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辺境の魔女は少年に好意を抱く!
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これは、とある辺境の村近くに住む魔女と呼ばれた一人の女性――アリシア。
アリシアの美貌は村でもかなり評判が高く、長く伸びた銀髪、空のように澄んだ青い瞳、そして目元にはほくろが一つ。顔立ちはかなり地味なほうだが、世の男性からすれば一度は抱いてみたい、と皆が思うほどだ。
しかし、それには重大な問題があった。
美しいものには棘がある、とよく言われるが、アリシアもその例えに当てはまる。世の男性達を魅了するほどの美貌――ここまでは何も問題はない。
だが、肝心な問題はその中身――性格面だ。
アリシアは人々より長い年月生きているためか、少々人々を見下す傾向があった。ある時には、何度言ってもわからないような頭の悪い者には「あなた、生きてる価値あります?」と挑発してみたり、またある時には、衣服が汚れた子供に対して「汚らわしい」と汚物扱いしては、突き放したりと散々なものだ。
だが、こんな行動や言動をするのには、きちんとした理由があった。それは、あまり人と接する機会がないことにある。いや、接する機会をなくしている、と言ったほうが正しいかもしれない。
他の人々より長い時間を生きているため、仲良くなったところで、別れはすぐに訪れる。仲良くなった者との別れは悲しい。そんな悲しみを味わいたくない、という思いが大きいからこそ、アリシア自身はこのような行動や言動を発するのだ。
この物語はそんなアリシアがある男性に片思いをしてしまう物語。
辺境の村から徒歩で数分の場所にある木材で造られたとある一軒家。
そこで伸び伸びと悠々自適に暮しているアリシアは朝食を頬張っていた。
朝から貴族のような豪勢な食事。ふわふわのパンに山で狩ったイノシシ肉と野菜で煮込んだスープ、それに村人達が献上してきた甘い果物。匂いだけでもお腹一杯になりそうな気分だ。
でも、何でアリシアのもとに、仲良くもない村人達から果物が届くのか……?
アリシアにもまったくもって理解ができなかった。
最初に果物が届いた時は、果物に毒が注入されているかもしれないと疑った時もあった。しかし食してみると決してそんなことはなく、逆に甘いお菓子のようで口一杯が幸せな気分になった。
果物自体がだいぶ糖度が高かったのだろう。
アリシアにとってその時の感情は、今でも忘れられない。
そんな過去の出来事を思い出しながら、朝食を摂っていると扉を強く叩く音が聞こえてきた。
優雅な朝食の邪魔をされたとアリシアは苛立ちながら扉を開けると、
「こんな朝から何の用なのよ⁉」
だが扉の外には誰もいない。
アリシアは不思議に思いつつも扉を閉めた。
そしたらまた扉を叩く音が聞こえ、
「いい加減にしなさい‼ 一体、誰よ‼」
「すみません……ここです」
アリシアが顔を下に向けると、そこには低身長の少年の姿があった。見るからに貧しそうな感じだ。衣服はボロボロで所々に穴が空いており、おそらく水浴びもろくにしていないのだろう。かなり臭う。
アリシアは手で鼻を塞ぎ、少年に尋ねた。
「――っで、何の用なの? あっ! 先に言っておくけど、お風呂を貸してください、とか、服をください、とかはなしね。私はそこまで優しい人間じゃないから」
「……そう、ですか……」
少年は黙り込んだ。
そしてアリシアも同時に黙り込む。
二人が沈黙したことにより、虫の鳴き声や風が吹く音のみが耳に入ってくる。
アリシアは少年が立ち去るのをひたすら待ち続けるが、少年のほうは一向に立ち去ろうとしない。
長い沈黙の間、少年はアリシアの顔をまじまじと見つめる。
アリシアも少年をじっと見つめていた。
そんな沈黙を遮ったのは、アリシアが調理していたスープの沸騰する音だった。
「あっ! しまった! 火つけっぱなしだった!」
アリシアは慌てて火を止めに行く。
「ふぅ~、これで一安心。火事になるところだった。――って、何であなたまで入ってきてるのよ!」
ほっとしたのもつかの間、少年はアリシアの許可なしに家に入り、おまけに朝食にまで手を伸ばそうとしている。
そんな少年の姿を見てアリシアは激怒するかと思われたが、
「少年、君の名前は?」
「え、えっと、リクトです……」
「そう、良くできたわね。これはご褒美よ」
アリシアがリクトに差し出したのは、焼きたてのパンに熱々のスープだった。
リクトは唾を飲み、ものすごい勢いでパンにかぶりつく。
そのリクトの姿を見たアリシアの表情に何やら変化があった。少しばかり頬を赤くしているのだ。
自分が一生懸命作った料理を美味しそうに食べてくれている。そんな光景がアリシアにとって幸福に感じる瞬間でもあったのだ。
喜びを隠しきれないアリシアはリクトに一つの提案を持ちかけた。
「えへへ、ねぇ~、リクト」
「うん?」
「この家で一緒に暮らす? それとも、また一人で彷徨うの?」
「……でも、僕ここにいていいの?」
「いいよ! 私にも嬉しいことがあったから!」
リクトは急なアリシアの態度の変わりようが理解できなかった。
急になぜ、こんなご機嫌になったのかを……。
だがリクトにとっては、ありがたい提案だった。
行くあてもなく、山の中を彷徨い続けるぐらいなら、この家でアリシアと過ごしたほうが野垂れ死ぬこともないからだ。
リクトは幼いながらも必死に自分の頭の中で考えているようだった。
そんなリクトの返答は、
「じゃあ、僕ここでお世話になります」
その言葉を聞いたアリシアは、リクトに背中を向け微笑み拳を握りながら、
「良かった~、ふふふ、これで念願の同棲! んふふふふ」
リクトにもこの不気味な笑い声と気がかりな言葉が聞こえてはいたが、すべては理解できずにいた。
しかしこの二人の生活も長くは続かなかった。
後にリクトの正体が奴隷であったと知ったアリシアは、奴隷商人が捕らえにくると思い、住居を捨て二人で逃亡生活をすることになる。
だが、アリシアのリクトへの想いは、さらにその逃亡生活によって、さらに増してくのであった。
アリシアの美貌は村でもかなり評判が高く、長く伸びた銀髪、空のように澄んだ青い瞳、そして目元にはほくろが一つ。顔立ちはかなり地味なほうだが、世の男性からすれば一度は抱いてみたい、と皆が思うほどだ。
しかし、それには重大な問題があった。
美しいものには棘がある、とよく言われるが、アリシアもその例えに当てはまる。世の男性達を魅了するほどの美貌――ここまでは何も問題はない。
だが、肝心な問題はその中身――性格面だ。
アリシアは人々より長い年月生きているためか、少々人々を見下す傾向があった。ある時には、何度言ってもわからないような頭の悪い者には「あなた、生きてる価値あります?」と挑発してみたり、またある時には、衣服が汚れた子供に対して「汚らわしい」と汚物扱いしては、突き放したりと散々なものだ。
だが、こんな行動や言動をするのには、きちんとした理由があった。それは、あまり人と接する機会がないことにある。いや、接する機会をなくしている、と言ったほうが正しいかもしれない。
他の人々より長い時間を生きているため、仲良くなったところで、別れはすぐに訪れる。仲良くなった者との別れは悲しい。そんな悲しみを味わいたくない、という思いが大きいからこそ、アリシア自身はこのような行動や言動を発するのだ。
この物語はそんなアリシアがある男性に片思いをしてしまう物語。
辺境の村から徒歩で数分の場所にある木材で造られたとある一軒家。
そこで伸び伸びと悠々自適に暮しているアリシアは朝食を頬張っていた。
朝から貴族のような豪勢な食事。ふわふわのパンに山で狩ったイノシシ肉と野菜で煮込んだスープ、それに村人達が献上してきた甘い果物。匂いだけでもお腹一杯になりそうな気分だ。
でも、何でアリシアのもとに、仲良くもない村人達から果物が届くのか……?
アリシアにもまったくもって理解ができなかった。
最初に果物が届いた時は、果物に毒が注入されているかもしれないと疑った時もあった。しかし食してみると決してそんなことはなく、逆に甘いお菓子のようで口一杯が幸せな気分になった。
果物自体がだいぶ糖度が高かったのだろう。
アリシアにとってその時の感情は、今でも忘れられない。
そんな過去の出来事を思い出しながら、朝食を摂っていると扉を強く叩く音が聞こえてきた。
優雅な朝食の邪魔をされたとアリシアは苛立ちながら扉を開けると、
「こんな朝から何の用なのよ⁉」
だが扉の外には誰もいない。
アリシアは不思議に思いつつも扉を閉めた。
そしたらまた扉を叩く音が聞こえ、
「いい加減にしなさい‼ 一体、誰よ‼」
「すみません……ここです」
アリシアが顔を下に向けると、そこには低身長の少年の姿があった。見るからに貧しそうな感じだ。衣服はボロボロで所々に穴が空いており、おそらく水浴びもろくにしていないのだろう。かなり臭う。
アリシアは手で鼻を塞ぎ、少年に尋ねた。
「――っで、何の用なの? あっ! 先に言っておくけど、お風呂を貸してください、とか、服をください、とかはなしね。私はそこまで優しい人間じゃないから」
「……そう、ですか……」
少年は黙り込んだ。
そしてアリシアも同時に黙り込む。
二人が沈黙したことにより、虫の鳴き声や風が吹く音のみが耳に入ってくる。
アリシアは少年が立ち去るのをひたすら待ち続けるが、少年のほうは一向に立ち去ろうとしない。
長い沈黙の間、少年はアリシアの顔をまじまじと見つめる。
アリシアも少年をじっと見つめていた。
そんな沈黙を遮ったのは、アリシアが調理していたスープの沸騰する音だった。
「あっ! しまった! 火つけっぱなしだった!」
アリシアは慌てて火を止めに行く。
「ふぅ~、これで一安心。火事になるところだった。――って、何であなたまで入ってきてるのよ!」
ほっとしたのもつかの間、少年はアリシアの許可なしに家に入り、おまけに朝食にまで手を伸ばそうとしている。
そんな少年の姿を見てアリシアは激怒するかと思われたが、
「少年、君の名前は?」
「え、えっと、リクトです……」
「そう、良くできたわね。これはご褒美よ」
アリシアがリクトに差し出したのは、焼きたてのパンに熱々のスープだった。
リクトは唾を飲み、ものすごい勢いでパンにかぶりつく。
そのリクトの姿を見たアリシアの表情に何やら変化があった。少しばかり頬を赤くしているのだ。
自分が一生懸命作った料理を美味しそうに食べてくれている。そんな光景がアリシアにとって幸福に感じる瞬間でもあったのだ。
喜びを隠しきれないアリシアはリクトに一つの提案を持ちかけた。
「えへへ、ねぇ~、リクト」
「うん?」
「この家で一緒に暮らす? それとも、また一人で彷徨うの?」
「……でも、僕ここにいていいの?」
「いいよ! 私にも嬉しいことがあったから!」
リクトは急なアリシアの態度の変わりようが理解できなかった。
急になぜ、こんなご機嫌になったのかを……。
だがリクトにとっては、ありがたい提案だった。
行くあてもなく、山の中を彷徨い続けるぐらいなら、この家でアリシアと過ごしたほうが野垂れ死ぬこともないからだ。
リクトは幼いながらも必死に自分の頭の中で考えているようだった。
そんなリクトの返答は、
「じゃあ、僕ここでお世話になります」
その言葉を聞いたアリシアは、リクトに背中を向け微笑み拳を握りながら、
「良かった~、ふふふ、これで念願の同棲! んふふふふ」
リクトにもこの不気味な笑い声と気がかりな言葉が聞こえてはいたが、すべては理解できずにいた。
しかしこの二人の生活も長くは続かなかった。
後にリクトの正体が奴隷であったと知ったアリシアは、奴隷商人が捕らえにくると思い、住居を捨て二人で逃亡生活をすることになる。
だが、アリシアのリクトへの想いは、さらにその逃亡生活によって、さらに増してくのであった。
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