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16☆手料理
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次の日の夕方、僕は大量の食材を買って家に帰って来た。
色々悩んだ末に、アイツにご飯を作ってあげようと決めたのだ。
料理に自信はないけれど、レシピ通りに作ればなんとかなるだろう。
前に、僕の手料理が食べたいとか言っていたから、ちょうどいい機会だ。
初めて使うキッチンで、野菜を洗って切っていく。前に聞いたアイツの好みの食べ物を思い出しながら、肉料理メインに野菜たっぷりな副菜でバランスを整えようとしていた。
なんだか、彼氏のためにご飯を作る彼女みたいで気恥ずかしい。
もっと早くこうしていたら、僕たちは上手くいっていたのかもしれないな、と思う。
僕と別れて、いつかはここで他の誰かがご飯を作るのだろうか。そう思うと、せつなくなってくる。
(いや、今はそんなこと考えるのやめよう)
気持ちを切り替えて、アイツが満足するような夕飯を作ることに集中した。
家中に美味しそうな香りが漂い始めた頃、僕はスマホを手に取った。
マネージャーから聞いていたスケジュールでは、そろそろ今日の撮影が終わる時間だ。今なら電話をしても問題ないだろう。
「もしもし」
数コールで電話に出た十夜の声に、少し緊張しながら通話をする。
「あのさ、今日は早く帰れる?」
「……いや、事務所に戻ってやることもあるから……今日も事務所に泊まるよ」
想定通りの返答が返ってきた。だから、僕も考えていた台詞を言う。
「夕飯作ったからさ、食べにだけでも帰ってきてよ」
アイツの性格的に、自分のためにしてもらったことを無下にすることは出来ないはずだ。
「え……?夕飯を、光輝が……?」
「そうだよ、僕が、お前のために作ったんだよ~」
さらに、少々ふざけた感じでだめ押ししてみる。
「……今すぐ帰る」
分かりやすい反応に、吹き出しそうになってしまった。
きっと、朝も昼もろくに食べていないだろうから、夕飯が出来ているというのは魅力的だろう。
ああ言えばきっと帰ってくるとは思っていたけれど、今すぐ、だなんて、可愛いところもあるなぁと思ってしまった。
計画通りにいったことが嬉しくて、上機嫌で料理を盛り付けていると、ドアが開く音が聞こえる。かなり急いで帰って来たのだろう。部屋に入ってきた十夜は、少し息を切らしていた。
「おかえり~」
相当驚いているのか、僕の挨拶に返事もせず、料理を見て目を見開いている。
「これ……全部、光輝が?」
「そうだよ!すごいだろ」
頑張って見栄えよくしたので、自分でも感心する程、色とりどりな御馳走が出来上がっていた。
「あぁ……すごく美味そうだ……嬉しい……」
「えっ……」
褒められて当然という気持ちでいたが、そんなストレートに言われると調子が狂う。
「あ……ありがと……」
照れ隠しでぶっきらぼうに返事をした。
「いただきます」
ご飯とスープをよそい、二人で揃って食べ始める。十夜が僕の手料理を食べるのは初めてだ。
反応が気になって、恐る恐る口を開く。
「どう……?」
「うん……すごく美味しい……」
噛みしめるように味わっている様子に、自然と顔が緩む。良かった、口に合ったようだ。
気合を入れ過ぎて、パーティでもするかのようなボリュームの料理を用意してしまったが、あっという間にコイツの胃袋へと消えていく。どの料理も美味しそうに食べてくれているので、嬉しい。
たわいない話をしながら、穏やかな時間を過ごした。まるで、本当の恋人同士のようだ。でも、これが最初で最後になるかもしれない。そう思うと、胸の奥がズキズキと痛んだ。
食べ終わり、十夜が後片付けをやってくれている。僕がやる、と言ったけれど、このくらいやらせて欲しいと押し切られてしまった。
「ねぇ、また仕事に戻るの?今日はもういいんじゃない?」
「そうだな……」
もう時間も遅い。今から仕事に戻るくらいなら、こっちで寝てから朝早く出勤する方が効率的だろう。
片付けが終わった十夜が、僕の前に座る。仕事には戻らないことを決めたのか。それなら、お酒でも出してやろうか、なんて考えていると、十夜が口を開いた。
