上 下
8 / 85
美少女に転生!?

8話 華の大学生活!

しおりを挟む
 それからの俺は、必死で勉強して念願の慶光大学になんとか合格した。

 松島寛太として受験勉強を一度経験していることが有利に働いたのもあるだろうが、小田嶋麻衣の地頭が良かったのもあるだろう。元々はそれほど勉強に力を入れていたわけでもなさそうだったが、集中して勉強すれば成績は順調に伸びていった。
 性格的な要素もあるだろう。松島寛太はとにかくプレッシャーに弱かった。大事な試験や面接の場面では必ずお腹を壊していたし、それが原因で失敗が続くと「どうせ上手くいくわけがない」と自分で自分のことを諦めていたも。
 小田嶋麻衣はそうではなかった。「ここが大事な場面だ!」というプレッシャーの実感は松島寛太の時と何ら変わらないのだが、吐き気もなく心拍数の上昇も明確には感じないとなると普段の実力が発揮出来た。それによって生まれた成功体験が次の意欲を生む……という好循環だった。

 努力の甲斐あって念願の慶光大学に合格した時は、当初の目的も忘れてとても嬉しかった。このままどんな願いでも叶えられそうな気さえした。
 
 優里奈も宣言した通り慶光大学に入学した。
 私は残りの高校生活の全精力を勉強に充てていたけれど、優里奈は別にそこまで力を入れている様子もなく部活も普通に毎日していたし(彼女はバスケ部だった)、友達と遊びにも行っていた。……何だよ、ハイスペック人間め!
 でも、慣れない大学生活で彼女がそばにいてくれることはとても心強かった。何より高校は女子校だったのに対し大学では男子との共学になるのだ!

 私の男性恐怖症は全然改善されなかった。半径1メートル以内に男子が近付いてくると鳥肌・悪寒・吐き気……分かりやすく拒否反応はそのままに出た。
 大学に入ってからは、なるべく目立たないように地味な格好をして、顔を半分以上隠すようなマスクとメガネを常にして、講義も教室の隅っこで息を潜めて受けていたような状態だったのだが……それでも彼ら男子大学生の美少女を見抜く嗅覚と、声を掛けてくる図々しさというものはズバ抜けたものだった。

「何学科なの?」
「1年生?もうサークルは入った?」
「今日新歓コンパがあるんだけど来ない?」

 一日に何度声を掛けられたか覚えていられないほどだった。
 松島寛太として生きている時は「美少女なんてみんなに優しく接してもらえて性格も悪くなりようがないし、何も言わずとも常に周りに気を遣ってもらって、ルックスだけで人生勝ち組だろ!それに比べて平凡な俺は……」という僻みの気持ちが多分にあったのだが、美少女には美少女の苦労があることを知った。最初は断るにしても相手を気遣って角が立たないように断っていたが、あまりに頻繁になるとそれもちょっと追い付かなくなってきてしまう。

 そんな時はいつも優里奈が助けてくれた。間に入って適切な距離を保ち、それほど気まずくなく、大学生活に支障が出ないように上手く立ち回ってくれた。……マジで本当に優里奈が同じ大学にいてくれなかったら大学生活は破綻していたと思う。

 だけど……俺には同時にそうやって声を掛けてくる男子大学生に対して羨ましいという気持ちもあった。
 俺が大学生の時は自分と似たような陰キャのささやかな仲間内だけで固まり、そうやって明るく生きている陽キャたちをバカにしていた。……少なくとも表向きは彼らをバカにすることで、自分たちのプライドを保っていた。
 でも大学生活が一度過ぎてしまったから分かるのは、なるべく調子に乗っておくべきだったということだ。周りと比較して卑下する必要なんてない。若い時分なんていうのはそれだけで調子に乗る正当な理由になる。今調子に乗らなければ今後の人生で調子に乗ることは恐らく出来ないだろう。

 まあ前世から受け継いだそんな感傷的な気持ちもあったし、実際問題として男に接する機会を増やし男性恐怖症を克服したいという実際的な希望もあった。上手く改善されていけば、WISHのオーディションを受けメンバーとして「一生をWISHに捧げる」という条件を果たそうという気持ちも消えてはいなかったからだ(WISHはその後も何度もオーディションを開催していた)。やはりメンバーになってステージで輝くこと以上に「WISHのために人生を捧げる」ことはないように思えたからだ。……天使ちゃんや神様も文句の付けようがないだろ?
 でも実際には男性恐怖症は全然改善されなかった。こちらが美少女だということに気負うことなく普通に接してくれて、友達くらいの距離感になる男子も何人かいたが、そういった相手でも身体的拒否反応は相変わらずだった。
 こちらの男性恐怖症を理解してくれて受け入れてくれた男子が、飲み会の時に酔って抱きついてきた時はショックが大きかった。結局フランクに接してきたのはそういった下心があったのか……という恐怖心もあったし、それだけ関係性を築いてきた相手に対しても小田嶋麻衣の身体は強い拒否反応を示すのか……というショックもあった。
 どう足搔いても男性恐怖症は克服出来る気はしなかった。

 不思議なもので陰キャをしている時の方が男子は積極的に声を掛けてきた。陰キャの美少女というのは男子の「自分だけが知っている感」「自分が発掘した感」を刺激するのに最高なのかもしれない。
 大学2年生になってからは普通にメイクもファッションも楽しんだ。「その方が面倒な男の子から声を掛けられることも減るんじゃない?」という優里奈のアイデアだったのだが効果は抜群だった。多くの男はあまりに露骨な美少女を目の当たりにすると眩しさのあまり引け目を感じて、中々声を掛けられないものらしかった。
 その代わり「実はプロ野球選手と付き合っているらしい」「金持ちのパトロンがいる」「神崎優里奈とガチで付き合っている」とか様々な噂を流されたりもした。陰キャをしていた時は女の子たちとは結構仲良くなれたのだが、そういった噂が流れ始めると、新たに深く関わってくるような女子はほとんどいなくなった。……噂話ってひどくない?

 まあでも、俺はレコード会社か芸能プロに就職することを目標にしていたので、最低限の交友関係で勉強に集中できたことは結果的に良かったのだろう。在学中にビジネス関係の資格の取得にも努めたのは我ながら立派だったと思う。

 俺がそんな大学生活を送っている間に当の『WISH』は順調に国民的アイドルへの階段を駆け上がっていった。
 最初の1年は思ったよりも人気が出ず、プロデューサーである「滝本篤最大の失敗!」という揶揄のされ方もしたのだが、2年目以降は順調にヒット曲を飛ばし、テレビの冠番組を持ち、メンバーがグラビアやモデルとして活躍し、大規模な会場でコンサートを行う……という段階を順調に踏んでいった。
 俺が松島寛太として歩んでいた5年前と、そこは変わっていないようだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

無限湧きザコ転生 スライム編 ~転生に飽きた女神たちの残酷な遊び~

かえる
ファンタジー
【毎時更新:完走!】 基本、死にます。 だって経験値稼ぎのザコだから。 でもたまーに、何かあるかも。 あると……いいな……。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

処理中です...