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15☆祭りの後

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次の日、いよいよ生放送に出演する番になった。
「生放送でお送りしています、春の音楽祭!次は、今話題のアイドルグループ、『Colorful Stars』の皆さんです!」
トークの少ない歌メインの番組のため、挨拶と簡単な紹介の後、すぐにスタンバイする。
「では、新曲を披露してもらいましょう!お願いします」
曲が流れ、メンバー全員で踊り始めた。
歌いながらチラッと横を見るが、十夜は特に変わった様子はなく、いつも通りパフォーマンスをしている。
曲が終わるタイミングで、僕達はキスをすることに決めていた。
最後のフレーズを歌い終わり、二人でステージの中央に移動する。
僕達は向かい合うと、お互いの顔を見つめ合った。そして、徐々に距離が縮まっていく。

――十夜と、久しぶりのキス。

(……十夜には、他に、好きな人がいるかもしれないのに……?)
唇が触れ合う瞬間、僕は胸を締め付けられるような気持ちになってしまった。
「……っ、やだっ!」
思わず叫んだ自分の声に、はっと我にかえる。気づいた時には、十夜を突き放していた。
これはまずい、と思い、恐る恐る顔を上げる。
十夜は無表情で僕を見つめていた。何か考えているようだが、その心は読み取れない。じっと見つめ返すと、瞳の奥が揺らいだように見えた。
「あ……」
何を言えばいいのか分からず、言葉に詰まる。その時、CMに入ることを知らせる音楽が流れた。
「一旦CM入ります!」
スタッフの声がスタジオに響き渡る。
「……っ」
僕は何も言うことができず、ただその場に立ち尽くしていた。
「大丈夫か?」
心配そうな声で、翔に声をかけられる。
「あ……いや……」
返事をしようとするが、それ以上何も言えない。
「光輝くんは楽屋で休んでください」
マネージャーに背中を押され、無理矢理歩かされるようにして楽屋に戻った。

「はぁ……」
扉を開けると同時に、大きな溜息が出た。ソファーに座り、天井を眺めながら考える。
(どうしよう……)
キスを拒否してしまったら、もっと噂が悪化するのは分かっていた。だけど、キスをすることは出来なかった。だって、本当の恋人ではないんだから……。
「光輝」
楽屋の扉が開き、十夜が入ってきた。
「……っ!」
目が合って、気まずさに目を逸らす。
何を言えば良いのか分からない。十夜も何も言わずに立っている。
気まずい沈黙が続き、先に十夜が口を開いた。
「……今日は、家に帰らないから」
感情の無い声でそれだけ告げると、そのまま出て行ってしまう。
バタンと音を立てて閉まった扉を、僕は呆然と見つめることしかできなかった。
一人残された部屋の中で、ぼんやりと考える。
(どうしてこんなことになっちゃたんだろう……)
今まで喧嘩ばかりしてきたけれど、それでも楽しかった。ずっとこのままの関係が続くと思っていたのに……。
「はは……」
自嘲気味な笑いが漏れる。自分で思っている以上に、心にダメージを受けていた。
せっかく、悪い噂を挽回する機会を与えてもらったのに。僕が何もかも台無しにしてしまった。
もう元には戻れないだろう。僕はその場で項垂れていた。

しばらくするとマネージャーがやって来る。
「光輝くん、ごめんなさい。光輝くんの気持ちを考えていなくて……」
申し訳なさそうに謝られてしまった。
「えっ!いや、そんなことありません。悪いのは僕です……」
仕事として割り切ることが出来ていなかった。みんなに迷惑をかけてしまい、プロ失格だ。
「本当にすみませんでした」
深々と頭を下げる。
「いえ、今日はゆっくり休んでくださいね。十夜くんはこれからドラマの現場に向かうことになりましたので……」
「はい……」
そうして、僕は一人で家に帰った。


この大きなベッドで、一人で寝る何度目かの夜。
寂しさが込み上げて全く眠れない。同居する前は、ずっと一人で寝ていたはずなのに。
一人で寝るのが――十夜がいないのが、こんなに辛いなんて。
毎晩感じていたアイツの温もりを思い出してしまい、泣きたい気分になった。
「別れたく、ないなぁ……」
ぼそっと溢した言葉に、自分で驚く。大嫌いな男と仕方なく付き合って同居しただけのはずが、別れたくないと思うようになっていたのだ。
いつの間にか、アイツに――恋愛感情が芽生えていたのだろうか。
今頃そんなことに気づいても、もう遅い。僕が自分で、すべて壊してしまった。

生放送で、キスしようとしたアイツを振り払った時の、あの顔。揺らいだ瞳に、強い感情が渦巻いているのを感じた。
怒らせたのはもちろんだが、それ以上に傷つけてしまったのかもしれない。せっかく歩み寄ってくれていたのに。
(でも、本当は好きな人がいるんだろ……)
それならいっそ、優しくなんてしないで欲しかった。
どうして毎晩一緒に寝たりしたのか。
どうして――キスしたりしたのか。
思い出す程、悲しみが押し寄せる。
そんなことをされたから、愛し合って付き合っているかのような錯覚を起こしてしまったんだ。
あれは、アイツなりの誠意だったのだろうか。付き合うからには、真剣に向き合おうとしていたのかもしれない。それを、僕は裏切ってしまったのだ。
(僕は、アイツに何もしてあげてなかったな……)
僕も誠意を尽くすべきだったのではないか。
もう、手遅れなことは分かっている。それでも、最後に何か出来る限り努力してみよう、と決意した。
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