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第十二話:自己保身
しおりを挟むジャンパオロが両手を後ろで縛られ、吊るされた状態で拷問が始まった。彼の顔はすでに汗で濡れ、痛みに歪んでいる。縄が締まるたびに肩が音を立て、筋肉が悲鳴を上げた。吊るされた状態で体を無理やり引き上げられ、ジャンパオロは耐えきれず、神に祈りを捧げた。
「神よ、どうかお許しを……! すべてはあなたの御心のままに……!」
ジャンパオロの声は苦痛に満ちていた。だが、その祈りはすぐに言い訳へと変わる。
「私には罪はない! 本当に、すべてはオッターヴィオとベニアミーナの仕業なんだ……!」
ベリンド警部は冷ややかな目でジャンパオロを見下ろしながら、無言で彼の言葉に耳を傾けた。ジャンパオロは耐えきれず、続けざまに弁解を始めた。
「ベニアミーナは父親に縛られていることに耐えられず、オッターヴィオにフィデンツィオを殺してくれとしつこく頼んでいたんだ! オッターヴィオは、ベニアミーナとの関係を疑われて、フィデンツィオに城を追い出されそうになっていて、悩んでいたし……ベニアミーナがオッターヴィオを唆してやらせたんだ! 」
ジャンパオロの声は震えていたが、彼はまるで自分が関与していないかのように語った。まるで他人事のように。ベリンドはジャンパオロの言葉を注意深く聞きながらも、その目に疑念を浮かべていた。
「本当か、それは?」
ベリンドは低い声で問いかけたが、ジャンパオロはただ首を激しく縦に振った。
「ええ、そうです! 私はもう家を出ていたし、フィデンツィオを殺そうなんてそんなこと考えません!」
「お前さん、ずいぶんな借金があったそうだが?」
「あ、それは……別に、返すあてはありましたよ」
「父親の遺産で?」
「そっ、そんなことで父親を殺すわけないでしょう! 言いがかりだ!」
ジャンパオロは汗を流しながらそう言ったが、彼の言葉に真実味は感じられなかった。
次にルイージャが滑車の下に引き出された。彼女の華奢な体が縄で縛られ、滑車がゆっくりと回転する。その瞬間、ルイージャの体が無理やり弓なりに引き上げられ、彼女は苦痛に叫び声を上げた。
「痛い……! もう、やめてください……!」
縄が引かれるたびに、彼女の関節がきしみ、痙攣しながら体が引き伸ばされていく。その姿を見つめながら、ベリンド警部は冷酷な表情を崩さなかった。
「すべてお話しします! この縄を解いてください、お願いします……!」
ルイージャは叫び、泣きながら懇願した。
「いいだろう。すべてを話せ。そうすれば縄を解いてやる」
ベリンドは静かにそう言い、ルイージャに答えを促した。
「ベニアミーナが、フィデンツィオの兄サンタクローチェに助けを求める手紙を書いたのです。そのことでフィデンツィオは激怒し、私たち全員に酷い仕打ちをしました。ベニアミーナはその後、父を殺す決意を固めたのです。彼女がオッターヴィオと計画を立て、私はそれに従うしかなかったんです! もし従わなければ、ベニアミーナに殺されると思いました……!」
ルイージャの言葉は途切れ途切れだったが、痛みに耐えながら懸命に話し続けた。
その言葉を聞いたベリンドは、少し考え込んだ。
「(夫人の言い分は、筋が通っている。ジャンパオロのほうは金欲しさに何かしら関わってはいるだろうが……。実際に殺したのは……オッターヴィオか? あいつはいまだ見つかっていないが……)」
そして部屋を出て、ベニアミーナの元に足を向けた。彼女はまだ拷問を受けていないが、すでにジャンパオロとルイージャの証言を伝え聞いている。
しかし、ベニアミーナはそれらの言葉を一蹴し、冷静に無実を主張した。
「私は父に殴られたこともありませんし、人を殺そうなどと考えたこともありません。そんな恐ろしいこと、到底できません」
ベニアミーナは毅然とした態度で言い放った。その言葉には、彼女自身の強い意志と自尊心が感じられた。
ルイージャが、ベニアミーナが阿片を父に飲ませたと証言したことを聞かされると、彼女は冷ややかに答えた。
「阿片がどのようなものか、私は知りません。ルイージャ夫人がそのようなことを言うのは、私が継母である彼女にとって目障りだからでしょう。彼女は私の存在が不快なのです」
ベニアミーナは、継母との確執を印象付けながら、自らの立場を守ろうとしていた。その言葉には冷静さがあり、彼女は自分の無実を疑っていないようだった。
ベニアミーナを拷問部屋に連れていき、ジャンパオロとルイージャを再び装置にかけた。ジャンパオロは悲鳴を上げながら同じ証言をし、ルイージャもまた、殺害計画を立てたのはオッターヴィオとベニアミーナだとのたまった。
「兄の言うことは事実無根です。おそらく彼は悪魔に取り憑かれてしまったのでしょう」
ベニアミーナは冷たい声で、ジャンパオロの叫びを一蹴した。
「母は、私のことが嫌いなのです。きっと、私が死ねばいいとでも思っているのでしょうね」
冷淡に答えるベニアミーナに、ルイージャは取り乱した。縄でしばられたまま身をくねらせやがてぐったりすると、役人が慌ててルイージャを装置からおろし、獄所へ連れて行った。
それを冷たい目で見ていたベニアミーナ。ベリンド警部は身震いしたが、すぐに顔を引き締めた。
「ベニアミーナ、お前にも拷問を受けてもらう」
ベリンドの指示で、拷問器具が再び準備される。ベニアミーナの目の前でジャンパオロとルイージャが拷問にかけられても、彼女はなおも無実を主張し続けた。彼女の強さは、まるで周囲の苦痛から完全に隔離されているかのように見えた。
そしてついに、ベニアミーナ自身の拷問が始まろうとしていた――。
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