30 / 138
29
しおりを挟む『うわ、ヒムカさんに会っちゃったか~』
現在実家の幼馴染とメール中。
店は既に閉店時間を過ぎて居て、そうして何故か我が家の小さな台所で嵯峨さんが緑のエプロンを付けて芋の皮剥きをしております。
明日の朝の朝食セットで使うコロッケの下拵えをしようとしたら、何故か「手伝います」と嵯峨さんがくっついて来た。
尚、朝からずっと嵯峨さんは俺の側を離れない。
それは店の外にヒムカさんが居たからで。
朝食セットを店で食ってから、何故か昼食時にも店の外に居たが店内には一歩も入って来ず。
そんなヒムカさんを見て、嵯峨さんが物凄い警戒中。
昼過ぎにはどうやら誰かが通報しちゃったか、商店街のパトロールに来たお巡りさんが職務質問をしているのがチラッと見えたなぁって思っていたら姿が消えた。
有り難い。
町のヒーローお巡りさん、助かりました。
と言うかね、俺に何か用事でもあったのかね~って思わないわけでも無いのだけど、店の前を彷徨かれるのはご勘弁願いたい。幾ら同郷とは言え言葉を交わしたのは今朝が初なのです。そんな人に用事はないわけです。
冷たいのですよ、俺は。
運命の番だからって選ばなかったのはアチラなのだから、俺はノータッチですよ。
身体が反応してヒートを起こそうが、今朝みたいに勝手に赤面してしまっていようが俺は無関係を貫きたいのです。そもそもまともな会話もしていないしね。
実家の幼馴染が教えてくれなければ彼のフルネームさえ知らなかったのだから。
『実害はあった?』
当然ありません。
朝食セットを食った後、店の前を彷徨かれたぐらいですし。精々お巡りさんの世話になった位かな。
『成程、ヒムカさんらしいな。と言うかお巡りさんご苦労さまです。そして既に実害あったのかーい』
んー?という事はこの幼馴染はヒムカさんの性格を知っている、と。
『噂程度だけどね、今のヒムカさん昔と違って引っ込み思案気味らしい。以前は思いやりがあって、リーダーシップを発揮する人だったらしいのに』
ほう?と言うか、俺そんな噂も知らんけど。
『離婚したばかりだから、精神的にダメージ残っているだろうしね』
だよなぁ。
『あーそうそう。嫁さんと離婚した騒動、あの後お袋が聞いちゃったらしいのだけど。と言っても今頃ご近所さん全員知っているとは思うけど』
うわー田舎の噂ってあっという間に広がるからなぁ。しかもエグイ程。
噂されて居ると当人だけが知らないって事が多いし。
と言うことは、俺のことも田舎で噂されたことだろう。
運命の番云々は誰にも知らせて居ないから広がることは無かった。でも俺がバース性の高校に入学したって言うのは知られている筈。中学の時に田舎でヒート起こしているし。
当分の間田舎に帰省するのは止めておこうかな~…ヒムカさんが離婚した件で好奇の目に晒されそうだ。離婚の原因は俺とは無関係だけどな。
『ヒムカさんと元嫁さん、【番契約】して居なかったらしいぞ』
「はい?」
え、何で。
俺が見た時、指輪を嵌めていたでは無いか。
幸せそうに可愛らしい女性の肩を抱いて歩いていたでは無いか。
『離婚したΩの嫁さんの方から「もし運命が現れたら困るから」って、籍だけ入れて居たって』
何だよ、それ。
『酷い話だよな。それで元嫁さんの方に【運命の番】が現れたからって、ヒムカさん捨てられたって』
何だ、その女。
ヒムカさんを愛していたのでは無いのか?
