31 / 138
30
しおりを挟むあの日、ヒムカさんと店内で会ってから二週間後と+数日。
「毎朝来るよね~」
思わず愚痴が出る程、例のあの人であるヒムカさんが朝食を食いに来る。
「来ますね」
そうして何故か、カウンターの内側に居る緑色のエプロンを付けた嵯峨さん。俺みたいな和装の出で立ち(作務衣や甚平)では無い。
それにしても作務衣か。
嵯峨さんの作務衣を着た姿を見てみたい気もするが、俺のサイズだと小さいだろうし、袖とか裾とか丈が足りないだろうなぁ。いっそ購入しちゃう?その前に単衣という手もあるな。
洗える着物とかなら低価格だし、その前に着てくれるかどうか怪しいので内緒で購入だけしちゃうかな。格好良いだろうし、何より俺が見たい。
物凄く見てみたい。
問題はどうやって着てくれるかだ、うむむ…いっそ貸しを作ってとか軽く勝負をしてそのご褒美にどうだろう。
勿論俺のご褒美なので、否定はさせません。ふははは。
…勝負事は負けそうだから、軽い物にしないと駄目な気がする。
閑話休題。
何故カウンター内部に嵯峨さんが居るかと言うと、此処暫く毎朝来るヒムカさん対策の一つだ。
何せヒムカさん、初日は兎も角翌日からカウンターに座って他の客が居るのに猛アタックを開始し初めたから。
「映画のチケットがあるのですが、一緒にどうですか」
「お断りします」
「一緒に食事でも」
「飯提供している店主に言う言葉ではねーな」
朝御飯のみだけどね。
そうして俺、客に対する言葉では無い。
自覚はしているが出来るだけスルーしたいのだ。以前のように、此処で店を開く前の様に【番】のことで胸に痛みを伴って居た時とは全く違う今の状況、予想外過ぎて昔ならば即靡いていたな、ちょろい俺だが今では違う。
立ち直ったと言うには違う気がするが、心機一転と店を持った為、更には新しい出会いが俺を一寸だけ強くしたのかも知れない。
なーんて、な。
嵯峨さんに出会っていなければきっと今もグダグダしていただろう。
「今度の休みの日に一緒に何処か出掛けませんか?」
「仕入れ忙しいので」
「釣りにでも行きません?」
「…友人と行くので」
釣りって言うのはちょっと来るものがある。好きなのですよ。と言うか何処かで聞いたのか?小学校と中学生の時、暇があれば釣りに出掛けていたことを。
…ん、あれ。
そう言えば俺の地元ってドが付いちゃう田舎だから、釣り位しか遊びは無かったような。野球は人数が足りなくて出来なかったし、サッカーはよく知らん。後は何だろう。時期になると山菜やら何やらを取りに行くとか…うーん、野生児か。
思い返すと野生児だったわ、俺等。
女子達は知らん。女子達と俺、あまり交流が無かったので。
ただド田舎から都会へ高校に入学した時、都会の女子の華奢さにドン引きした覚えがある。雪に埋もれる田舎の女子って人によるけど都会の女子より筋肉質な子が多い気がする。
もしかして俺が居た田舎だけだったかも知れないけど。
因みに友人と言うのは偶に来るαカップルの落合行広と一戸京夏の二人のことだ。今度一緒に釣りをする約束をした。勿論嵯峨さん付き。
川釣りか釣り堀にでも出掛けようと楽しみにしているので、口説こうとする問題児はノーサンキューである。
「一緒に行っても!?」
「仲間内とワイワイしたいのでご遠慮願います」
取り付く島がない~!等と言われたが知ったことでは無い。それ以前に貴方とは友人でも何でも無いのです、お店のお客さん止まりです。お客さんは神様ですって言う人では無いからその辺は諦めて下さい。俺としてはスルーしたい人ですので。ですから冷たい態度は当たり前なのです。
何せうっかりヒートに突入したら嫌だからな!
そのまま番になったら目も当てられない。
中学の頃はスルーされたのだ、俺だってスルーしたい。
こんな会話が此処二週間繰り広げられている状態。
その度に素気無く断りを入れていたが、最近一部の常連客までもが面白がって「今日はいけるか」「頑張れよ」と励ます状況。
…非常に迷惑。
※
数日前から胃腸炎でぶっ倒れ中。
痛くてきっついw
12
お気に入りに追加
467
あなたにおすすめの小説
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
ある日突然Ωになってしまったけど、僕の人生はハッピーエンドになれるでしょうか
柚ノ木 碧/柚木 彗
BL
夏休み中に家族で田舎の祖母の家に帰省中、突如Ωになりヒートをおこした僕。
そして豹変したように僕に暴言を吐き、荒れ狂う祖母。
呆然とする父。
何も言わなくなった母。
そして、僕は今、田舎の小さな無人駅で一人立ち尽くしている。
こんな僕だけど、ある日突然Ωになってしまったけど、僕の人生はハッピーエンドになれるでしょうか。
初BL&オメガバース連載で、オメガバースは三ヶ月前に知った、超が付く初心者です。
そのため、ふんわり設定です。
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
物語なんかじゃない
mahiro
BL
あの日、俺は知った。
俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。
それから数百年後。
俺は転生し、ひとり旅に出ていた。
あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる