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苛立ち
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【 侯爵の視点 】
妻との婚姻は父上が決めたことだった。
妻の実家は裕福で、支援があったらしい。
だが その事実が私の心に劣等感を刻んだ。
長男が産まれたが、流行病で5歳になることなく死んでしまった。その病を持ってきたのは私だ。
使用人達は誰一人かかっていなかった。
私が最初に発症し、使用人にうつし息子にうつした。
結婚前から愛人を作っていた。その愛人からうつされたものだった。
熱が下がり完治して、愛人を囲っている部屋を訪ねると、愛人の身体は腐乱していた。
流行が落ち着くと また愛人を作った。
妻との間にはもう一人、子がいた。
オリヴィアだ。
第二王子の婚約者選定に勝ち残った。
王家と繋がりを持ち、妻の実家より格上になりたかった。
ある日、パーティで深酒をして屋敷に戻った。
誘いに乗る女がいなくてムシャクシャしていた。
屋敷にいる妻を使えばいいと妻の部屋に行った。
嫌いな女でも、女には変わりない。
だが拒否されて激昂した。
翌昼に目が覚めると屋敷の雰囲気がおかしい。
家令に聞くと妻が荷物をまとめて出て行ったという。
数日後、妻の父親が診断書と離縁届を持ってきた。
“顔の腫れ、口内と唇の裂傷、耳の裂傷、左耳の鼓膜の損傷、左目の視力低下、上半身の内出血の数27ヶ所、肋骨と腕と指3本の骨折、下半身の内出血の数19ヶ所”
『君は人間じゃない。獣だ。
さっさと署名しろ。さもなくば貴族裁判だ』
『せいせいしますよ』
署名して離縁した。
その後、後妻も考えたが、王家との縁談に影響のない女との出会いが無かった。
仕方なく娘と王子殿下の婚姻後に若い女を迎えようと思っていた。それまで愛人を作り、飽きては入れ替えていた。
『何だその目は!』
妻にそっくりの目元をしたオリヴィアが好きになれない。つい手を上げてしまう。
うっかり顔を叩いた後、王子妃教育に出せなくて、気を付けねばと服で隠れる所を殴ることにした。
酔って、夜会で引っ掛けた女を連れ帰ることもあった。
オリヴィアは成長していくにつれて表情が消え、主張をしなくなった。それがまた見下されたような気がした。
『お父様。次はアザがあろうと誤魔化しませんよ』
成人後、殴ろうとした時に言われた。
『は?』
『王子妃教育の中で着替えることもあります。今まではメイドに口止め料を払ってきましたが、もう止めます。メイドは報告するでしょう。
何故アザがあるのか聞かれたら正直に答えます。王家に嘘は吐けませんので』
『生意気な!』
結局殴り、数日後に陛下に呼び出された。
『娘を殴ったというのは本当か?』
『わ、我儘が過ぎて思わず』
『レオナルドはボステーヌ侯爵家に婿入りしても王子に変わりはない。いずれ第一王子が国王となればレオナルドは王弟だ。その妻になるオリヴィアは其方より格上になる。暴力を振るうということは王家への攻撃と同じだ。二度とあってはならない。
オリヴィアはとても優秀だ。殴られるような我儘を言ったなどとは俄かに信じ難い。次は調査を入れるぞ、侯爵』
『申し訳ございません』
この日から手をあげるのを出来るだけ我慢してきた。
そして事は起きた。
「旦那様、王宮から登城命令が出たようです」
遣いが屋敷にやってきて、私とオリヴィアに登城を命じた手紙を渡してきた。
「オリヴィアを呼べ」
メイドに呼びに行かせたが、なかなか降りてこない。着替えでもしているのかと思っていた。
メイドが2階から降りてきて一階を探し、外も手分けして探したが見つからないと言い出した。
「ロクサーヌ様とオリヴィアお嬢様の姿がございません。
護衛とお嬢様の馬車も見当たりません」
「フィゼット邸に行ったのかもしれない。フィゼット邸に迎えをやれ」
結局フィゼット邸にもおらず、街を探しに行かせた。
1時間後にオリヴィアの護衛が戻ってきた。
オリヴィアは消え、手紙が残されていたと聞かされた。
「何のための護衛だ!!」
「王子殿下の婚約者であるお嬢様から命令と言われたら我らは従うしかございません」
「っ!」
これ以上待たせられないので登城した。
応接間に通されると、陛下と王妃殿下とレオナルド王子殿下が待っていた。
王「オリヴィアは?」
私「消えました」
手紙を見せた。
王「はぁ」
私「あの、何が起きているのでしょうか」
王「レオナルドがオリヴィアに婚約の解消を迫り署名させた。再縁組をしないと誓約書付きだ。
既に受理してしまった。
止めてはいるがこの手の届は、不備無き場合は1週間以内に処理を終えるという決まりがある。
レオナルドは撤回しないと頑なに拒む。
オリヴィアが撤回してくれたら無効にするよう命じるのだが」
王妃「オリヴィアは何処に行ったのです」
私「分かりません」
王「探させよう」
私「あの、何故殿下は解消を希望なさったのでしょう」
王「好きな女ができたそうだ」
私「……」
レオナルド王子殿下の女遊びは耳にしていたが、こんなことをするほど馬鹿だとは思ってもいなかった。
