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日曜日。
ノッティング侯爵が許可を取ってくれたのでシャツにパンツスーツ(ただし貴族仕様)にエプロンと筆記用具持参でジェイド様に連れられて王城へやってきた。
「やあ!アリス」
「あ、シリル殿下にご挨拶を申し上げます」
「今日はまた、雰囲気が違うね」
「はい。雑用のお手伝いをしそうですので、エプロンも持参しました」
「この時間は料理は作っていないから大丈夫だよ。
話は通してあるから教えてくれるはずだ。
もし、意地悪な人がいたら名前と顔を教えてくれるかな」
「はい。ありがとうございます」
「お菓子の材料だよね」
「はい」
「じゃあ行こうか」
「殿下?」
「一緒に行くよ」
「め、滅相もございませんっ」
「ほら、また鞭が必要になるかもしれないし」
もう!揶揄って!
「その時はナイフを火で熱して投げます」
「それは……腹が立っても私にはやらないで欲しいな」
「もちろんです」
「補佐官、後は私が引き受けるよ」
「かしこまりました。失礼いたします」
シリル殿下と厨房へ行くと殿下の姿を見た人達が姿勢を正して挨拶をした。
「楽にしてくれ。今日はアリスの付き添いだから。
ずっとはいないと思うけど」
「アリス・ジオニトロと申します。本日はよろしくお願いします」
大きな声で挨拶をしてしっかり頭を下げた。
「これは素敵なレディですな。料理長のガレルと申します」
「ガレル様、よろしくお願いします」
「目的と要望を詳しく聞かせてくれませんか」
ガレル料理長に小さなお菓子屋を平民のメイドが開くこと、スポンサーが私だということ、安ければ材料に凝りたいことを伝えた。
「では、何通りかを掛け合わせて試作してみる方がいいですね。クッキーを作らせましょう」
「クッキーなら作れますので、よろしければ自分でやります。形は歪ですが味の確認ですので私で十分かと思います」
「分かりました。材料を揃えさせましょう」
どの材料も、最安値のものと貴族が口にするレベルのものとの2種類を用意してもらった。
小麦粉とバターを混ぜながら質問をした。
「ふすま粉って扱っていますか?」
「ん?小麦の外皮のことですか?」
「はい」
「下級使用人向けで混ぜていますね」
「ガレル様、私に敬語は不要です。教えていただきに来た小娘ですから、気遣いなくお願いします」
「分かった。で、何に使うんだ?」
「ふすま粉は健康に良いのですよ。健康を気にする方向けに使おうと思いまして」
「そうなのか!?」
「はい。お菓子は不健康の塊ですから、選択肢があっても良いかなと思いまして。他店との差別化も図りたいですし」
「よし、それも作ろう」
焼くのだけはやってもらって、その間は洗い物をした。
クッキーは貴族向け、安価、ふすま粉入りの3種。
ロースト済みのナッツを少し砕き、蜂蜜で軽くキャラメリゼをしてふすま粉入りクッキー生地の中に散りばめた。ドライレーズンを入れても良いと思う。
「美味い!」
「本当だ。これ、美味しいな」
ガレル料理長とシリル殿下は手間をかけた ふすま粉入りナッツクッキーを気に入ってくれた。
他の料理人もチラチラと見るので、菓子担当優先で半分に割って差し出した。
「これ…」
料理長はレシピを使わせてくれと言っているのね。
「あの、お店に並べたいんですけど」
「そうだよなぁ」
「アリス。材料を2割引きで分ける代わりにレシピを使わせてくれないか」
「え?販売したいんですけど」
「販売はしていい」
「でもうちの店が真似したみたいで嫌です」
「じゃあ、店が開店して1ヶ月経つまで待つから」
「いっそのこと うちの店から買ってはどうでしょう」
「大量に作れるのか?」
「来客用として出さないで、王族と使用人に限ってください」
「分かった」
「では、材料の横流しと、今の条件を書面にしてください」
「横流しって……割引な」
「はい、割引でした」
「普通のクッキーも手を加えるのか?」
「はい」
「「……」」
「教えませんよ。後 うちの店はクッキーだけではありません。いずれご贔屓にお願いします」
「普通のクッキー、すごくサクサクだ」
「そういえば何か混ぜていたね。何かな?」
「企業秘密です」
「アリスちゃん?」
「しっとりクッキーも出しますので ご贔屓に」
シリル殿下が嫌な動きをしたので、帰ることにした。
「わあー、こんな時間。帰らないと怒られちゃうー。殿下、契約書が出来たら送ってくださいませ、では、本日はありがとうございました」(棒)
「下手な演技だな。30分待って」
「嫌です。危険を察知したので帰ります」
「チッ」
やっぱりね。王妃様をヘルプに駆り出そうと 侍従に耳打ちしていたでしょう。聞こえなかったけど、勘が働いたの。断れなくなる前に帰らないと。
「では、失礼します」
競歩並みの速さでジェイド様のいる執務室へ向かった。ドレスじゃなくて良かった。
途中で通行証を見せて執務室に案内してもらった。
「アリス、お帰り」
「ジェイド様、ただいま戻りました」
「息が乱れているよ?」
「シリル殿下が王妃殿下を援護に要請なさって、危うく断れなくなるところでしたので逃げ帰って来ました」
「よく帰してもらえたね」
「追手が来そうなので帰っていいですか?」
「エリアーナの相手をしてやってくれ。自分も行きたいと騒いでいたからね」
「はい。ノッティング邸にお邪魔します」
再び競歩のように馬車乗り場まで行きノッティング邸に向かった。
勤務を終えたジェイド様が、“追手が探しに来たよ”と笑っていた。
ノッティング侯爵が許可を取ってくれたのでシャツにパンツスーツ(ただし貴族仕様)にエプロンと筆記用具持参でジェイド様に連れられて王城へやってきた。
「やあ!アリス」
「あ、シリル殿下にご挨拶を申し上げます」
「今日はまた、雰囲気が違うね」
「はい。雑用のお手伝いをしそうですので、エプロンも持参しました」
「この時間は料理は作っていないから大丈夫だよ。
話は通してあるから教えてくれるはずだ。
もし、意地悪な人がいたら名前と顔を教えてくれるかな」
「はい。ありがとうございます」
「お菓子の材料だよね」
「はい」
「じゃあ行こうか」
「殿下?」
「一緒に行くよ」
「め、滅相もございませんっ」
「ほら、また鞭が必要になるかもしれないし」
もう!揶揄って!
