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270話 ユースティンside
しおりを挟む「いいから私の言うことを聞きなさい!」
そう怒鳴って、3人の従者に私の気に入らない令嬢をどうにかするよう命令したのが今から半日前。
私の予想が正しければ、あの令嬢が乗った馬車が事故にあったように見せかけて、大怪我をさせている頃だと思うんだけど……。
まぁ、あの令嬢と仲良くしていたわけじゃないし、そんなにすぐ情報はこないですわよね。
全く……レオンハルト様もレオンハルト様ですわ。
私という幼馴染の存在がありながら、今更になって婚約者を連れてくるなんて……。
私と結婚するために申し込まれた婚約を全て断っていたと思っていたから、私もレオンハルト様の求婚を待っていましたのよ!?
はぁ……それも、あの公爵夫人がいつものように言葉巧みに言いよったんでしょうけど、それでも受けてしまうのはおかしい話ですわ!
そう思いながら、引き出しの中から1枚の封筒を取り出しましたわ。
これを貰ったのが5歳の時なので、13年もの年月が経っていますが、今でもこの手紙を貰った時のことを鮮明に覚えています。
そう……あれは私とレオンハルト様が初めてお会いした日。
その日、私は初めてのお茶会だ、ということで物凄く緊張していましたのよね。
マナー教育で先生からお墨付きではあるものの、やっぱり不安なところも多かったので、ぎこちなく、なんとか参加していた人達に挨拶をして回っていましたわ。
今思えば、物凄く引きつっていた笑みと、ブサイクなカーテシーだったはずなのに、私の挨拶を見たレオンハルト様は
「初めてお茶会に参加したんですか?」
と優しく、私に質問をしてきましたの。
当時の私は緊張のあまり、急に話しかけられたことに、ものすごく驚いて
「え、えぇ。そうですわ」
と素っ気なく返事をしてしまいましたが、レオンハルト様はそんなことを気にする様子もなく
「僕もなんです。一緒ですね」
と言って微笑んでくれましたの!
しかも、レオンハルト様は私が不安そうにしているから、と言って私をエスコートして挨拶に一緒に回ってくれましたのよ!
これは、初めて会った時から婚約者として意識していた、ということですわよね!?
そうじゃなければ、あのお茶会での行動の説明がつきませんわ!
あぁ、それでその手紙はなんだ、って話ですわよね。
実は、初めてのお茶会の後にレオンハルト様にお礼の手紙を出しましたの。
これはその手紙の返事、ですわ。
貰ってから13年、何度も何度も読み返していますが、何度読んでも当時のあの甘酸っぱい気持ちが込み上げてきて、レオンハルト様への愛を改めて感じることができますわ。
それなのに……それなのにあの令嬢が……っ!
そう思った私は、思わず拳に力を入れた時でしたわ。
「お嬢様!お嬢様!」
何やら慌てた様子のメイドが、ノックもせずに私の部屋に入ってきましたの。
正直、許可もなく勝手に入ってくるなんて有り得ませんし、そんなに大きな声で呼ばなくても聞こえている……と言いたくなりましたが、グッと堪えて、手に持っていた手紙をそっと引き出しの中にしまい込みながら
「なんですの?」
とにこやかに返事をしましたわ。
ですが、なぜかメイドは酷く慌てた様子で
「旦那様が今すぐに書斎に来るように、とのことで……」
と言ってきたではありませんか。
気のせいかもしれませんが、顔色も悪いような……。
い、いや、私の勘違いですわよね。
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