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第十二章 異世界探訪

12ー10 クアルタス その二

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 俺が衛兵に捕まったのは昼下がりなんだが、さしたる調べもないままにすぐに留置場?、牢屋?に放り込まれたので、おれの初めての「牢屋でのお泊」りという変事が発生した。
 自慢じゃないが、地球を含めてこれまでこの手の収容施設に入れられたことは無い。

 多分地球なら余程の発展途上国でもなければ無いような施設だった。
 何故なら暗い地下の穴倉で、見るからに不潔で不衛生、湿気が多く、ついでに表現しにくい匂いなんだが非常に臭いんだ。

 ふた昔も前ならこんな施設も有ったのだろうが、日本じゃ江戸時代の牢屋でも肥溜めの匂いは多少はしても中は綺麗にしていたそうなんだが、ここは中世ヨーロッパに似た雰囲気だから、止むを得ないところではあるのかな?
 こんなところで一晩寝たら絶対にノミやシラミに(アレッ、いるのかな?)たかられるだろうな。

 牢に入れられてすぐにやったのは、周囲に気づかれないように、俺の身体の周囲に結界を張って、害虫が俺の地肌に直接触れないようにすること。
 少なくとも俺の入っている牢内の空気を入れ替え、新鮮なものにすること。

 地球から持ち込んだ活性炭素が主成分のスプレータイプの消臭剤を振りまいて臭いをできるだけ消したこと。
 その後で浄化魔法を掛けて牢内を綺麗にしたこと。

 俺の座る場所ぐらいはしっかりと拭き掃除もしておいたよ。
 座布団なんかも俺のインベントリには入っているから出そうと思えば出せるけれど、出せば色々と勘繰られるので止めにした。

 俺が持っていたダミーの旅行カバンが取り上げられているから、今俺が見に付けているモノ以外は手元にない。
 当然のことながらナイフを少し大きくしたようなこの世界の旅行者用の刀剣類も取り上げられている。

 日本の警察が逮捕時に行うような裸にひん剥いての身体捜索までは無かったが、着衣の上から隠し武器が無いかどうかボディ・タッチで確認されたな。
 その後、ゴーレムが探った情報では、どうも人違いのようだということがわかった。

 何でもこの町の騎士団員の家が強盗に遭い、妻子が殺されたようだ。
 その現場付近で見かけられた男の風体が俺に良く似ていたようだ。

 残念ながら目撃した男が用事で隣町に出かけているために首実検ができないために、取り敢えず、取り調べもせずに牢にぶち込まれているというわけなんだが、実は俺以外にも十人以上の容疑者が掴まっているらしく、俺の取り調べが当分後になるらしい。
 一方で俺のゴーレムは優秀だからすぐに犯人に至る手がかりを見つけ、犯人を特定している。

 何しろ地球の22世紀や23世紀の科学捜査の情報と代替手段があるから、犯罪の痕跡から犯人を割り出すのは左程難しいことじゃないんだ。
 問題は、この世界の実情に合わせて立証することができるかどうかなんだが・・・。

 うん、まぁ、証拠はあるな。
 襲撃した家で盗んだ首飾りと腕輪が、犯人ホシの秘密の隠し場所に隠されている。

 それが表に出されれば有罪は確定だ。
 隠し場所には、多分、別の犯罪で盗んだものであろう宝石類や金貨を含む貨幣などが結構あるんだ。

 男は、表向きこの城塞都市で小商いを営んでいるがそっちは偽装で、ほとんど売上げらしきものが無く、本業は盗人ぬすっとだ。
 尤も、これまで人を殺したことは無いようなのだが、今回は家人に気づかれてしまったために、気が動転して弾みで、持っていた匕首あいくちを使って、殺してしまったらしく、傍にいた子供も現場を見られたからと刺殺しさしころしたようだ。

