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153 絵を描く

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「無理ですって!」
「大丈夫」
「いやいや、俺じゃダメですよ!」
「大丈夫」
「あ、あの……リョーさん?」
「大丈夫」
「…………」
「大丈夫」
「…………はあ………………判りましたよ」

よしっ!
大丈夫だけで乗り切ったぞ!

勇者はトボトボと舞台上に行く。
俺は支配人に紙と書く物を用意してと頼む。

う~ん、比較する物が無いと盛り上がりに欠けるか?

「王太子様も一緒にどうぞ」
「……こんな事を言ってくるのはお前だけだぞ?」
「親しく話せって言ったのは王太子様では?」
「……俺よりもファーの方が絵が上手い」
「兄様が私を売った!
 比較させる気でしょ? だったらアイザックが良いと思うわ」
「ファ、ファー様?!」

押し付け合いが始まってしまった。
しかし力関係はどうにもならないようで、アイザックさんに決まってしまった。

アイザックさんもトボトボと舞台上に。



舞台上では準備が出来たようだ。

う~ん、何を書いてもらうかな?
ここにある物を書かせてもダメだよね。
ちょっと複雑だけど、皆の記憶にある物がベストか。

ついでに言えば、人物も入ってた方が絶対に面白い絵になるはず。
テレビでは棒人間を書いたりしてた娘が居たと記憶している。
その棒人間も足の角度が変だったりして面白かった。

「制限時間は! ……どうやって決めよう?」

時間を計る物が何も無かった!
悪魔にこっそりと計ってもらうのが確実だが、勇者居るしなぁ。

「リョー様、これはいかがでしょう?」

そう言って支配人が用意した物は、線香。
なるほど、これが燃え尽きるまでの時間を利用するのか。

短く折って火を付けて実験してみるが、日本の線香と同じでなかなか燃えない。
あまり長くても面白くないしダレるので、1cmくらいに折って使う事にした。

「制限時間は、これが燃え尽きるまでとします。
 書いてもらうのは“馬車と御者”です!」
「ええ~~~~」

早速勇者から反対の声が上がる。
勇者はあまり馬車を使わないのかな?
そう言えば走って移動してたもんな。
ま、憶測で書いてもらった方が面白くなるからOKだね!

「ではスタート!」

真剣な表情で絵を書き始める二人。
どんなのが出来るかな?



「はい、そこまでです!」

支配人の声で両者が筆を置く。
いや、勇者が未練がましくまだ書こうとしてるな。
あっ、支配人に止められた。

「じゃあ、まずは……アイザックさんのから見てみようか。はい、オープン!」
「え、えっと、こんな感じです……」

う~む、なかなか写実的な絵だ。
だけど人物が苦手なのか、御者がボカして書いてある。

「悪くないですね。どう思いますか、王太子様?」
「そうだな。御者が適当だな。繋がれてるのは……馬か?」

馬まで見てなかったけど、言われてみれば確かに変だ。

「2頭書いたのですが、分けるのに失敗しまして……」

なるほど、手前と奥で2頭なのか。
くっついてるので、足が8本ある謎の生物に見えるわ。

それを見ていた人達から、少し笑いが起きる。
そうそう、そういう事なんだよ。

「じゃあ、ヒジリ君のを見てみようか。はい、オープン!」
「もう良いじゃないですか! 止めましょうよ!」
「何言ってるんだ、書いたんだろ? はい、オープン! ダダン!」

諦めて絵をこちらに向けた勇者。

…………それは~~~~馬車?

「えっと、何を書いたの?」
「……お題の“馬車と御者”ですよ」
「そうか、馬車と御者か……」

俺には、リアカーを引く宇宙人にしか見えないんだが。

「何で馬車が2輪なの?
 何で御者が馬車に乗っていなくて引いてるの?
 ってか、馬車だよ? 馬が居ないよね?」

俺のツッコミに皆が爆笑した。
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