と言うかそんな女に俺は『運命の番』を取られたのか。
『どうなのだろうなぁ。始めのうちは愛情があったのかも知れないけど、ヒムカさんの元嫁さんってプライドが高いΩって言われていたからなぁ』
プライドってオイ、どんなプライドだよ。
『んー…元嫁さんの幼馴染っていうのが俺の今付き合っている彼女なのだけど』
唐突に惚気ぶっ込んで来た。
あーはいはい、御目出度う御座います。
『まぁそう言うなよ。でさ、元嫁さんが昔ペラペラと言っていたらしいのだけど、「こんな田舎でΩは私だけだと思っていたのに、増えたって。しかも男の。巫山戯るな、絶対に優秀なαを男のΩになんて渡さないわよ」って言っていたって』
「それってまんま、俺のことじゃねーか」
つまり初っ端から俺等の仲をぶっ壊してくれていたってことか。
とは言えヒムカさんと俺、出逢っても居ないから(中学の時は遠くからだし、店内の件は客としてだからノーカウント。先日のヒートは会ったと言うよりフェロモンに当てられただけだから、此方もノーカウント)仲なんて始めから無いけど。更に今はもうどうでも良いけど。客と店主と言う関係以外無いし、これ以上関係は進まないだろう。
あるとしたら…緑のエプロンを付けて芋の皮剥きを一心不乱にしている嵯峨さんを見詰める。
俺の視線を感じたのか、「ん?」と呟いて此方を見返す嵯峨さん。
「皮剥き終わった?」
「もう少しです」
「良かったらお礼に飯食っていく?」
腕奮っちゃうよ~、とは言え家庭料理程度だけどね。
「良いのですか!」
「食っていかないなら困るかな。作りすぎちゃったからって言う言い訳があるから」
と言って笑うと、「ほら」と鍋に入っている野菜がたっぷり入った豚汁を嵯峨さんに見せるように傾ける。中身は勿論一人では食いきれない量。他にも今から椎茸と春雨、挽き肉が入った春巻きを揚げますよ~。
「是非、ご相伴に預からせて頂きます」と、何故か嵯峨さんに両手を合わせて拝まれる。
何故に?と思ったら、
「芋の皮剥きをしていたら、無性に腹が減った…」
照れて頭を掻いた嵯峨さんを見て何だか可愛くて、笑った。
うん、俺。嵯峨さんなら客と店主、大家さんと契約者という関係から進みたいな。
13
お気に入りに追加
468
あなたにおすすめの小説
【再掲】オメガバースの世界のΩが異世界召喚でオメガバースではない世界へ行って溺愛されてます
緒沢 利乃
BL
突然、異世界に召喚されたΩ(オメガ)の帯刀瑠偉。
運命の番は信じていないけれど、愛している人と結ばれたいとは思っていたのに、ある日、親に騙されてα(アルファ)とのお見合いをすることになってしまう。
独身の俺を心配しているのはわかるけど、騙されたことに腹を立てた俺は、無理矢理のお見合いに反発してホテルの二階からダーイブ!
そして、神子召喚として異世界へこんにちは。
ここは女性が極端に少ない世界。妊娠できる女性が貴ばれる世界。
およそ百年に一人、鷹の痣を体に持つ選ばれた男を聖痕者とし、その者が世界の中心の聖地にて祈ると伴侶が現れるという神子召喚。そのチャンスは一年に一度、生涯で四回のみ。
今代の聖痕者は西国の王太子、最後のチャンス四回目の祈りで見事召喚に成功したのだが……俺?
「……今代の神子は……男性です」
神子召喚された神子は聖痕者の伴侶になり、聖痕者の住む国を繁栄に導くと言われているが……。
でも、俺、男……。
Ωなので妊娠できるんだけどなー、と思ったけど黙っておこう。
望んで来た世界じゃないのに、聖痕者の異母弟はムカつくし、聖痕者の元婚約者は意地悪だし、そんでもって聖痕者は溺愛してくるって、なんなんだーっ。
αとのお見合いが嫌で逃げた異世界で、なんだが不憫なイケメンに絆されて愛し合ってしまうかも?
以前、別名義で掲載した作品の再掲載となります。
奇跡に祝福を
善奈美
BL
家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。
※不定期更新になります。
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います
ほしふり
BL
ーーーーー魔王の妻、常闇の魔女リアーネは死んだ。
それから五百年の時を経てリアーネの魂は転生したものの、生まれた場所は人間の王国であり、第三王子リグレットは忌み子として恐れられていた。
王族とは思えない隠遁生活を送る中、前世の夫である魔王ベルグラに関して不穏な噂を耳にする。
いったいこの五百年の間、元夫に何があったのだろうか…?
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
なぜか第三王子と結婚することになりました
鳳来 悠
BL
第三王子が婚約破棄したらしい。そしておれに急に婚約話がやってきた。……そこまではいい。しかし何でその相手が王子なの!?会ったことなんて数えるほどしか───って、え、おれもよく知ってるやつ?身分偽ってたぁ!?
こうして結婚せざるを得ない状況になりました…………。
金髪碧眼王子様×黒髪無自覚美人です
ハッピーエンドにするつもり
長編とありますが、あまり長くはならないようにする予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる