ファンサービスではありませんっ!

krm

文字の大きさ
上 下
16 / 22

16☆手料理

しおりを挟む
次の日の夕方、僕は大量の食材を買って家に帰って来た。
色々悩んだ末に、アイツにご飯を作ってあげようと決めたのだ。
料理に自信はないけれど、レシピ通りに作ればなんとかなるだろう。
前に、僕の手料理が食べたいとか言っていたから、ちょうどいい機会だ。

初めて使うキッチンで、野菜を洗って切っていく。前に聞いたアイツの好みの食べ物を思い出しながら、肉料理メインに野菜たっぷりな副菜でバランスを整えようとしていた。
なんだか、彼氏のためにご飯を作る彼女みたいで気恥ずかしい。
もっと早くこうしていたら、僕たちは上手くいっていたのかもしれないな、と思う。
僕と別れて、いつかはここで他の誰かがご飯を作るのだろうか。そう思うと、せつなくなってくる。
(いや、今はそんなこと考えるのやめよう)
気持ちを切り替えて、アイツが満足するような夕飯を作ることに集中した。


家中に美味しそうな香りが漂い始めた頃、僕はスマホを手に取った。
マネージャーから聞いていたスケジュールでは、そろそろ今日の撮影が終わる時間だ。今なら電話をしても問題ないだろう。
「もしもし」
数コールで電話に出た十夜の声に、少し緊張しながら通話をする。
「あのさ、今日は早く帰れる?」
「……いや、事務所に戻ってやることもあるから……今日も事務所に泊まるよ」
想定通りの返答が返ってきた。だから、僕も考えていた台詞を言う。
「夕飯作ったからさ、食べにだけでも帰ってきてよ」
アイツの性格的に、自分のためにしてもらったことを無下にすることは出来ないはずだ。
「え……?夕飯を、光輝が……?」
「そうだよ、僕が、お前のために作ったんだよ~」
さらに、少々ふざけた感じでだめ押ししてみる。
「……今すぐ帰る」
分かりやすい反応に、吹き出しそうになってしまった。
きっと、朝も昼もろくに食べていないだろうから、夕飯が出来ているというのは魅力的だろう。
ああ言えばきっと帰ってくるとは思っていたけれど、今すぐ、だなんて、可愛いところもあるなぁと思ってしまった。

計画通りにいったことが嬉しくて、上機嫌で料理を盛り付けていると、ドアが開く音が聞こえる。かなり急いで帰って来たのだろう。部屋に入ってきた十夜は、少し息を切らしていた。
「おかえり~」
相当驚いているのか、僕の挨拶に返事もせず、料理を見て目を見開いている。
「これ……全部、光輝が?」
「そうだよ!すごいだろ」
頑張って見栄えよくしたので、自分でも感心する程、色とりどりな御馳走が出来上がっていた。
「あぁ……すごく美味そうだ……嬉しい……」
「えっ……」
褒められて当然という気持ちでいたが、そんなストレートに言われると調子が狂う。
「あ……ありがと……」
照れ隠しでぶっきらぼうに返事をした。

「いただきます」
ご飯とスープをよそい、二人で揃って食べ始める。十夜が僕の手料理を食べるのは初めてだ。
反応が気になって、恐る恐る口を開く。
「どう……?」
「うん……すごく美味しい……」
噛みしめるように味わっている様子に、自然と顔が緩む。良かった、口に合ったようだ。

気合を入れ過ぎて、パーティでもするかのようなボリュームの料理を用意してしまったが、あっという間にコイツの胃袋へと消えていく。どの料理も美味しそうに食べてくれているので、嬉しい。
たわいない話をしながら、穏やかな時間を過ごした。まるで、本当の恋人同士のようだ。でも、これが最初で最後になるかもしれない。そう思うと、胸の奥がズキズキと痛んだ。


食べ終わり、十夜が後片付けをやってくれている。僕がやる、と言ったけれど、このくらいやらせて欲しいと押し切られてしまった。
「ねぇ、また仕事に戻るの?今日はもういいんじゃない?」
「そうだな……」
もう時間も遅い。今から仕事に戻るくらいなら、こっちで寝てから朝早く出勤する方が効率的だろう。
片付けが終わった十夜が、僕の前に座る。仕事には戻らないことを決めたのか。それなら、お酒でも出してやろうか、なんて考えていると、十夜が口を開いた。

「……光輝、もう別れよう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!

toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」 「すいません……」 ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪ 一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。 作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩

ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。 ※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

処理中です...