屋敷に戻り、侯爵家でも探したが、全く足取りが掴めなかった。それは王家も同じだった。
妻との婚姻は父上が決めたことだった。
妻の実家は裕福で、支援があったらしい。
だが その事実が私の心に劣等感を刻んだ。
長男が産まれたが、流行病で5歳になることなく死んでしまった。その病を持ってきたのは私だ。
使用人達は誰一人かかっていなかった。
私が最初に発症し、使用人にうつし息子にうつした。
結婚前から愛人を作っていた。その愛人からうつされたものだった。
熱が下がり完治して、愛人を囲っている部屋を訪ねると、愛人の身体は腐乱していた。
流行が落ち着くと また愛人を作った。
妻との間にはもう一人、子がいた。
オリヴィアだ。
第二王子の婚約者選定に勝ち残った。
王家と繋がりを持ち、妻の実家より格上になりたかった。
ある日、パーティで深酒をして屋敷に戻った。
誘いに乗る女がいなくてムシャクシャしていた。
屋敷にいる妻を使えばいいと妻の部屋に行った。
嫌いな女でも、女には変わりない。
だが拒否されて激昂した。
翌昼に目が覚めると屋敷の雰囲気がおかしい。
家令に聞くと妻が荷物をまとめて出て行ったという。
数日後、妻の父親が診断書と離縁届を持ってきた。
“顔の腫れ、口内と唇の裂傷、耳の裂傷、左耳の鼓膜の損傷、左目の視力低下、上半身の内出血の数27ヶ所、肋骨と腕と指3本の骨折、下半身の内出血の数19ヶ所”
『君は人間じゃない。獣だ。
さっさと署名しろ。さもなくば貴族裁判だ』
『せいせいしますよ』
署名して離縁した。
その後、後妻も考えたが、王家との縁談に影響のない女との出会いが無かった。
仕方なく娘と王子殿下の婚姻後に若い女を迎えようと思っていた。それまで愛人を作り、飽きては入れ替えていた。
『何だその目は!』
妻にそっくりの目元をしたオリヴィアが好きになれない。つい手を上げてしまう。
うっかり顔を叩いた後、王子妃教育に出せなくて、気を付けねばと服で隠れる所を殴ることにした。
酔って、夜会で引っ掛けた女を連れ帰ることもあった。
オリヴィアは成長していくにつれて表情が消え、主張をしなくなった。それがまた見下されたような気がした。
『お父様。次はアザがあろうと誤魔化しませんよ』
成人後、殴ろうとした時に言われた。
『は?』
『王子妃教育の中で着替えることもあります。今まではメイドに口止め料を払ってきましたが、もう止めます。メイドは報告するでしょう。
何故アザがあるのか聞かれたら正直に答えます。王家に嘘は吐けませんので』
『生意気な!』
結局殴り、数日後に陛下に呼び出された。
『娘を殴ったというのは本当か?』
『わ、我儘が過ぎて思わず』
『レオナルドはボステーヌ侯爵家に婿入りしても王子に変わりはない。いずれ第一王子が国王となればレオナルドは王弟だ。その妻になるオリヴィアは其方より格上になる。暴力を振るうということは王家への攻撃と同じだ。二度とあってはならない。
オリヴィアはとても優秀だ。殴られるような我儘を言ったなどとは俄かに信じ難い。次は調査を入れるぞ、侯爵』
『申し訳ございません』
この日から手をあげるのを出来るだけ我慢してきた。
そして事は起きた。
「旦那様、王宮から登城命令が出たようです」
遣いが屋敷にやってきて、私とオリヴィアに登城を命じた手紙を渡してきた。
「オリヴィアを呼べ」
メイドに呼びに行かせたが、なかなか降りてこない。着替えでもしているのかと思っていた。
メイドが2階から降りてきて一階を探し、外も手分けして探したが見つからないと言い出した。
「ロクサーヌ様とオリヴィアお嬢様の姿がございません。
護衛とお嬢様の馬車も見当たりません」
「フィゼット邸に行ったのかもしれない。フィゼット邸に迎えをやれ」
結局フィゼット邸にもおらず、街を探しに行かせた。
1時間後にオリヴィアの護衛が戻ってきた。
オリヴィアは消え、手紙が残されていたと聞かされた。
「何のための護衛だ!!」
「王子殿下の婚約者であるお嬢様から命令と言われたら我らは従うしかございません」
「っ!」
これ以上待たせられないので登城した。
応接間に通されると、陛下と王妃殿下とレオナルド王子殿下が待っていた。
王「オリヴィアは?」
私「消えました」
手紙を見せた。
王「はぁ」
私「あの、何が起きているのでしょうか」
王「レオナルドがオリヴィアに婚約の解消を迫り署名させた。再縁組をしないと誓約書付きだ。
既に受理してしまった。
止めてはいるがこの手の届は、不備無き場合は1週間以内に処理を終えるという決まりがある。
レオナルドは撤回しないと頑なに拒む。
オリヴィアが撤回してくれたら無効にするよう命じるのだが」
王妃「オリヴィアは何処に行ったのです」
私「分かりません」
王「探させよう」
私「あの、何故殿下は解消を希望なさったのでしょう」
王「好きな女ができたそうだ」
私「……」
レオナルド王子殿下の女遊びは耳にしていたが、こんなことをするほど馬鹿だとは思ってもいなかった。
屋敷に戻り、侯爵家でも探したが、全く足取りが掴めなかった。それは王家も同じだった。
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