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 僕の名前は731。
 登録された正式名はこれに生まれた年号も入る。
 僕のこの変な名前は、ナンバーネームというらしい。

 数字を意味する名前なんだけど、この大陸で使われてる数字とは違うからピンとこない。
 だからこの地区で生まれた子供は、ナンバーネームに寄せた愛称で呼ばれている。

 僕の愛称は、ジューチ。
 お父さんとお母さんの故郷の言葉で『ジュウ(丸い)』『チィ(爪)』、『穏和』を意味している。



「ジューチ、最近ちっとも球蹴りに参加しないよね」

 講習所の講堂で帰り支度をしていたら、友達に呼び止められた。
 コニーとロクマールだ。

 コニーのナンバーネームは忘れちゃったけど、愛称の由来はディーテという蔓植物の実。
 コニーは長耳短毛族のメスで、頭の上の長い耳とお尻の丸いシッポが特徴だ。
 前歯が大きいことが恥ずかしいらしく、口を隠すような話し方をする。

 ロクマールのナンバーネームも覚えてないんだけど、『ロ(大きな)』『クマール(親の故郷にある岩の名前)』と言っていた。
 ロクマールは大角斑点蹄族のオスで、額にツノが二本あり、葉っぱみたいな耳が頭の左右にある。
 脚が細くて、走るのが速くて、球蹴りが得意だった。
 その長い美脚が講習所のメスたちに人気で、厚い胸筋の前でいつも腕を組んでる。
 ぷるぷる揺れる小さなシッポが可愛いんだけど、それを言ったら怒るから、そこには誰も触れないようにしている。


 僕も球蹴りはけっこう得意だから、ロクマールとは毎日のように遊戯広場で遊んでいた。

「ごめん。大事な約束があるんだよ」

 そう断ってお家に帰ろうとした僕の腕を、コニーがギュッと掴む。
 赤い瞳がギロリと睨んでいた。

「昨日も一昨日もそう言ったよね。私たちより大事な約束なの?」

 言葉に詰まる。
 早く帰って白珠しらたまちゃんに会いたいけど、きちんと約束をしてるわけじゃなかった。

「ジューチのチームが勝ったままだろ? オイラは早く次の勝負がしたい」
「う……」

 僕のチームが前回勝ったのは、僕の活躍が大きかった。
 ロクマールの球を何度も防いだからだ。
 だから僕のいないチームと戦っても、ロクマールの不満は解消しそうにない。
 僕だってそういうのはスッキリさせたいと思うから、気持ちはわかる。

 今日負けておけば、しばらく球蹴りに参加しなくてもいいかもしれない……

 ロクマールには悪いけど、今の僕は真剣勝負より白珠ちゃんなのだ。
 そんなわけで、お家に帰る前に講習所の転移板から遊戯広場へ向かった。


 この講習所は古代文明の便利な技術を利用している。
 何千年も前に運悪く天変地異に見舞われて滅亡した種族の遺した物らしい。
 まったく朽ちていないけど、『遺跡』や『遺物』と呼んでいる。
 そんな高度な技術で作られた建物や部品が大陸にはたくさん残っていて、発見した種族がその土地で管理し、自分たちのために使っている。

 転移板もそのひとつで、模様の描かれた巨大な石板の上に乗るだけで、決まった場所へ一瞬で移動できるんだ。
 すごいよね。
 講習所の建物はまるまるぜんぶ遺跡を再利用してるけど、その構造の原理はよくわかってない。

 飲み水が出てくる金属の筒とか、温度調節ができる箱とか、ゴミや排泄物を浄化する光とか、古代文明の仕組みはいろいろあるけど、その技術については未だにひとつも解明できてないんだって。
 つまり、今より数を増やしたり、応用して新しいものを作ることができないんだ。

 もしも突然この古代の遺産が使えなくなったら、僕たちの生活はすごく原始的になってしまう。
 大人たちは何百年もそうしたことは起こってないから大丈夫だと言う。
 天変地異が起こって一つの種族が死に絶えても、遺跡だけは無事だったからね。
 何千年経った今も僕たちが平気に使っていられるのは、壊れると自動で修復するからなんだ。



 ……さて、球蹴りも終わって僕は今、必死に走ってる。

 飛んでくる球を見ると、体が勝手に動いちゃうんだ。
 目がらんらんになって、興奮しちゃうんだ。
 気付いたら夢中になって勝負をしてて、日が暮れていた。

 やっちゃった。
 負けるつもりだったのに、またロクマールの球を防いで、接戦の攻防を繰り広げて、いい感じに勝っちゃった。
 明日からどうやって断ろう……

「うぅ~……ッ!」

 白珠ちゃん、今日はもう帰っちゃったかも~ッ!!


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