「その時はナイフを火で熱して投げます」
「それは……腹が立っても私にはやらないで欲しいな」
「もちろんです」
「補佐官、後は私が引き受けるよ」
「かしこまりました。失礼いたします」
シリル殿下と厨房へ行くと殿下の姿を見た人達が姿勢を正して挨拶をした。
「楽にしてくれ。今日はアリスの付き添いだから。
ずっとはいないと思うけど」
「アリス・ジオニトロと申します。本日はよろしくお願いします」
大きな声で挨拶をしてしっかり頭を下げた。
「これは素敵なレディですな。料理長のガレルと申します」
「ガレル様、よろしくお願いします」
「目的と要望を詳しく聞かせてくれませんか」
ガレル料理長に小さなお菓子屋を平民のメイドが開くこと、スポンサーが私だということ、安ければ材料に凝りたいことを伝えた。
「では、何通りかを掛け合わせて試作してみる方がいいですね。クッキーを作らせましょう」
「クッキーなら作れますので、よろしければ自分でやります。形は歪ですが味の確認ですので私で十分かと思います」
「分かりました。材料を揃えさせましょう」
どの材料も、最安値のものと貴族が口にするレベルのものとの2種類を用意してもらった。
小麦粉とバターを混ぜながら質問をした。
「ふすま粉って扱っていますか?」
「ん?小麦の外皮のことですか?」
「はい」
「下級使用人向けで混ぜていますね」
「ガレル様、私に敬語は不要です。教えていただきに来た小娘ですから、気遣いなくお願いします」
「分かった。で、何に使うんだ?」
「ふすま粉は健康に良いのですよ。健康を気にする方向けに使おうと思いまして」
「そうなのか!?」
「はい。お菓子は不健康の塊ですから、選択肢があっても良いかなと思いまして。他店との差別化も図りたいですし」
「よし、それも作ろう」
焼くのだけはやってもらって、その間は洗い物をした。
クッキーは貴族向け、安価、ふすま粉入りの3種。
ロースト済みのナッツを少し砕き、蜂蜜で軽くキャラメリゼをしてふすま粉入りクッキー生地の中に散りばめた。ドライレーズンを入れても良いと思う。
「美味い!」
「本当だ。これ、美味しいな」
ガレル料理長とシリル殿下は手間をかけた ふすま粉入りナッツクッキーを気に入ってくれた。
他の料理人もチラチラと見るので、菓子担当優先で半分に割って差し出した。
「これ…」
料理長はレシピを使わせてくれと言っているのね。
「あの、お店に並べたいんですけど」
「そうだよなぁ」
「アリス。材料を2割引きで分ける代わりにレシピを使わせてくれないか」
「え?販売したいんですけど」
「販売はしていい」
「でもうちの店が真似したみたいで嫌です」
「じゃあ、店が開店して1ヶ月経つまで待つから」
「いっそのこと うちの店から買ってはどうでしょう」
「大量に作れるのか?」
「来客用として出さないで、王族と使用人に限ってください」
「分かった」
「では、材料の横流しと、今の条件を書面にしてください」
「横流しって……割引な」
「はい、割引でした」
「普通のクッキーも手を加えるのか?」
「はい」
「「……」」
「教えませんよ。後 うちの店はクッキーだけではありません。いずれご贔屓にお願いします」
「普通のクッキー、すごくサクサクだ」
「そういえば何か混ぜていたね。何かな?」
「企業秘密です」
「アリスちゃん?」
「しっとりクッキーも出しますので ご贔屓に」
シリル殿下が嫌な動きをしたので、帰ることにした。
「わあー、こんな時間。帰らないと怒られちゃうー。殿下、契約書が出来たら送ってくださいませ、では、本日はありがとうございました」(棒)
「下手な演技だな。30分待って」
「嫌です。危険を察知したので帰ります」
「チッ」
やっぱりね。王妃様をヘルプに駆り出そうと 侍従に耳打ちしていたでしょう。聞こえなかったけど、勘が働いたの。断れなくなる前に帰らないと。
「では、失礼します」
競歩並みの速さでジェイド様のいる執務室へ向かった。ドレスじゃなくて良かった。
途中で通行証を見せて執務室に案内してもらった。
「アリス、お帰り」
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「はい。ノッティング邸にお邪魔します」
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