 旦那の騎士はと言えば、たまたま夜勤があって、不在だったようだ。
 で、その男の風体なんだが、まぁ確かに俺の風体と似ているよ。

 だって、俺がこの世界に入り込むのに必要だから、極々ありふれたファッションという奴を選んだために、10人の若い男が居れば少なくとも半数は同じような衣装を着ているぜ。
 地球で言えばビジネススーツの営業マンのようなものだ。

 多少の違いはあってもほとんど同じデザインだろう。
 まぁそれに近いから、この世界ではごくありふれた衣装ってことになる。

 特に男の衣装の場合は、ご多分に漏れず黒っぽい色合いが多いから、地球でも黒っぽいスーツ姿の男で探せば朝のラッシュ時の駅周辺にはごろごろしているだろう。
 そうは言いながら昔の十手捕り縄の時代に近い、中世文明の捕り物では、人からの聞き取り情報が主にならざるを得ないよな。

 それにしても似た風体の男だからといって、いきなり槍を突き付けて牢屋に放り込むってのも随分ご無体な話だよね。
 因みに真犯人の体型はちょっと小太りだから俺の体型とは違うし、身長が俺よりも低い。

 顔は何というか・・・。
 まぁ、不細工だな。

 目撃者が顔を覚えているなら絶対に俺と間違えるはずもないだろう。
 それでも俺を無罪放免してくれないなら、俺が動かずに犯人を捕まえる様な手配を考えなければならないな。

 こんなのが当たり前なんだと納得せざるを得ないんだろうけれど・・・。
 仕方がないよね。

 結局、牢屋にお泊りだった。
 何だかんだと言っても、翌日昼頃になって目撃者が戻って来たので首実検。

 俺も無罪となって釈放しゃくほうになりました。
 でも、「御免」という謝罪の一言も無かったんだよなぁ。

 お上ってのは、強い権限を持っているからね。
 権力行使はよく考えて使ってよね。

 釈放された俺が最初にすることは、冒険者ギルドならぬハンターギルドに行って、登録すること。
 偽造の出自証明書は一応持っているんだが、証明書代わりにハンターギルドの資格証を入手することにした。

 ハンターギルドの受付に居た可愛い女の子、名前はヒルダさんと言うようだ。
 肌は黄色人種に近い色で髪は金髪なものだから、何となくコスプレをイメージしちゃうけれど、自前のものだから良く似合っているな。

 俺の前でにっこり微笑んでご想像通りラノベでも良く見る言葉を紡いでくれた。
 一見して十代なんだが・・・。

 実はこのヒルダ嬢、御年207歳(27歳の間違いじゃないぞ二百七歳だ)で独り身、適齢期なんだそうだ。
 俺って、これまで地球への訪問やら亜空間の世界への訪問などで実体験的には優に50歳を超えている筈だけれど、彼女から見ると幼児ぐらいにはなるのかな?

 まぁ、偽造した出自証明書には一応年齢28歳にしている。
 俺が地球からホブランド世界に召喚されたのが「ベルム歴724年晩秋後(月)の16日」、その時ステータス上は17歳だったからな。

 ホブランドの暦の上では、ベルム歴732年初春(月)24日だから現在の年齢は25歳(但し、1年480日だからな!)になるんで別に不思議ではない。
 俺は年齢に似合わず(??)、二十代前半に見えるんだが、嫁sに言わせればさほど違和感はないようだ。

 このクアルタス世界では25歳が成人年齢のようで、20歳から24歳までは半分成人の「見習い扱い」のようなので敢えて28歳にしたんだ。
 良くわからんが、長寿化が進むとこんな風になるのかねぇ。

 ギルド内が比較的忙しくなかったようなので、情報収集を兼ねて色々とヒルダ嬢とも駄弁っていたんだが、テンプレの新人虐めみたいなことは無かったね。
 取り敢えず初心者で最低位の7級からスタートだ。

 クエストの中には俺が疑われた例の強盗殺人事件の犯人探しも有ったが、こいつは生憎と三級以上の仕事だな。
 俺はと言えば、定番の薬草探しから始めることにした。

 こいつは特段のが無い限り、常設依頼のようだ。
 他にも常設依頼では、スライム討伐、ゴブリン討伐、変わったところでは魔樹ジャドゥカの伐採なんてものがある。

 スライムやゴブリンは異世界によって多少の色形に変化はあるようだが、どこの世界でもさほど変わってはいない。
 ジャドゥカというのはどうもトレントのような植物性魔物の下位互換らしい。

 精々小動物を捕らえてその身体を養分にするぐらいなんで、危険性は少ないんだが、住居地に近い場合は幼児が捕らえられて死ぬことも有るらしい。
 動きは非常に緩慢なんだが、ちょうどぎりぎりで入れるぐらいの大きさのを造り、甘い臭いを出してそこに獲物が入ると入り口を閉めて出られないようにするみたいだ。

 大人や武器を持った者が居ればゆっくりと動くツルを断ち切って出ることも可能だが、幼児なんかにその力はない。
 子供よりは力の強いゴブリンでも無手で入れば出られなくなる恐れは十分にあるそうだ。

 一旦捕獲すると周囲から養分を吸い取る先端が尖ったツルが伸びて来て、獲物の身体を刺し、養分を吸いとるらしい。
 獲物がムロの中に捕らえられても、元気な間は無理だが、寝たりすると、じわじわとツルが巻き付き身動きできなくしてからあちらこちらを刺されて死ぬことになるらしい。

 因みにこいつはスライムには手を出さない。
 スライムにはこいつの養分になるものが無いようだ。

 従って、ジャドゥカは居住地付近で見かけたらできるだけ伐採することになっているんだ。
 根っこの部分にヤシの実に似た核があり、そいつを取りだして討伐の証拠にするようだ。

 ヒルダ嬢の話ではこのジャドゥカが密林の奥で育ってレベルアップすると灰色のトレントに代わるらしい。
 灰色から黒色に変化するほど年代を経ているトレントのようだ。

 トレントは、根を脚のように動かして移動できる巨大な植物性魔物のようだ。
 一応受付が不要な常設依頼を受けることにして、俺はギルドを出たが、最初にすることはタレコミだな。

 盗人で殺人犯の男の家を衛兵に報せ、盗んだ品物の隠し場所、凶器の匕首の在り処などを書きものにして、ゴーレムに衛兵の詰め所に届けてもらった。
 衛兵の詰め所ではいきなり出現したタレコミのメモ書きに驚くかもしれないが、こっそりおいて来るように指示をしているから左程不振には思わないだろうし、疑いがあれば捜査は進めてくれるだろう。

 強盗殺人事件についての俺の関与はここまでだな。
 俺は、エルベアの南門を出て市域外にでた。

 取り敢えずは、長城内での探索だな。
 ヒルダ嬢の話では長城の外では珍しい薬草があるけれど、せめて5級になるまでは長城内での活動に留める方が良いとアドヴァイスしてくれた。

 長城内でもそれなりの魔物は存在するようだ。
 まぁ、少々の魔物が出て来ても苦戦する心配はないと思っている。

 この長城内に棲息する魔物は全てゴーレム達が調べ上げてくれた。
 総じて俺の結界を破れるほどの魔物はいないから、どんな魔物が現れようと対処はできるはずだ。

 長城の外の魔境は、現在8体のゴーレムがドローンを使って調査中だが、奥地までは調査が進んでいない。
 但し、巨大な地竜と言っても良いオヴァデロンについては、衛星軌道に配置したゴーレムから報告があって、ファレズの略西南西からゆっくりと近づいているようで、このまま行くとおよそ149日前後で長城にぶつかるそうだ。

 今のところはファレズの住民は気づいていないようだが、放置すれば百年近く前の惨劇が再度起きることになる。
 さてさてどうすべぇかなぁ。

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