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第一章
学術古都セイラン 4
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「イレス国王……いや、ミアン王妃のやり方に反発する気運が寮内で高まると、国に楯突く毒蛍の巣だってかなりの学生が追い出されました」
「だが一番危険なお前をこうして逃すのだから、ずいぶんと目の粗い虫捕り網だ」
「俺は逃げ足が早いのさ。単なる見せしめだろ。俺達は気にしちゃいない」
「だとしても父様の想いがこもった学問の場を利用するなんて。一番危険ってつまりタツオミが学内の指導者?」
スユイが訊ねると、タツオミとカゲツは顔を見合わせた。
「タツオミが? まぁ、酒宴の指導者ではあるな」
歯の内側で笑いを堪えながらカゲツが先に答えた。
「カゲツ、王子に変なこと吹き込むなッ」
「酒宴の指導者も立派な仕事だと思うよ」
スユイが微笑みかけ、なだめた途端にタツオミの顔がぱっと輝く。
「そうなんです、俺がいないと始まらない! って、酒盛りの話じゃない。ええと、俺達は横の繋がりで動いてて、俺はお偉いだったカゲツとのやり取りを任されてただけです」
「その大事な役割を任されるって仲間から認められてるってことだね」
「いやいや、そんな大層なものではないですよ。王子って無意識に人を木に登らせる……。あっ、そうそう。王子にぜひ見てほしい場所が」
タツオミは赤らんだ耳を掻いて口ごもったあと、話を断ち切るようにぽんと手を打った。
手入れが行き届いた竹林の中に十段程の石段があり、上りきると社が佇んでいた。
「学府を育ててくれた国王陛下への感謝を込めて、学生たちの発案で作られたものです」
両腕で囲えるくらい小さなものだが造りは精巧で、鮮やかな朱色の柱と五彩の彫刻が目を引く。
「父様への……どうりで、王都城みたい」
――父様の想いはちゃんと届いているし、受け継がれている。
父へ語りかけると胸の中に誇らしさが灯り、腕や脚へ温もりの行き渡る心地がした。
「でも、この蝶と月の装飾はどうして満月じゃなくて三日月なんだろう?」
本物の王都城には「満月へ昇る蝶」の神話を象った彫刻が施されている。
三日月に何か特別な意味があるのかと気にかかった。
「さすが王子、鋭いご指摘。満月じゃないのは学府の俺達が成長半ばの身だからです」
タツオミの解説になるほどと感心したあと、スユイは少し考えてから微笑んだ。
「それなら、僕もまだまだ三日月だよ」
「へへ、王子も三日月仲間ですか」
嬉しそうなタツオミへ、にこりと相槌を打ち、次にカゲツへと顔を向けた。
「ねえ、カゲツは?」
「さあな。半月くらいじゃないのか」
「ふぅん、意外と謙虚だね」
スユイは上目遣いにカゲツを覗き込み、おどけた声色で言った。
すると隣でタツオミがぷっと吹き出したので、スユイとタツオミは少年のように笑い合った。
「だが一番危険なお前をこうして逃すのだから、ずいぶんと目の粗い虫捕り網だ」
「俺は逃げ足が早いのさ。単なる見せしめだろ。俺達は気にしちゃいない」
「だとしても父様の想いがこもった学問の場を利用するなんて。一番危険ってつまりタツオミが学内の指導者?」
スユイが訊ねると、タツオミとカゲツは顔を見合わせた。
「タツオミが? まぁ、酒宴の指導者ではあるな」
歯の内側で笑いを堪えながらカゲツが先に答えた。
「カゲツ、王子に変なこと吹き込むなッ」
「酒宴の指導者も立派な仕事だと思うよ」
スユイが微笑みかけ、なだめた途端にタツオミの顔がぱっと輝く。
「そうなんです、俺がいないと始まらない! って、酒盛りの話じゃない。ええと、俺達は横の繋がりで動いてて、俺はお偉いだったカゲツとのやり取りを任されてただけです」
「その大事な役割を任されるって仲間から認められてるってことだね」
「いやいや、そんな大層なものではないですよ。王子って無意識に人を木に登らせる……。あっ、そうそう。王子にぜひ見てほしい場所が」
タツオミは赤らんだ耳を掻いて口ごもったあと、話を断ち切るようにぽんと手を打った。
手入れが行き届いた竹林の中に十段程の石段があり、上りきると社が佇んでいた。
「学府を育ててくれた国王陛下への感謝を込めて、学生たちの発案で作られたものです」
両腕で囲えるくらい小さなものだが造りは精巧で、鮮やかな朱色の柱と五彩の彫刻が目を引く。
「父様への……どうりで、王都城みたい」
――父様の想いはちゃんと届いているし、受け継がれている。
父へ語りかけると胸の中に誇らしさが灯り、腕や脚へ温もりの行き渡る心地がした。
「でも、この蝶と月の装飾はどうして満月じゃなくて三日月なんだろう?」
本物の王都城には「満月へ昇る蝶」の神話を象った彫刻が施されている。
三日月に何か特別な意味があるのかと気にかかった。
「さすが王子、鋭いご指摘。満月じゃないのは学府の俺達が成長半ばの身だからです」
タツオミの解説になるほどと感心したあと、スユイは少し考えてから微笑んだ。
「それなら、僕もまだまだ三日月だよ」
「へへ、王子も三日月仲間ですか」
嬉しそうなタツオミへ、にこりと相槌を打ち、次にカゲツへと顔を向けた。
「ねえ、カゲツは?」
「さあな。半月くらいじゃないのか」
「ふぅん、意外と謙虚だね」
スユイは上目遣いにカゲツを覗き込み、おどけた声色で言った。
すると隣でタツオミがぷっと吹き出したので、スユイとタツオミは少年のように笑い合った。
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