7 / 117
〜シンデレラガール〜
アスペルド信仰教団の陰謀
しおりを挟む
その少女は教会に入ってくるなり疫病で倒れている患者を診察し始めた。
少女は診察を終えるとカバンから注射器を取り出して患者に打ち始めた。私は止めようとしたが、周りの人々に邪魔されてとても少女を止めることはできなかった。私は少女の行いは神への冒瀆だ!、と力の限り叫んだ。しかし一夜明けると少女は奇跡を起こした。
少女が治療した患者の熱が下がり、死を待つだけの患者たちの中で意識を取り戻す者まで現れ始めた。私は神の奇跡をこの目で見ているかのような気持ちになった。まるで子供の時に見た聖女ロザリアの絵のようだった。
聖女様ロザリアを中心に疫病で死にかけた者や、戦争で重症を負った者たちが息を吹き返して彼女の周りに集まっている絵だった。少女を見た時その絵がニコライの頭に浮かんだ。この少女は聖女ロザリアの生まれ変わりのように思えた。
◇
ティアラの活躍により疫病が治まって二週間が過ぎた。みんなすっかり元の生活に戻っていた。他の町では住民全員が病気を発症して消えた町もあったようだが、このクロノスの町は死人が最初に数名出ただけで治まった。これも全てティアラ様のおかげだとニコライは思っていた。
私が彼女を牢屋に入れなければさらに死者は少なくなっていたかもしれない。そのことはニコライも大いに悔やんでいた。罪滅ぼしとまではいかないが彼女をアスペルド信仰教団に入団してもらおうとニコライは考えていた。ニコライはこれだけの功績を挙げた彼女であればかなりの位の高い役職に抜擢できるだろうと考えていた。
一般市民が教団の幹部になれれば家族も含めて一生困らない生活ができるのでティアラ様も喜んでくれるだろうと考えていた。ニコライは早速このことをクロノスの奇跡としてアスペルド教団の主宰のロマノフに話した。
ロマノフはニコライの話を聞き終えるとそれはすごい! 町を一つ救ったとは伝説の聖女様と一緒だね、と言って喜んだ。ニコライはティアラ様がロマノフに良い印象をもって貰ったことに満足するとロマノフと別れた。
◇
ロマノフはニコライが居なくなると暫く考えた。
(ティアラとは先日友人のクリスが連れてきてくれたあの少女で間違いないだろう。私の病気も言い当ててくれた。彼女は何者だろう?)
ティアラはクリスの紹介でロマノフと以前会っていた。ロマノフの病気が脚気であることに気づいて助言をしてくれたおかげで、ロマノフは病気が治り健康になることができた。ロマノフにとってティアラは命の恩人であった。だが、ロマノフはティアラに対して気になることがあった。
(彼女の行なった行動はとても今の時代に生きてる者のできることではない。まして少女にできるとは考えづらい。もしかしたら…………。彼女は違う世界からきた人間なのではないか? 高度な文明や未来からきた人間であれば私の病気も今回の疫病の症状や治療方法もすでに知っていたのかもしれない……。そうでなければ少女にこのような奇跡は起こせないだろう。もしそうであれば彼女はこのアスペルド教団にとって脅威となるのではないか?)
(我々は神の名の下、信仰心で病と戦うことを生業としている。それを真っ向から否定されればアスペルド教団は滅びてしまうのではないか?)
