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79 噂をすれば

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「返事来た?」

「いえ」


 この場合の返事とは嵯峨さんのこと。
 俺の店が臨時休業中だからと連絡をしたのだが、一向に返信が来ない。


「何時もなら結構早めに返事が来るのですが、忙しいのかな」


 それとも昨日の疲れが出てまだ寝ていると言う可能性もある。
 何故あの女性が俺の店に来て暴れたのかとか、色々意味分からなかったからな~…。
 理由を聞いても「何故?」と言っちゃう様な理由なのだろうと思われるし、今後関わりたくもない。それ以前に駄目、禁止薬物接種。
 そんな物を接種しちゃったから理性がどっかに飛び、訳わからない行動をしてしまったのでは無いかと推測。


「まだ寝ているとかかな?」

「それかまだ、連絡が来ているのを気が付いていないかもですね」


 末明さんが寝坊助なのかなー?もしかしてスマホ故障したとか?と言っていると、

 珈琲の焙煎をしていた不破さんが奥から出て来て一言。


「噂をすれば、だな」


 そう言うとほぼ同時に、店の扉が開いた。


「小林さんが此方に居ると聞いて!」


 扉に付いているカランカランと鳴る鐘の音の元、額に汗をかきながら荒い息をして居る嵯峨さん。その嵯峨さんが喫茶店の扉を開けた瞬間、大声で言うものだから店内の皆が大注目。
 お客さん方が嵯峨さんを見て、その数秒後何故か俺に視線が集中。
 何故だ。いや、嵯峨さんに名前を呼ばれたからですね。


「おお~小林さん愛されている」


 なんて言うお客さんの声が店内の何処からか聞こえたけれど一先ずスルーして、と。


「どうした嵯峨さん、えらく急いで来たな」


 何故其処で不破さんがニヤニヤしているのだろう?
 等と思っていたら、末明さんが「あ、もしかして」と小さな声。
 何?何かあったの?と、思っていたらドカッと言う音。
 結構店内に響いていますよ?


「不破、てめぇ!」

「クックック、良いねぇその顔。つーか店のカウンター蹴って壊さないでね、開店直後からずっと大事に使っている物でね~結構お高いのよ、それ。傷付けたらイヤン♪」


 嵯峨さんが激怒しながらカウンターに蹴りを入れ、カウンター内側に居る不破さんを威嚇している!何故っ!?と言うかね、不破さん煽る様におねえ言葉を使うのはどうかと思う。
 そうして…何か、滅茶苦茶ゾワゾワ冷や汗が出て来るのだけど、もしかして嵯峨さんα的な何かを出しています?


「お客様、と言うか嵯峨さん。Ωが居る場所でαの威嚇フェロモンこれ以上出したら…幾ら知り合いとは言え、問答無用で店から放り投げるぞ」


 末明さんの実力行使宣言来ましたー!
 何故か嵯峨さん気が立っている~!不破さんはあきらかにからかって居るし、と言うか突っかかって居るのは不破さん相手なのに余裕過ぎでしょ!
 顔もニヤニヤしっぱなしだし。
 対して嵯峨さんってばそんな状態の不破さんを見てギリギリと歯を食いしばって悔しそう。


「くそ!」

「落ち着け~嵯峨、大体想像が付くけどどうみても誤解だ」

「小林さんが此処に居るって言うのに何が誤解なんだよ!」

「いやー予想でしかないが、嵯峨君が思っているようなことは無いぞ?」

「小林さんが居るっていうのに!?」

「本当に落ち着け?俺、不破晃洋は末明ちゃん一筋だぞ?因みに子供が二人居る愛妻家だぞ?更に言うと覚えていないかも知れないけど、新婚さんです。尚新婚さんの世間一般的な期間は1年から3年ぐらいだそうだ。人にもよるらしいけど。俺は3年を推す…って、これは余計か」

「……あ」

「な?」

「…でした、不破さんはそう言う人でした…」


 ナニコレどういう事?


「一体どんな誤解をしていたのかなー嵯峨君は」

「その、小林さんを口説き落として家に連れて行ったって」


 その後小さな声で「てご…げふげふ」って聞こえて来たけど、もしかして手籠?それは無い、幾ら感でも無い。確かに最初の頃は不破さん格好良いとは思っていたけど、末明さんと番になったし。今は可愛い双子ちゃん達のお父さんという風にしか見えない。


「「「ブフォッ!!」」」


 店内の俺の店の常連客の数名が一斉に吹き出した。


「…へぇ~…もしかして、嵯峨さんに変なことを吹き込んだのは君らかな?」


 ぱきり、ぺきり。
 末明さんの手が、指が、ペキペキと…額には青筋がクッキリと。


「い、いいいや、俺は言っていない、多分」

「俺はその、昨日見た光景を「小林店長さんが不破に付いて行ったって」と言っただけで」

「すまん、その、てっきり不破の毒牙に掛かったのかと心配になって。だから嵯峨に「ナンパされて不破に付いて行ったみたいだぞ」って連絡した。で、でも悪気はねえ!」

「小林店長が心配だっただけなんだ!」

「なーるーほーどー?」


 喫茶ロインの店内で、男性常連客の悲鳴が上がったのだった。
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