「……光輝、もう別れよう」
色々悩んだ末に、アイツにご飯を作ってあげようと決めたのだ。
料理に自信はないけれど、レシピ通りに作ればなんとかなるだろう。
前に、僕の手料理が食べたいとか言っていたから、ちょうどいい機会だ。
初めて使うキッチンで、野菜を洗って切っていく。前に聞いたアイツの好みの食べ物を思い出しながら、肉料理メインに野菜たっぷりな副菜でバランスを整えようとしていた。
なんだか、彼氏のためにご飯を作る彼女みたいで気恥ずかしい。
もっと早くこうしていたら、僕たちは上手くいっていたのかもしれないな、と思う。
僕と別れて、いつかはここで他の誰かがご飯を作るのだろうか。そう思うと、せつなくなってくる。
(いや、今はそんなこと考えるのやめよう)
気持ちを切り替えて、アイツが満足するような夕飯を作ることに集中した。
家中に美味しそうな香りが漂い始めた頃、僕はスマホを手に取った。
マネージャーから聞いていたスケジュールでは、そろそろ今日の撮影が終わる時間だ。今なら電話をしても問題ないだろう。
「もしもし」
数コールで電話に出た十夜の声に、少し緊張しながら通話をする。
「あのさ、今日は早く帰れる?」
「……いや、事務所に戻ってやることもあるから……今日も事務所に泊まるよ」
想定通りの返答が返ってきた。だから、僕も考えていた台詞を言う。
「夕飯作ったからさ、食べにだけでも帰ってきてよ」
アイツの性格的に、自分のためにしてもらったことを無下にすることは出来ないはずだ。
「え……?夕飯を、光輝が……?」
「そうだよ、僕が、お前のために作ったんだよ~」
さらに、少々ふざけた感じでだめ押ししてみる。
「……今すぐ帰る」
分かりやすい反応に、吹き出しそうになってしまった。
きっと、朝も昼もろくに食べていないだろうから、夕飯が出来ているというのは魅力的だろう。
ああ言えばきっと帰ってくるとは思っていたけれど、今すぐ、だなんて、可愛いところもあるなぁと思ってしまった。
計画通りにいったことが嬉しくて、上機嫌で料理を盛り付けていると、ドアが開く音が聞こえる。かなり急いで帰って来たのだろう。部屋に入ってきた十夜は、少し息を切らしていた。
「おかえり~」
相当驚いているのか、僕の挨拶に返事もせず、料理を見て目を見開いている。
「これ……全部、光輝が?」
「そうだよ!すごいだろ」
頑張って見栄えよくしたので、自分でも感心する程、色とりどりな御馳走が出来上がっていた。
「あぁ……すごく美味そうだ……嬉しい……」
「えっ……」
褒められて当然という気持ちでいたが、そんなストレートに言われると調子が狂う。
「あ……ありがと……」
照れ隠しでぶっきらぼうに返事をした。
「いただきます」
ご飯とスープをよそい、二人で揃って食べ始める。十夜が僕の手料理を食べるのは初めてだ。
反応が気になって、恐る恐る口を開く。
「どう……?」
「うん……すごく美味しい……」
噛みしめるように味わっている様子に、自然と顔が緩む。良かった、口に合ったようだ。
気合を入れ過ぎて、パーティでもするかのようなボリュームの料理を用意してしまったが、あっという間にコイツの胃袋へと消えていく。どの料理も美味しそうに食べてくれているので、嬉しい。
たわいない話をしながら、穏やかな時間を過ごした。まるで、本当の恋人同士のようだ。でも、これが最初で最後になるかもしれない。そう思うと、胸の奥がズキズキと痛んだ。
食べ終わり、十夜が後片付けをやってくれている。僕がやる、と言ったけれど、このくらいやらせて欲しいと押し切られてしまった。
「ねぇ、また仕事に戻るの?今日はもういいんじゃない?」
「そうだな……」
もう時間も遅い。今から仕事に戻るくらいなら、こっちで寝てから朝早く出勤する方が効率的だろう。
片付けが終わった十夜が、僕の前に座る。仕事には戻らないことを決めたのか。それなら、お酒でも出してやろうか、なんて考えていると、十夜が口を開いた。
「……光輝、もう別れよう」
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