上 下
8 / 117
〜シンデレラガール〜

アスペルド信仰教団の陰謀②

しおりを挟む
 私はフードを被って誰にも見つからないように路地裏を歩いていた。

 この前のペスト菌騒動で多くの人を救ったため町中の人が私を聖女様、聖女様と呼んでくるようになった。最近は家を出る時はなるべく人に見つからないようにフードを深く被って顔を隠すようにして外出している。

 今日も本当はあまり外出することは控えたいのだが、アスペルド教会へ来てほしいと司祭様からの申し出があり家族に促され外出することになった。なんでも多くの人を救った功績が認められてアスペルド教団の重役に選ばれるかも知れないということだった。

 アスペルド教団の重役に選ばれることはとても名誉なことだ、と言って家族はとても喜んでくれたので、期待を裏切る事ができずにアスペルド教会に向かうことにした。

 私は路地裏をこそこそ歩いていると大きな門の前に衛兵が二人立っていて、私を見るなり衛兵の一人が怪しいやつと声をかけてきた。

「そこのお前! 止まれ。怪しい奴だな顔を見せろ!!」

 私はビクビクしながら衛兵の言う通りフードをめくって顔を見せた。衛兵は私の顔を見ると驚いたように声を出した。

「お……お前は? ティアラ様じゃないか?」

 衛兵の一人がそう言うともう一人の衛兵もびっくりして声を上げた。

「何! 本当か? こんなにかわいい少女が?」

 私は男の人からかわいいと面と向かって言われたのが嬉しかったが、衛兵の二人は興奮して大きな声で叫ぶものだから周りの人たちが段々と私に気づいて近寄ってきた。

 衛兵はそんなことお構いなしでさらに強引に声をかけてきた。

「ここで会えたのもいい機会だ。私たちと食事にいきましょう」

 二人の衛兵はそういうと私の返事を待たずに腕を掴んでどこかに連れて行こうとした。私は必死で抵抗したが大人の男の人の力にはかなわず引きずられて行った。

「おーーーい。待ってくれ!」

 後ろから声をかけられて私と二人の衛兵は振り向いた。そこには銀髪の整った顔立ちの男が走ってこちらに近づいて来ていた。すると銀髪の男は私に声をかけてきた。

「ごめん。ごめん。待った?」

 私がポカンとした顔をしていると、銀髪の男は衛兵に向かって話をした。

「この子は僕の彼女です。貴方たち僕の彼女の手を離してくれないか?」

 衛兵は暫く怪しい男の顔を見ていたが、急に衛兵の一人が驚いた顔をして申し訳ありません、と言って仲間の衛兵を連れて逃げて行った。その様子を見て私は何がなんだかわからなかった。

 二人の衛兵が居なくなると周りの人々が私たちに近づいてきていた。あっという間に私たちの周りに人だかりができて、私は取り囲まれる形になった。私がどうしようか悩んでいるといきなり銀髪の男が私を抱っこしてきた。私は急のことなので頭がパニックになっていると銀髪の男は耳元でそっと囁いた。

「しっかり捕まれよ」

 銀髪の男は私を抱っこしたままそう言うと近くのゴミ箱の上を踏み台にして飛び上がった。するとフワリと高く空中に舞い上がり、家の二階まで届いた。二階の窓枠を踏み台にして再び高くジャンプするとあっという間に家の屋根上まで飛んでいた。

 まるで無重力空間をジャンプしているようにフワリと私たちは舞い上がった。銀髪男は家の屋根を次々と踏み台にしてジャンプしていった。私は銀髪男に抱っこされながら空を飛んでいた。私はこれがお姫様抱っこというものなのかと思った。

 小さい頃より周りの友達はいっか運命の人に会ってお姫様抱っこされたいと言っていたがこんなにも良いものであれば憧れるのも納得した。屋根の上にはまだ昨晩の雪が積もっていたので銀髪の男は新雪の雪に足跡を残しながら次々と家の屋根を飛んで行った。私はなぜ重力を無視して飛んでいられるのか不思議に思い銀髪の男に聞いてみた。

「なんで重力を感じないの?」

「魔法の力だよ」

 銀髪の男は当たり前のように私に言った。私は魔法という言葉を聞いて自分が異世界に転生したことを実感した。ここは異世界だから魔法が存在したのである。ゲームのように私にも魔法が使えるかもしれない。私は魔法を使えるようになりたいと思っていたので男に聞いてみた。

「すごい! どうやったら魔法が使えるようになるの?」

「魔法を使うにはまず、魔力が必要になるんだ」

「魔力はどうやるともらえるの?」

「魔力は人の思いが力になるんだ」

「人の思い?」

「そうだ。人から尊敬や愛されるとその思いが力になりやがて思われた人の魔力になる。だからティアラ。君はすでに多くの人から慕われているおかげで魔力が普通の人よりは多いけど、まだまだ魔法が使えるようになるにはもう少し時間が掛かるだろうな」

「本当に? 魔力が溜まったら使い方を教えてくれる?」

「いいよ。時期が来たら俺が会いに来てやるよ」

「いいえ。そんなの悪いわ私から会いに行くから居場所を教えて?」

「それは秘密だ。魔法使いは居場所を知られちゃだめなんだ」

「そうなの? わかったわ。それじゃせめてあなたの名前だけでも教えてもらっていいかしら?」

「アルフレッド」

 アルフレッドはそう言うと一際高い建物の屋根を飛び越えた。私はフワリとした感覚にまるで夢の中のような感覚になり心地よく思っているとアルフレッドがいきなり、まずい、と言った。

「どうしたの?」

「魔力が切れた」

「え? どう言うこと?」

「このまま落ちるから気をつけて」

「は?」

 私がそう言った途端二人とも落下していった。

「キャーーーーーーー!!!!」

 私たちは古い古屋の屋根を突き破ると高く積み上がった藁の上に落下した。

「ゴホゴホ……大丈夫か?」

「ええ……、何とか生きてます」

 私はそう言って顔を上げると目の前に怒った馬の顔があった。

「まずい! 早くここから出るぞ!!」

 アルフレッドは私のフードを掴むと引っ張りながら古屋から飛び出した。私達は二人で藁と埃だらけの格好で路地裏を走った。

 しばらく走ったところでようやく落ち着いた私は服に付いた藁や埃を払いながらアルフレッドを見るとバツの悪そうな顔で悪かったな、と言ってきた。

 私はアルフレッドの顔に付いた藁を取りながらお礼を言った。

「いえ。私の方こそ助けてくれてありがとうございます」

「本当はこんなはずじゃないからな」

「え? あ……はい」

「きょ……今日は調子が悪かったんだ」

「そ……そうなんですか。あ……あの私先を急いでいるので……そ……その……」

「あ……ああ、そうか、それじゃまたな」

「はい」

 私はアルフレッドから離れるとありがとうございます、と再度お礼を言って別れようとしたらアルフレッドが服の内ポケットからストールのようなものを出して私の首に巻いてくれた。

「これを首に巻いていろ」

「これは?」

「気配を消してくれるストールだ。これを首に巻くと人から見つかりずらくなる」

「本当に? これでフードを被らなくてもいいの?」

「そうだ。ほらやるよ」

「え? 悪いわこんな効果そうなものを貰えないわ」

「いいんだ。こんなものまだ家にいっぱいあるから」

「え……本当に? もらっていいの?」

「ああ。君とはまたすぐに会えそうな気がするからな」

「わかったわ。本当に助けてくれてありがとう」

 私はストールを首に巻いたままアルフレッドと別れた。アルフレッドの言う通りストールを巻いた私は周りの人に気づかれなくなった。私は久々にフードを脱いで広々と視界の開けた町を散策しながらアスペルド教会を目指したが一点気になる事があった。

(なぜアルフレッドは私のことを知っていたのだろう?)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

錆びた剣(鈴木さん)と少年

へたまろ
ファンタジー
鈴木は気が付いたら剣だった。 誰にも気づかれず何十年……いや、何百年土の中に。 そこに、偶然通りかかった不運な少年ニコに拾われて、異世界で諸国漫遊の旅に。 剣になった鈴木が、気弱なニコに憑依してあれこれする話です。 そして、鈴木はなんと! 斬った相手の血からスキルを習得する魔剣だった。 チートキタコレ! いや、錆びた鉄のような剣ですが ちょっとアレな性格で、愉快な鈴木。 不幸な生い立ちで、対人恐怖症発症中のニコ。 凸凹コンビの珍道中。 お楽しみください。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

処理中です...