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龍人の村編

28 Side サイオス

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 執事が朝から慌てた様子で部屋に来ると、急に妹の通う学園の講師が我が家を訪ね家族全員に話がしたいと言い出したらしい。緊急事態かと急いで向かった部屋にいたのは、妹が補講を受けられる様に手配してくれたコスナー講師がいた。

「師匠より、ご家族宛の手紙を預かって参りました」

 差し出された手紙を父が代表で受け取り目を通す。読み終わると小さなうめき声と共に、母と私にも読むようにと差し出した。母の後に自分も一読する。その内容は呪具の長期使用の影響で魔力が過度に強いものとなり命の危険が伴う事やドラゴン達に気に入られた事、更にはドラゴンと魔法契約をしたいと考えている事がしたためられていた。ドラゴンとの契約する驚きと共に、何故妹なのかと憤りを覚えた。やっと屑な婚約者と縁が切れ、穏やかに暮らせると考えていたのに、魔法契約の相手は生物最強と名高いドラゴンだ。これから先、穏やかな生活は無理だろう。

「コスナー講師、質問を宜しいですか?」

「答えられる範囲でなら」

 内容が衝撃過ぎたのか無言の両親に変わり私は気になる点を質問する。答えられる範囲でと言っている時点で、何か大きな事に巻き込まれている予感がした。

「契約をして妹に負担は無いのですか。身体的にも精神的にも」

「負担は少ないです。契約で常に魔力を使う事に寄って、彼女の魔力が減り体調は安定すると思われます」

 講師の返答に安堵と共に違和感を覚える。強過ぎる魔力を常に使う事で安定するのは分かるが、何故命の危険が減ると言わないのか。まるで他にも命の危険があるように感じてしまうのは私がひねくれているからか。

「私からも質問をしたい」

 次に発言した父は少し俯き両膝に置かれた手が微かに震えていた。

「先日、大魔法使い様より娘は家に帰さないと文が届きましたがその真意はなんでしょう」

「真意も何も貴殿とは一緒に暮らせないと判断しただけの事です」

 初めて知る父に届いた手紙の内容にも驚いたが、父がドラゴンと暮らせない理由が分からず私が思わず首を傾げる側で父は不満を隠そうともしない。

「ご納得頂けていない様ですが、彼女の訴えを聞き入れず対処されなかったのは貴殿で御座いましょう」

「っ!それは違う!私は」

「いいえ、違いません。契約主が傷付けばドラゴンは迷いなく貴殿を攻撃します」

 父の言葉を遮った講師は、冷めた視線を向け言葉を続けていく。彼らは妹の様子がおかしい原因が侯爵達だけでは無いと考え調査したようだ。そこで判明した学園での不正と虐め。そして、それらの話を本人から聞きながら放置していた父。学園での不正と虐めは既に王弟殿下が直接手を下したようだが、父は何も罰を受けていない。

「ご子女が大切ならば本人に我慢させるのではなく、貴殿が助けるべきではないのですか?」

「あの子の成長の為には親が手を出すより」

「子供一人で解決出来るレベルを超えていると分かりませんか?命の危険があったのですよ」

 そう言い切った講師から差し出された紙に記されていたのは学園で起きた講師も加担しての虐め。読み進める父の手は震え、横から覗き込んだ母はハンカチを目に当て肩を落とす。魔物の出る山を一人で登山させ、重要事項の連絡をしない。妹よ……何故、私に黙っていた。いや、言えなかったのか。心配はしても父に強く言えない母と、言っても何もしない父。恐らく私に言えば無茶すると黙っていたのだろう。

「友人が本人から聞いた話では、父親に何度も訴えたが我慢するように言われたと」

 講師の言葉を聞き自分の父親ながら殺意を覚える。妹が帰宅すればドラゴンは、蔑ろにしている父を敵とみなして主を守る為に攻撃するだろう。私からすれば自業自得の事態だが、妹は違う。きっとドラゴンを止められなかった自分を責めるはずだ。
 しかも、契約相手は生物最強のドラゴンだ。妹を介してドラゴンの力を手に入れようとする輩も必ず出てくる。妹を守る為にも私達がしないといけない事は貴族社会から解放する事ではないのか?ただ、貴族籍を抜けるだけでは駄目だ。貴族以上の絶対的な力で守らないと、力を悪用しようとする者に狙われる。

「妹を大魔法使い様の養子にして頂けないでしょうか?」

 両親を無視して私が講師に伝えたのは大魔法使いの保護を求める言葉。貴族より王族よりも強い絶対的な大魔法使いとしての力と発言力。それは国を越え世界に通用する守護の力となるだろう。

「兄君は何故、そう考えたのですか?」

「貴族の子女のままでは前回の婚約の様にこちらからは断れない話も出るでしょう。しかし、大魔法使い様の庇護下に入れば手は出せない。違いますか?」

「その通りです。師匠も自分の保護下に置くべきだと陛下へ申請済みです。間もなく承認されるでしょう」

 講師の言葉に安堵する私の横で両親は驚愕と絶望の表情を浮かべていたが、居ない者として当主代理の権限で講師と妹の養子縁組の手続きの話を進めた。今回の件で確信した。両親を早々に引退させないと妹の為にならん。手続きに必要な書類の確認が終わると、講師は直ぐに城へ戻って行った。講師の見送りが済むと私は先はどの部屋に戻りソファーに座ったまま動けない両親を見下ろすと、母は震えていた。目を閉じて息を吐き覚悟を決めると、情に流され今まで我慢していた言葉を口に出しす。

「父上、引退して下さい」

 父は何も言わず肩を落とし母は両手で顔を覆って泣き出す。しかし、一度、口にしたからには、もう後には引けない。我が家の存続と妹を守るために私は当主になる。


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