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 講義室みたいなお部屋に僕たちは並んで座っている。
 目の前に教壇と教卓があって、長い机が四列あって、一番前の列にお父さんとお母さんと僕と白珠しらたまちゃんが座ってる。

 ミョウがパチンとしたら、ここに来てたんだ。
 座ってお話ししましょうって言うから、お家の中っぽい場所に案内されると思ったのに、ぜんぜん違った。

 白珠ちゃんは僕のお股の間に座って足をぶらぶらさせてる。
 僕たちがここに座ってたらパタパタ走って来て、僕のところにちょこんと座ったんだ。
 お風呂に入ってたらしく、ポカポカしててとってもいい匂いがする。
 椅子から落ちないようにお腹に手を回して支えた。

 こんなに幼い白珠ちゃんは、本当に僕よりお兄さんなんだろうか……


 後ろの席には白珠ちゃんのご両親と、僕たちの仲立ちとして獣人のアチェが座ってる。
 白珠ちゃんのご両親は立派な織物の服を着てて、お顔も奇麗で、何だかすごく高貴な雰囲気なんだよね。
 このご両親と不気味なミョウだけだったら、ちょっとつらかったと思う。
 種族の近そうなアチェがいてくれてホッとする。
 アチェはごく普通の動きやすそうな格好だし、親しみやすい雰囲気だから落ち着く。

 白珠ちゃんのご両親はふたりともオスだった。
 もうひとりのお父さんは銀髪で銀色の瞳をしてて、蓮華れんげさんの伯父さんで、鳴門なるとさんという。
 トキワタリは近親婚があたり前の種族らしくて、とくに珍しいことじゃないんだって。

 アチェもミョウの息子がツガイと言ってたし、オス同士のツガイって普通にいるんだね。
 よかった。
 念のため訊いてみたけど、やっぱり白珠ちゃんはオスだった。

 『産むオス』と『産まないオス』というふうに、ここのボスが分類わけしたんだって。
 『産むオス』はメスには該当しないらしい。
 『種付けできるメス』にはならないんだ。
 理由はビィ……なんとかがどうとか、難しくて僕にはよくわからなかった。



「トキワタリの宿す卵は母体が認めたツガイのものです」
「ではジューチの子で間違いないんですね」

 お父さんとお母さんが、白珠ちゃんのお腹の卵についてミョウに質問したところだった。
 白珠ちゃんのお腹には、たしかに僕との卵があるんだって。
 ミョウの答えに僕たち家族は緊張する。

 やっぱり僕、父親になっちゃうんだ……!


「まず白珠ちゃんは、地上の理論で言うと混血です。
 なのでジューチ君と番うことで、皆さんが今のお住いを出て行かなければならない、という心配はございません」

 中立都市に白珠ちゃんの情報を提出することは可能です、とミョウは言った。
 それに対してお父さんとお母さんは、その必要はないと断る。

「白珠ちゃんとジューチの子供を被験者にさせる気はないわ」

 僕と白珠ちゃんが特別区で番になるということは、そういうことだった。
 健康な赤ちゃんができても、その子が番う種族は都市に決められてしまうことになる。

「隠れて生きている者を表に出させるつもりはない。
 しかし都市の政策を、あんた達はどう考えている」

 お父さんの質問にミョウは肩をすくめた。

「我々の残したものを何にどう使おうと、それは地上の民の自由ですからね。
 我々が地上に関与することはもうないでしょう。
 しかしご心配は無用です。
 トキワタリの受精から産卵、卵の孵化までに要する月日を考えますと、政策が破綻するほうが早いでしょう」

「こちらをご覧ください」

 ブカブカの白衣を着た小さな子供が、銀色の細長い棒を使って壁に映し出された図を指し示した。
 突然ニョキッと視界に現れたその子を僕たちは凝視する。

「あなたは……?」

 お母さんがつぶやく。
 寒季の霞んだ空色の髪に夕焼け色のクリッとした大きな目。
 幼いその子は隣に立つミョウに少し似ていた。

「これは私です」

 隣のミョウが答えて僕たちは首を傾げる。

「あなた方は異種族の常識を受け入れやすい環境で育っているとお見受けします。
 なのであまり気になさらないでいただきたいですね」

「いや、普通は気になるよ。ちゃんと説明してあげてよ」

 アチェが間に入ってくれた。
 対等な立場というのは本当みたいで、ミョウは「そうですか」と素直に応じてくれる。
 この不気味なオスに、強めに口出しできるアチェってすごい。

「あなた方の身近な存在にもいるではありませんか。
 ほら、一対一柱のあのお方です」

 それで僕たちは「あぁ」と頷いた。
 一対一柱と言えば美の女神、獣神マーレーニャ様だ。
 マーレーニャ様のお姿は二体の女神像で作られている。
 海を司る女神様と、大地を司る女神様だ。
 二つのお姿を持つ一柱の神様。
 でも……

「マーレーニャ様は同じ姿だよ?
 お胸の大きさが海と大地で違うけど」

 思わず口にしてしまった僕の疑問に、「そうなんですよ」と残念そうにミョウは言った。
 ホ……よかった。
 僕も普通に話していいみたい。

「私のこれは最後の器を削って作り出した類似物。
 完全なオリジナルではなく歪な分身体なのです」
「私の器はもともと三体存在しましたが、勤務中の事故で一体になりました。
 しかし一体ではやはり不便でしたから、どうにかこうにか自力で作ってみたわけです」

 小さなミョウとニタニタ顔のミョウは交互に説明した。
 小さなミョウは声も幼くて、ふたりが同じオスなんてやっぱり思えない。

「同時に動かせるの?
 三体もあったらこんがらがったりしないの?」

 興味津々に訊いてみると、三体は少ない方らしくて、マーレーニャ様はもともとは十一体のお姿を持っていたと教えてくれた。
 その話は昔お母さんから聞いたことがある。
 マーレーニャ様の失われたお姿は世界に散らばって、月や太陽になったという神話だ。

「あなたが右手と左手を動かすのと同じです。
 体が複数あり、それらはすべて己であり、多くの仕事をこなすために別行動できるのです」

 ミョウの話に僕はほうほうと頷く。
 古代の民って神様に近い存在なのかも。
 現に白珠ちゃんは神々しいくらい可愛いし、白珠ちゃんのご両親もキラキラ高貴な感じだし、女神様に近い存在と言われても疑ったりしない。

「たくさんの体を持つなんて、僕にはちっとも想像できないや」

「あなたが生まれながらの片腕一本であったなら、両手を持つ種族を不思議に思うかもしれません。
 翼のない種族には、翼の動かし方はわからないものです」

 小さなミョウに言われて、『体を複数もつ』という意味が少し理解できたような気がした。


「小さなあなたがあなたであることは理解したわ」
「卵についての説明が足りん。
 種付けをせず、なぜ息子の子だと言うんだ?
 俺にはそこがわからん」

 お父さんとお母さんは、話が進まないことに少し苛立ってたみたい。
 よけいなことを言わないように、僕は黙っていることにした。
 白珠ちゃんは話に飽きて、僕のシッポで遊んでいた。


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