SHAPES スガタカタチの変動性

宇路野 朧

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ー9ー 殺戮

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 はらわたがちぎれている時、上からの声など気に留めることはできない。
 目は何も見ていない。
 ただ叫び、身悶えるだけ。

「ああああああああ!!!」

 しかし、感じていた痛みは、突然消える。

「治ったかな」
 苦痛を恐れてゆっくりと目を開けるが、痛みは感じない。
 目の前には若い男の顔があった。かがみ込んで久留米の顔を覗き込んでいる。
 少し伸ばした髪が、揺れている。

『誰でしょうか』
 降り注ぐ拳はいつの間にか病んでいて、バケモノは聞いた。
「ほら聴かれてるよ」
 こつっとみぞおちをこづかれる。拳が貫通したはずのみぞおちを。
『あなたです、あなた』
「ああ、俺ぇ? 俺なんかに物聞いても何も面白くないよ?」
 俺なんかよりも質問は若人にしな、なんて呟きながら久留米のことを起き上がらせる。
「ほら、もう痛くないやろ」
「え...、はい...」
「それは良かった」
『なんでこの空間に入って来れたのです?』
「別にいいでしょ」
『殺しますよ』



「どっちがどっちに?」



『文脈が成り立っていません』
 この言葉が最後まで発せられることはなかった。
 拳が、黄色い肌のバケモノの、みぞおちらしい所に突き刺さったからである。

「これはそこの少年の分な」

 バケモノはコンクリートでできた道路に、深く沈み込む。

『何をします』
 起き上がった黄色い肌のバケモノの、ついさっき拳が突き刺さった部分は、なんともなかったかのようだった。
「わ、治すの早いね。でもそれ見掛け倒しでしょ」

『う』
 先ほどと同じ光景。今度は頭に拳が突き刺さり、黄色い体はまたコンクリートの上に舞い戻る。
「うるさいって言おうとしたってことは事実ってことだもんね」

 起き上がったバケモノの後ろに、お兄さんは移動していた。

『いつの間にっ...』
 引き攣った顔をしながら振り返るバケモノ。
 久留米も、いつの間に移動したのか見ることはできなかった。

「もういい? 君そんな強くないしさ、俺に勝てる可能性ないでしょ。人生...人生で合ってるかな、まあ人生はちゃんと謳歌したかい?」

『何を』
 言葉に被せるようにして、淀みなくお兄さんは言った。

「じゃあ、殺すね」




 一瞬の出来事だった。
 右上腕から手首が刃物のようになったかと思うと、それは綺麗な弧を描いた。

 黄色いバケモノを、縦に両断した。

 青い血がパッとぱっと飛び散る。


 久留米は呆然と見ていることしかできなかった。

 今何が起こったのか、否、この30分間で何が起こったのか、何も理解できなかった。
 どうやら、今日一日を共に過ごしたバケモノが自分を殺しかけ、その傷を治癒したお兄さんが化け物を殺したらしかった。
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