ロマノフは暫く思い悩んだ挙句、彼女を排除することを決定した。
◇
クルトガは薄汚れたジョッキに入ったビールを一気に胃袋に流し込むとドン! と大きな音を立てて空になったジョッキを机に叩きつけた。
「ブハーー!!」
人目も憚らず大きなゲップをしたかと思うと唾を飛ばしながらガハハ……と下びた笑い声を上げた。ミリアはクルトガを辛辣な視線で見ていた。早く話を終えてこの場を離れたいと思っていたが、クルトガはなかなか引き下がらなかった。
「ミリア。本当に簡単な仕事なんだ。一緒にやろうじゃないか」
「クルトガさん悪いがもう私はそう言った仕事は受けないことにしたんですよ」
「殺し屋ミリアが堅気になれると本当に思っているのか?」
クルトガはこれまでとは違う殺気のある目で、ミリアを見た。クロノスの町外れの居酒屋の隅でミリアはクルトガに呼び出され仕事の依頼を受けていた。いくら町外れの居酒屋で周りに人がいないとはいえ殺し屋というワードを人目も憚らず使用するあたりプロでは無いとミリアは思った。
ミリアは絶対こんな奴と組むとロクな事にならないと思った。
クルトガはいくら断ってもなかなか帰してくれそうになかったので、ミリアはとりあえず仕事の内容だけ聞いてやんわりと断ろうと思った。
「クルトガさんそれで? 仕事の内容は?……。ターゲットは誰ですか?」
「おお……やる気になったか。それでこそミリアだ」
「いえ……お話だけでも……と思いまして」
「ガハハハ。いいだろう。簡単な話さ。最近この町で噂のティアラという少女を殺るだけさ、殺し屋ミリアにとっては赤子の手を捻るより簡単だろう」
ミリアはティアラと聞いて内心驚いたが、顔色ひとつ変えずにそうですか ?、と言った。ティアラと初めて会ったのは牢獄の中だった。ミリアにとってティアラは弟妹を疫病から救ってくれた命の恩人だった。そんな少女をこの目の前の男は殺そうとしていた。ミリアは怒りが込み上げてくるのを抑えるとクルトガに言った。
「簡単そうな仕事ですね。私も仲間に入れてください」
ミリアはティアラ暗殺を快く引き受けたふりをした。
(ティアラは絶対に死なせない)
ミリアはそう強く思うとクルトガに連れられてアジトに向かった。
少女は診察を終えるとカバンから注射器を取り出して患者に打ち始めた。私は止めようとしたが、周りの人々に邪魔されてとても少女を止めることはできなかった。私は少女の行いは神への冒瀆だ!、と力の限り叫んだ。しかし一夜明けると少女は奇跡を起こした。
少女が治療した患者の熱が下がり、死を待つだけの患者たちの中で意識を取り戻す者まで現れ始めた。私は神の奇跡をこの目で見ているかのような気持ちになった。まるで子供の時に見た聖女ロザリアの絵のようだった。
聖女様ロザリアを中心に疫病で死にかけた者や、戦争で重症を負った者たちが息を吹き返して彼女の周りに集まっている絵だった。少女を見た時その絵がニコライの頭に浮かんだ。この少女は聖女ロザリアの生まれ変わりのように思えた。
◇
ティアラの活躍により疫病が治まって二週間が過ぎた。みんなすっかり元の生活に戻っていた。他の町では住民全員が病気を発症して消えた町もあったようだが、このクロノスの町は死人が最初に数名出ただけで治まった。これも全てティアラ様のおかげだとニコライは思っていた。
私が彼女を牢屋に入れなければさらに死者は少なくなっていたかもしれない。そのことはニコライも大いに悔やんでいた。罪滅ぼしとまではいかないが彼女をアスペルド信仰教団に入団してもらおうとニコライは考えていた。ニコライはこれだけの功績を挙げた彼女であればかなりの位の高い役職に抜擢できるだろうと考えていた。
一般市民が教団の幹部になれれば家族も含めて一生困らない生活ができるのでティアラ様も喜んでくれるだろうと考えていた。ニコライは早速このことをクロノスの奇跡としてアスペルド教団の主宰のロマノフに話した。
ロマノフはニコライの話を聞き終えるとそれはすごい! 町を一つ救ったとは伝説の聖女様と一緒だね、と言って喜んだ。ニコライはティアラ様がロマノフに良い印象をもって貰ったことに満足するとロマノフと別れた。
◇
ロマノフはニコライが居なくなると暫く考えた。
(ティアラとは先日友人のクリスが連れてきてくれたあの少女で間違いないだろう。私の病気も言い当ててくれた。彼女は何者だろう?)
ティアラはクリスの紹介でロマノフと以前会っていた。ロマノフの病気が脚気であることに気づいて助言をしてくれたおかげで、ロマノフは病気が治り健康になることができた。ロマノフにとってティアラは命の恩人であった。だが、ロマノフはティアラに対して気になることがあった。
(彼女の行なった行動はとても今の時代に生きてる者のできることではない。まして少女にできるとは考えづらい。もしかしたら…………。彼女は違う世界からきた人間なのではないか? 高度な文明や未来からきた人間であれば私の病気も今回の疫病の症状や治療方法もすでに知っていたのかもしれない……。そうでなければ少女にこのような奇跡は起こせないだろう。もしそうであれば彼女はこのアスペルド教団にとって脅威となるのではないか?)
