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121 季節は変わり、実家は積雪二メートル
しおりを挟むside.嵯峨憲真
「あの時はびっくりしたよね」
あの時、とは。
春から初夏へと季節が移り替わる最中、俺と番になった小林眞宮…不破さんや眞宮が経営している店の常連客達から「店長ちゃん」と言う愛称で呼ばれている彼がニコニコと此方を向いて微笑みながら、北国の雪道をスノーブーツ履いてトコトコと歩いている。
眞宮の周囲の空間は除雪車で道路に積もった雪を除けた道で、直ぐ横には二メートル程の高さの雪が確りと氷の様に固まった状態で積まれている。
それとは違い、上の雪はふわふわしている。ここ数十分の間に積もったのだろう、明らかに下の雪とは見た目が違う。
成程雪国の積雪は凄まじい。
「あ~…初めて見る憲真にはこの光景の方がびっくりかな」
「ええ、デスね」
おお、片言?珍しいと此方を見て笑う眞宮。
その顔の頬は寒さのためか、ほんのりと染まりつつある。
「俺も東京の学園入学以来、真冬に帰省することは無かったからな~。実家に帰りにくかったって言うのもあって、大学も帰省しなかったし。社会人になって店舗を経営したりして時間が無かったから、っと、久しぶりだとこの寒さがきついな」
ふるり、と身体を僅かに振るわせ、今も白い雪を降らせる空を眺める。
「あー…この寒々しい空とか空気とか久し振り、懐かしい」等と小声で言い、「中学までこの田舎に居たんだよな~」と言いつつサクサクと歩く。
俺はと言えば初めての北国と言うことや、雪の上を歩く…眞宮に言われて散々スノーブーツを履いているし、下着にはヒートテック等の防寒着を着込む様にと言われ、着膨れ状態になっている。それでもコートから出ている部分である顔やら耳やら寒いなと思って居ると、
「ほら、ちゃんと帽子被れ。強風の最中、傘なんて差して歩けないからな。即壊れるし」
「そう言えば傘を差して歩いている人ってあまり居ないね」
年配者は特に傘を差して居ないなと、俺達の前をスタスタと歩いて行く人々を眺める。
「そりゃね、雪が傘の上に積もるから重たくなるんだよ。だから帽子とかを被っていた方が楽だ。おまけに今日みたいに強風だと、地吹雪とかがあって、雪とか風のせいで下から吹いて来る時もある。学生時代帽子を被りたくないし、傘を差して居たがあまり役に立たなかった」
眞宮の「豆知識な~」と言う言葉に頷いていると、
「ああ、来た来た」
と二度同じ言葉を言う声。
「東口から実家までバスもあるけど、この雪だし荷物も重いし折角タクシーが来たから乗ろう」
と言いながら眞宮は手を上げてタクシーを止め、乗り込んだ。
尚、駅から眞宮の実家まで結構な距離があったらしく、タクシー料金が思ったより高いな、と思って居たらタクシーの運転手から「強風と大雪でバスの運行が大分遅れている」と告げられた。
あのまま駅前のバス停で待っていると頭部に雪が積もる程待たされることになったらしい。(約二時間)
流石北国、いや雪国だなぁと実感した。
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