどうするかって?
 「オヴァデロン」を放置するのもまずいと思うので、可能であれば退治を試みても良いかどうかを確認してみるつもりなんだ。

 万が一、オヴァデロンの存在自体が別の災厄の発生を抑えているのであれば、退治すること自体控えなければならないだろう。
 弱肉強食は世の理とはいえ、そもそも俺自身はこの世界に属している者じゃない。

 余所者が下手に手を出して、世界のバランスが崩れてもまずかろう。
 アルノス幼女神様なら、俺の存在自体が許されているのだから討伐が必要と思うならばやっても良いと言うかもしれないが、この世界の神様的存在の考えは違うかも知れんし、万が一の場合、俺が排除される側に回っても困るからな。

 もし、連絡が付かないのであれば、自分の思い通りにしてみようとは思っている。
 ただまぁ、物理攻撃も魔法攻撃も聞かない化け物らしいからな。

 俺も色々と討伐方法は考えてはいるけれど、ダメならダメでそこまでの話だ。

 ◇◇◇◇

 教会に行って喜捨をし、聖堂でお祈りをさせてもらった。
 果たして、祈ると神様が俺の目の前にいた。

 というより、俺の方が神様らしき人物の前に飛ばされたというか、天界に呼ばれたようだ。
 さっきまでいた教会の聖堂とは明らかに雰囲気が違った場所に居るからな。

 俺の前に居る神様は若いな。
 幼女神様程若くはないが、俺の見たところ十代後半程度の年齢に見える。

 当然見た目と実年齢は違うのだろうけれどね。
 アルノス幼女神様ですら数千年を経た存在だ。

 同じ比率なら万年を超える存在かも知れない。

「異界の者よ。
 僕に用事かな?」

「えーと、ハイ、できればお会いしたいと思ってお祈りいたしましたが、貴方がこの教会の主神であるエンカナ様でしょうか?」

「地上人達は、僕のことをエンカナと呼んでいるらしいね。
 本来の名前は違うのだけれど、別にエンカナでも構わないよ。
 それで、用件は?」

「はい、実はオヴァデロンのことですが、この長城の中の領域であるファレズに接近しているようです。
 このまま放置すると、100年以上も前に起きたような、オヴァデロンが長城を破壊し、内部に住む者達に大きな被害を与えそうです。
 貴方がご指摘の通り、私はこの世界の住民ではなく異界から立ち寄っている旅人に過ぎません。
 それでも多くの住民の命が消えるのは忍びないので、何とかしたいと考えて居ますが、そもそも、異界の私がオヴァデロンを害すること自体が許されるのか否かについて、この世界を管理若しくは見守っている神様に確認をしたかったのです。」

「フム、用件は分かった。
 僕はこの世界を見守るものであるけれど、管理はしていない。
 むしろ、この世界は放任されていると言っても差し支えないだろう。
 栄えるも滅びるもそこにあるモノたち次第じゃ。
 そうして、たまたま異界よりの訪問者と言うイレギュラーが介入しても、特段問題は生じない。
 この世界はなるようにしかならないから、それを見守るのが私の仕事でもある。
 従って、其方があのオヴァデロンを退治するのは一向にかまわぬ。
 但し、オヴァデロンが消滅すれば魔境の魔物たちが活性化するやも知れぬ。
 オヴァデロンが死滅するに際して膨大なジャドーサとバープを周囲に拡散することになる。
 それは魔物たちの活性化を促し、レベルアップを導くことになるだろう。
 従って、その後の対応を誤ると、長城は他の魔物により破壊されるやも知れぬぞ。」

「恐れ入りますが、今少し、教えてくださいませんか?
 『ジャドーサ』と『バープ』とは何なのでしょうか?」

「ジャドーサは魔法を発するに必要な魔力の元となるもの、バープとはそれに触れるだけで変化へんげもたらし、あるいは、死を早める毒のようなモノじゃ。
 ジャドーサを魔法因子と呼び、バープを瘴気因子と呼ぶ者もおるようじゃな。」

「例えば、オヴァデロンを退治する際に、そうしたモノが拡散しないように結界を張ることはできましょうか?」

「結界?
 神気を帯びた結界ならばできるやもしれぬが、其方にそれができるのか?」

「私もヒト族に過ぎませんので、神気は無理かもしれません。
 では、別な空間に放り込んでしまえば、ジャドーサとバープがこの世界へ漏れることは無くなると考えても宜しいですか?」

「ほかの異界への転移を考えておるなら止めておいた方が良いな。
 その転移した地が穢れ、そこで魔物が発生することになろう。」

「通常の空間ならばそうなのでしょうね。
 でもこちらの世界とは全く法則が異なる世界ならばどうでしょう。
 そのような世界では、そもそもジャドーサとバープが発生しないかもしれません。
 他にも時間の牢獄に閉じ込めるというのもありそうですけれど・・・。」

「ほう、其方にそのような力があるのか?
 なかなかに興味深い話じゃの。
 まぁ、先ほども言うたとおり、どのようになろうと、僕は関与しない。
 地上には干渉せず、僕はただ見守るだけの存在だよ。
 そなたとの会見は例外的な暇つぶしだ。
 他に用件が無ければこれで会見を終える。」

 一呼吸する間に、俺は元の聖堂に戻っていた。
 今回の会見は、彼の思い付きとも言える単なる暇つぶしだったみたいだから、今後はアルノス幼女神様みたいに簡単に会ってはくれそうも無いなあ。

 まぁ、とりあえずの言質は取ったから良いか。
 俺は教会の司祭に礼を言って教会を出た。

 ハンターギルドが紹介してくれた宿は、左程高級ではないがハンターが泊まるにしてはもったいないほどの良い宿のようだ。
 最初、ギルドの受付嬢からは安いところが良いのかと尋ねられたので、高くても良いから設備が整っていて飯が上手いところと注文を付けたら、教えてくれたのはバウマン亭という宿だった。

 バウマン亭はこのエルベアでも老舗であり、大商人など裕福な者達が利用する宿のようだ。
 当然、宿代も高い。

 一泊二食付きで、金貨二枚が取られる。
 通貨の換算は不明だが、金の含有率と重さから類推して、金貨一枚は俺が召喚された時代の日本で10万から13万程度じゃないかと思われるよ。

 まぁ、1泊で20万円から26万円は、食事付きとはいえ、高い宿ではあるよな。
 俺のインベントリには金貨が山ほどあるから経済的には別に困りはしないが、・・・。

 こいつは俺が作った本物以上の贋金にせがねだからな。
 余り流通させると経済が崩れるかもしれんから、無駄遣いは避けるつもりではいる。
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