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第十一話:殺人
しおりを挟む警察の取り調べが始まってから数日後のこと、チェーヴァ家に警察が訪れた。ベリンド警部は部下を引き連れ、厳しい目つきで屋敷を見て回る。ベニアミーナは不安を隠しきれず、彼の冷ややかな視線を受け止めた。緊張感が漂う中、ベリンド警部はすぐにフィデンツィオの寝室へ向かった。
寝室のドアを開けると、ベリンドはそこにある違和感にすぐ気づいた。ベッドはの上に、マットレスがないのだ。
「マットレスがない……?」
ベリンド警部は驚きの声を漏らした。今の世の中、特にチェーヴァ家のような富のある貴族は、ベッドに専用のマットレスをしいて使うのが常識だ。だが、フィデンツィオの、当主の寝室にあるベッドは木枠だけで、マットレスが見当たらない。
「これは一体どういうことだ?」
彼は部下たちに部屋をくまなく調べるよう命じ、ベッド周りを丹念に見回した。
「何かの証拠を隠そうとした、か」
ベリンドは、何かを確信したかのように眉をひそめた。
そして寝室からテラスへ移動する。
「ここだな、彼が落ちたのは……」
ベリンド警部はテラスの手すりに手をかけた。念入りにその手すりを調べながら、彼は少し体重をかけてみた。だが、手すりは揺れることはなく、しっかりと固定されていた。
「手すりが壊れていた、という話だったはずだが……」
ベリンドは首を傾げる。
確かに手すりが壊れているところがあるので、ここからフィデンツィオが落ちたのだろうと考えられた。しかし、少し触れて壊れるほどの腐食や虫食いの跡はないようだ。
「警部……確かに少し腐食していますが、これだけの体重では壊れませんね」
部下の一人がベリンド警部の考えをくみ取り同意する。
ベリンドはしばらくテラスに立ち、下を見下ろしていた。そこにはフィデンツィオが落下したとされる地面の茂みがあった。
「どうも話が腑に落ちない。手すりが原因で転落したというには無理があるな。もっと他に原因があったのではないか……」
ベリンドが部屋を出て廊下に戻ると、ベニアミーナとルイージャが迎えた。ベニアミーナは笑顔を浮かべながら、何か問題でもあったのか、と尋ねた。
「医者に、きちんとした検死させることにする。事の詳細が明らかになるまでは、あなた方にも協力してもらうことになるだろう」
ベリンドの目は、冷たくベニアミーナを見つめている。
ベニアミーナはベリンドの言葉に少し動揺したが、落ち着いて答えた。
「もちろんです。私たちも父の死の真相を知りたいと思っていますから」
数日後、フィデンツィオの死に疑問があるため、医者たちによる検死が行われた。遺体にある打撃痕は、鈍器で殴打された跡のようだという。医師たちは、『鉄槌のような硬いもので殴られた傷だ』と証言した。
この結果を受けて、ベリンド警部はフィデンツィオの死がテラスから落下したことによる事故死ではなく、明確な殺人であると断定した。そして、チェーヴァ家に対して容赦なく逮捕状が出された。まずはルイージャ、次いでベニアミーナ、そしてジャンパオロにも逮捕状が届いた。だが、この時すでにオッターヴィオは屋敷を去り、行方をくらましていた。
「オッターヴィオはどこにいる」
ベリンド警部はベニアミーナに詰め寄った。
「わかりません……彼は何も言わずにいなくなりました……」
ベニアミーナが震える声で答えたその言葉に、嘘はなかった。オッターヴィオが何も言わずに消えたことが、彼女自身にも理解できていなかったのだ。
一方、オッターヴィオは自分がジャンパオロの怒りの対象となり、フィデンツィオ殺害に関する口封じが行われると思い屋敷から逃げ出していた。しかし、城を去ったオッターヴィオは逮捕状が出た時すでに、ジャンパオロが放った刺客によって命を奪われていた。
ロマホフの郊外にある陰湿な路地で、オッターヴィオは背後から現れた刺客に襲われた。彼は短剣を抜いて応戦しようとしたが、暗闇の中での慣れぬ戦いに勝つことはできなかった。刺客はオッターヴィオの胸に一撃を加え、地面に倒れた彼の体からたくさんの血が流れ出た。
やがて静かに地面を赤く染めていく血の海の中で、オッターヴィオは息絶えた。
「ベニ……ア…………ミーー……」
逮捕された夜、ベニアミーナはオッターヴィオがなぜいなくなってしまったのかを考えていた。確かな言葉で将来を誓い合ったわけではなかったが、彼とは何度も夜を共にしたし、いなくなる直前はまるで家族のようだった。結婚し、このままの日々が続いて幸せに過ごせると思っていた。父が死んだのだ、自分の描く幸せな生活が送れると思っていた。オッターヴィオと共に。
「彼はどこに行ってしまったの? ああ……オッターヴィオ…………」
オッターヴィオの死が明らかになるのはまだ先の話だった。今、警察はオッターヴィオが失踪したことをきっかけに、さらにチェーヴァ家への疑いを深めていた。ベリンド警部は捜査の手を緩めることなく、真実を暴こうと躍起になっていた。
「もう少しで、フィデンツィオの死の真相が明らかになる……」
ベリンド警部は、ベニアミーナたちを拷問し、必ず真実を明らかにすると決意した。
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