私のことを追い出したいらしいので、お望み通り出て行って差し上げますわ

榎夜

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269話 レオンハルトside

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ただの公爵子息でしかない自分に出来ることなんて何もない。

それはわかっていたけど、実際に身をもってその事実がわかると物凄く悔しくて仕方がないし、今後も同じようなことが起こるのではないかと少し怖くも感じた。

よく考えると、セリスティア様は隣国の侯爵で、既に当主としてしっかりと業務をこなしているのに、僕は公爵子息という座に胡座をかいて特に威張れるようなことは何もしていないのが現状だ。

正直、僕なんかの力を借りなくても1人でなんとかやっていけるだろう。

……考えれば考えるほど嫌なことばかり考えてしまっているのは自分でもわかっている。

でも、1度考えてしまうと、こんな状況にも関わらず止まらなくなってしまった。

すると、急に黙り込んで何も言わなくなった僕に違和感を感じたんだろう。

夫人の方から、何やら視線を感じる、と思ったら次の瞬間

「レオン、戻るわよ」

短い言葉ではあったけど、その夫人の言葉でハッと一気に現実に引き戻された。

なんて言えばいいのかわからないけど、さっきまでの悪いことばかり考えていた時は目の前が暗くて、何かに取り憑かれてしまったかのように体が重たかった。

それを、たった一言だけで正気に戻してくれるとは……夫人はそんなつもりがなかっただろうし、無意識なんだろうけど流石としか言いようがない。

ただ、少し都合が悪い、ということで夫人の言葉に対して

「は、はい」

なんて微妙な返事をするしかなかったんだけどね。


とりあえず牢屋を後にした僕たちだけど……夫人がわざわざ僕を連れて行った、といえことは何かしらの目的があった、ということだよね?

その割には、牢屋にいた3人と軽く話をしただけで

「急に大人しくなってどうしたのよ」

と言われて、忘れかけていたのにさっき自分で考えていたことを思い出してしまった。

まぁ、夫人としても急に黙り込んで、しかも真剣な顔をしていたらどうしたのか聞きたくもなるよね。

僕も状況と場所を考えるべきだったんだけど……自分自身、まさかあのタイミングであのような考えが出てくるとは思ってもいなかったから、仕方ないというか……。

なんて、心の中で言い訳をしながら心配そうな顔をしている夫人には

「いや……ちょっと考え事をしていまして……」

とだけ言って苦笑したけど、なんとなく夫人の目が見れなくて下を向いてしまった。

すると、そんな僕の行動を見て察したのか

「レオンのことだから、自分は何も出来ない、みたいなことを考えているんじゃない?」

と言われた。

まさか、自分の考えがそのままバレてしまっているとは思っていなかった僕は、下を向いていた頭をパッと上げると、そこにはなんとも言えないような表情で苦笑する夫人の顔があって

「え、えっと……」

と言葉を詰まらせてしまったけど、夫人はそんな僕を笑うことなく

「やっぱりレオンを牢屋に連れて行って正解だったわ。これであの3人が嘘をついていない、って証明できたもの」

そう言うと、さっきのことはなかったかのように優しく微笑んだ。

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