(我々は神の名の下、信仰心で病と戦うことを生業としている。それを真っ向から否定されればアスペルド教団は滅びてしまうのではないか?)
ロマノフは暫く思い悩んだ挙句、彼女を排除することを決定した。
◇
クルトガは薄汚れたジョッキに入ったビールを一気に胃袋に流し込むとドン! と大きな音を立てて空になったジョッキを机に叩きつけた。
「ブハーー!!」
人目も憚らず大きなゲップをしたかと思うと唾を飛ばしながらガハハ……と下びた笑い声を上げた。ミリアはクルトガを辛辣な視線で見ていた。早く話を終えてこの場を離れたいと思っていたが、クルトガはなかなか引き下がらなかった。
「ミリア。本当に簡単な仕事なんだ。一緒にやろうじゃないか」
「クルトガさん悪いがもう私はそう言った仕事は受けないことにしたんですよ」
「殺し屋ミリアが堅気になれると本当に思っているのか?」
クルトガはこれまでとは違う殺気のある目で、ミリアを見た。クロノスの町外れの居酒屋の隅でミリアはクルトガに呼び出され仕事の依頼を受けていた。いくら町外れの居酒屋で周りに人がいないとはいえ殺し屋というワードを人目も憚らず使用するあたりプロでは無いとミリアは思った。
ミリアは絶対こんな奴と組むとロクな事にならないと思った。
クルトガはいくら断ってもなかなか帰してくれそうになかったので、ミリアはとりあえず仕事の内容だけ聞いてやんわりと断ろうと思った。
「クルトガさんそれで? 仕事の内容は?……。ターゲットは誰ですか?」
「おお……やる気になったか。それでこそミリアだ」
「いえ……お話だけでも……と思いまして」
「ガハハハ。いいだろう。簡単な話さ。最近この町で噂のティアラという少女を殺るだけさ、殺し屋ミリアにとっては赤子の手を捻るより簡単だろう」
ミリアはティアラと聞いて内心驚いたが、顔色ひとつ変えずにそうですか ?、と言った。ティアラと初めて会ったのは牢獄の中だった。ミリアにとってティアラは弟妹を疫病から救ってくれた命の恩人だった。そんな少女をこの目の前の男は殺そうとしていた。ミリアは怒りが込み上げてくるのを抑えるとクルトガに言った。
「簡単そうな仕事ですね。私も仲間に入れてください」
ミリアはティアラ暗殺を快く引き受けたふりをした。
(ティアラは絶対に死なせない)
ミリアはそう強く思うとクルトガに連れられてアジトに向かった。
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
悪役令嬢は二度も断罪されたくない!~あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?~
イトカワジンカイ
恋愛
(あれって…もしや断罪イベントだった?)
グランディアス王国の貴族令嬢で王子の婚約者だったアドリアーヌは、国外追放になり敵国に送られる馬車の中で不意に前世の記憶を思い出した。
「あー、小説とかでよく似たパターンがあったような」
そう、これは前世でプレイした乙女ゲームの世界。だが、元社畜だった社畜パワーを活かしアドリアーヌは逆にこの世界を満喫することを決意する。
(これで憧れのスローライフが楽しめる。ターシャ・デューダのような自給自足ののんびり生活をするぞ!)
と公爵令嬢という貴族社会から離れた”平穏な暮らし”を夢見ながら敵国での生活をはじめるのだが、そこはアドリアーヌが断罪されたゲームの続編の世界だった。
続編の世界でも断罪されることを思い出したアドリアーヌだったが、悲しいかな攻略対象たちと必然のように関わることになってしまう。
さぁ…アドリアーヌは2度目の断罪イベントを受けることなく、平穏な暮らしを取り戻すことができるのか!?
「あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?」
※ファンタジーなので細かいご都合設定は多めに見てください(´・ω・`)
※小説家になろう、ノベルバにも掲載
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる