蕾娘

菊名 重陽

文字の大きさ
上 下
5 / 9

五話 あねさまの櫛

しおりを挟む
  
「あなたのおぐしをこうしてくしけずるのも、これがさいごよ」
「どうして?あねさま、お手々が痛くなったの?」
「いいえ、私は旅をやめるの」
「あねさまと一緒じゃなくなるの?」

「ご一緒いっしょしたいひとがいるの。この里山で治したひとよ、たくさんお話をして……。ずっとそばに居たいと思ったの。私これから先、そのかたと手をつないで生きてゆきたいのよ」
「わたしだって、あねさまと手をつなげるのに……」
「そうね。今はこうして朱鷺ときのお手々ててを握っていましょうね。おわかれはさびしいけれど――あなたもいつか、手を取り合って生きてゆきたいと思えるひとと出会うでしょう」

「このくしを私だと思ってちょうだいね。あなたが手をつないでいたいと思うひとと並んだら、姉様あねさまはあなたのお髪ぐしをこうして結い上げて、季節のお花で飾りましょうね。かわいいかわいい朱鷺とき、どんな花飾りが似合うかしら。さ、お手々を繋いで。今日のお花を摘んで、花飾りを作りましょうね」

 あの日、目もとをこすって濡れた手の甲は今では姉様あねさまによく似て、繋いだ手の温かさを思い起こします。
 つと、手負いのひとの手に触れ脈をとりますと、こわばりはあるもののとくとくと脈打っております。そっと手を握ると温かく、握り返されないことが――言いようもなくさびしいのです。

 脈打つ
 
 わたしのからだ

 女所帯の旅の一座。旅先で時々行われる、一連のあのいやしい「まじない」
 一族の女は、時おり一座からおりてゆく。姉様あねさまのように。

 厭悪えんおしていた「あれ」は、治す手立てだったのではあるまいか。わたしがふしだらだから、こんなことを思いつくのかと恥ずかしく……でも、それでも……

 わたしのからだに流れるすべてでもって、このかたを治したい
 振り払われてもいい、握り返されなくとも構わない。このひとの手に、身に、生きる力を――
 あねさま、どうかわたしにお力添えをくださいまし。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異文化の愛の旅

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:5

【R18】30歳、タイムループ始めました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:15

淫靡な香りは常日頃から

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:14

ある夜の秘密

現代文学 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:0

女は演じています 《※R18》

恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:132

中川先生の愛欲生活指導

恋愛 / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:10

[ R-18 ]淫母 昼下がりの告白

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:4,260pt お気に入り:9

【R18】どうか、私を愛してください。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:373

官能男子

BL / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:32

処理中です...