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道中編
第56話 万能魔法のサイコキネシス
しおりを挟む〝サイコキネシス〟!
私の魔法が発動する。
幌馬車は私の魔法を受け、国で最も大きなストゥール川を飛び越えた。
──ガシャン
「向こう岸到着です」
「は~~~~助かったあ」
馬車を地上に降ろすと安堵の息が馬車内から漏れた。
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夜番後。幸いにも騒いでいた私たちに起こされることなく朝まで快眠だったペインたちパーティー。私もライアーと話せるいい機会になったので、索敵は忘れずに色々話した。どうやらライアーは尻より胸派らしい。死ぬほど要らんなその情報。
朝軽めにパンを食べ、コマース領の首都、セントルムに向かうことにした。セントルムに向かうにはまずストゥール川を超えなければならない。ストゥール川には大きな橋が2つあり、1つはダクアからセントルムへの最短直線距離。もう1つはダクアから南東のミッテル領に向かう橋だ。
わざわざ遠回りする必要も無いのでコマース領側の橋に向かった。
が、なんということでしょう。
「え、エレキアリゲーター……」
ペインの頬がぴくりと引き攣るのがわかる。
推奨Aランクの魔物が群れを生して橋を取り囲んでいた。川の水面に大袈裟に見えている訳では無いが、その体から発っする電気が虎視眈々とやってくる獲物を狙っていると教えてくれていた。
「……そういやダクアに依頼出てたな」
「進路に影響するからそういうのは早く言えよライアー!」
「知るか! 推奨Aランクの魔物が関わる依頼なんてFランクに関係するわけがねぇだろ!」
あぁ、私も覚えている。
確か金銭感覚を身につけた今では割に合わないなと思っていたんだけど。ダクアに来てすぐ確認した依頼にあった。
種類:討伐
推奨ランク:A
依頼主:代理官
報酬:基本報酬金貨20枚、1匹当たり金貨1枚
詳細:ストゥール川に生息するエレキアリゲーターの群れの討伐。討伐確認は舌
確か詳細がこんな感じだったはず。
というかエレキアリゲーターの群れを討伐した基本報酬の金額を盗賊退治で楽々クリアしてたのかぁ……。
「討伐すんのー? しねーの? それともまな板チャンが川に飛び込むぅ?」
「誰がするか!」
「倒せ……るかしら。倒したこと無いのよね。推奨Aランク、中々厳しいわ」
「魔法のゴリ押しで倒せそうっちゃ倒せそうだけど、魔法使うのってリィンとリーヴルと俺だろ。つっても、こっちのパーティー魔法は補助にしか使わねェから実質リィンだけだな」
初心者級の攻撃魔法4つしか覚えてないことを考えると私もバリバリ魔法職ってわけじゃないんだけど。
「お前ら空間魔法ぞ(怠慢が理由で)頑張るして記憶すた私に感謝しろ」
そうして、私は空を飛んだのだった。
幌馬車ごと。
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回想終了。
馬車を再び走らせる準備が出来たのかサーチさんがブンブンと私に手を振った。
馬車から離れて色々していた私を迎えに来てくれたようだ。
「準備出来たで! それにしても、いいなぁ浮遊魔法! 馬車旅には欠かせんやん!」
「制限はあるですけどね」
車輪が埋まったり道が断たれていたりと何かしら悩みは尽きないという。
「サーチさんはどうやってペイン達と出会うすた?」
「ん? んー。あぁ、なるほど。あの馬鹿との出会いやな」
皆がいる場所にたどり着く間、話を振ってみた。
ペインたちは不思議だ。そして頭も回れば警戒心も強い。それを表立って見せないように立ち回る知恵もある。
あまりがっついて聞きすぎない方が今後の付き合いに影響しないだろう。
「ウチ実はペインと1番最初に出会うたんや」
ちょっと意外だった。
「ウチ、昔は盗賊まがいなことしとってん。下の子食わせていかんとあかんかったから……──あと効率良かったし」
そこで『下の子のために仕方なくやった』って言い訳するかと思えばまさかの効率宣言。好感度上がるわ。そこで下手にいい子ちゃんぶられるの苦手なんだよね。
正義は我にあり! だから許せ! みたいなのちょっと苦手。
悪いことしたけどそれがどうした? って開き直られる方が取っ付きやすい。
だって私、性根が腐ってるから。
「ウチは忍べても戦えは出来へん。そんな時や。貴族様に捕まってもうた! ウチ大ピーンチ! 物語ではあるあるやろ?」
「あるあるですけど結構特殊なジャンルだと思うですよ?」
『ヘマして捕まる』って展開があるのは間違いなく絵本とかで言われる王道にはなくて、主人公がそんな展開に陥るのはダークファンタジーな話にしかないと思う。そういうジャンルならあるあるだけどさ。
「ま、それからや。ウチが真っ当に……」
サーチさんはスイッと目を逸らした。
「──真っ当に盗みを始めたんは」
「まっとうにぬすみ。」
繰り返した言葉を避ける様にシュバッとサーチさんが幌馬車に向かって走った。逃げたな。
真っ当に盗みってなんだ。多分それ、真っ当じゃないぞ。犯罪行為だぞ。
まぁこの国、別に法治国家ってわけじゃないから庶民には関係ないだろう。
国民性というかお国柄というか、国民の殆どが魔法を使える時点で法律じゃ縛れないし。
「アホ毛ちゃんお元気い?」
幌馬車の上。ハンモックで寛ぐように準備を眺めていた物理的上から目線男が私に手を振った。
「なぁにしてたの?」
「蟻の行列閲覧中ですた」
「ぶっは! 趣味良いねぇ!」
ケラケラと笑い転げている。サイコキネシスで移動させたくとも、触ったことがないから出来ない。無念。
「で、実際は何してたんだ?」
ライアーが手綱を握りながら聞いてきた。どうやらここからの御者はライアーになるらしい。流石は元ソロ、コイツなんでも出来るんだな。
「花摘み……と、言いたいとこですけど。魔力回復すてました」
「えっ」
「えっ」
聞き耳立てていたペインがびっくり仰天と言いたげな顔をする。
「……魔力、そんな回復するもん?」
「限界まで使うすてなければ1割くらい回復可ですよ」
ただし自然の中に限る。
実家にいた時は温室の中で回復させていた。だって鬼畜エルフが遠慮なく限界まで魔法使わせるんだもん。それこそ動くの面倒くさくてサイコキネシスを使う様な、日常的な魔法の分まで!
エルフは人間の魔力量を感知できるらしい。ガラ悪エルフが帰ったあと速攻こもって回復させたっての。
「えぇー……俺ガッツリ寝ないと回復しないけどな」
「あら、それなら私もよ。つまりリィンちゃんが異常」
無言で頷いてしまった。
「つーか今魔力残量どんくらい?」
先に幌馬車に乗り込んだペインが私に腕を伸ばして引き上げてくれようとする。私は遠慮なくその手を掴んだ。
「ざっと……8割?」
「うっわ」
「うわぁ……」
ペインパーティーの魔法職が同時にドン引きの声を上げた。
「出発するぞー」
全員乗り込んだのでライアーが合図を出すと、馬車はまたガタガタと激しく揺れ始めた。うぅ、きつい。最初の30分は持つけど。
ペインパーティーの荷物を私のアイテムボックスに仕舞ってるから軽くて速い分めちゃくちゃ揺れる。
「……そんなにドン引きするもんなん?」
「人間乗せた馬付きの幌馬車をストゥール川飛び越えるほどの浮遊魔法。浮遊とか物質操作系って大きさや重さで消費魔力の量が変わってくるから。んー……普通なら良くて残り3割とか、もしくは途中で落ちるとか。川に」
「うっわぁ……」
そうだよね。魔法で川を渡る人間が居ないから橋が架けられるんだもん。こんなに残っているのがおかしいよ。
というか、だ。強制スパルタエルフ式魔力底上げ訓練を行って、めちゃくちゃ魔力を増やしたのに足りなかったスタンピード。
いやまぁね、盗賊退治の時点でほぼ魔力空だったから仕方ないよ。寝ずに取得物一覧出してたから仕方ないよ。
はぁ……魔法を使う上での目標にしている『大規模な魔法を1人で発動させる』というラインはまだまだ越えそうにない。
「お前魔族とか言わないよな?」
「魔族ですたらダクアのサブマスに叱るされながら魔力回復はされぬかと」
魔族は魔法底なしらしいしね。魔族に生まれたかった。
「そもそも、魔法ってのは一体なんなんだ?」
ライアーが視線だけを後ろに向けて聞いてきた。
「魔法……」
「一体……」
「何……?」
魔法組が首を捻った。ちなみに上からペイン、リーヴルさん、私だ。
「え、嘘やん今更やけど魔法使っときながら詳細知らへんの?」
「そういう研究はされてたみたいだけど……。俺の場合は自然と身に付いたから」
「貴方の魔法特殊ですものね。うーん、私は親に教えてもらったのよね。まず魔力感知から始まって、認識して、制御を覚えて、魔法を覚える。みたいな感じで……。魔法って、何かしら?」
解明されてないから魔法なのだ。
概念がよく分からない。
ちなみにちゃんと理論が存在するのが魔導魔術。魔導は魔導具の制作に。魔術は前世で言う化学に近い。
文系脳の私には両方とも分からなかったよ。
「ウチのパーティーは、オレが器用貧乏な魔法。リーヴルが生活魔法。ラウトが補助魔法を使える。まぁ、お前らも知っての通り、オレは使う場面が限られてっから使えねー」
「自分も補助魔法とは言うが、自分を強化することで手一杯だ」
「私は生活魔法だけだけど、応用がきくから攻撃に使ったりしてるわ。例えば洗浄魔法で敵さん洗っちゃうとか。乾燥魔法を目に使っちゃうとか?」
地味にえげつないのがリーヴルさんかもしれない。そんな物騒な使い方普通は考えません。
おっとり笑っているけどあのライアーでさえ引き攣り笑いを浮かべている。
「魔法は大まか6種類。生活魔法、攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、補助魔法、空間魔法。……私は攻撃、防御、それと空間が使用可能です。他人と比べると空間魔法が特に得意ですぞ、使用魔力の消費量的にも」
「だろうな」
「でしょうね」
「生活能力皆無のお前が生活魔法使えたらむしろドン引きするわ」
ペインとリーヴルさんが同意したと思えばおっさんが毒を吐いた。あぁ? 毒飲み込んでから性格まで糞になったの? ウォーターボールぶつけて強制的に水飲ますぞ。
「アハハー。青リボン生活能力どころか言語能力もねーじゃん」
「理性飛ばすすた野郎に言うされたくは無きですね!?」
いっっっっちばん言われたくないんだが!?
応援ありがとうございます!
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