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第十二章 秋野裕
~再会2~
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帰る前に、邦彦に会いに行った。
あいつは俺を見ると変なものを見たかのような顔をした。
「裕の方から来るなんてな」
「お前に聞きたいことがある」
「何が知りたいんだ?」
「お前……明梨に何をした?」
「は?」
邦彦は睨みつけるように俺を見ている。俺は構わず続けた。
「8年ぶりに会って思ったんだが……あいつを変えてしまったのはお前か?」
「いいや。俺じゃない。原因があるとすれば…それはお前だよ。裕」
「俺が?」
邦彦は頷くかわりにため息をついた。
「……最初、結婚式を挙げてからしばらくは妻が苦手だったんだ。
意志が強すぎて、眩しくて近寄り難かった。
けど…一緒に暮らすうちに“苦手”が“好き”にかわり、“他人”から“家族”になった。
最初の頃は本当にただの他人だったんだ。妻のことが好きだと自覚した頃には結婚してから3年が経っていた。」
「……おきて一番だったお前が人を好きになるなんてな」
皮肉っぽく言ってやると、邦彦は苦笑いをして俯いている。
「好きになっても…どうしようもなかった。妻は俺のことを信用していない。娘ができた今でも。
…ゆっくりと時間をかければ仲良くなれたのかもしれない。しかし縁が9歳になると俺がこの手で妻を殺さねばならない。お前だって知っているはずだ」
「あぁ。……明梨を殺せるのか?お前は」
「殺せるさ。おきてだからな。それにあいつは…俺を求めていない。
俺がどれだけ優しい言葉をかけて接してやっても、あいつが口にするのはいつも雪や裕のことばかり…。
近くにいるのは俺なのに」
邦彦の口調が徐々に激しいものに変わった。
俺は少し怖くなって邦彦から目をそらした。
「お前……」
「あいつにとってお前の存在が大きすぎるんだ。
だから俺は、あいつから全てを奪ってやった。あいつの周りに誰も近づけず、妻と話すことができるのは俺と娘のみの状態にしてやった。
初めは普段と変わらなかったが次第に何も言わなくなり部屋に閉じ籠った。
それでも…あいつは俺を求めはしなかった。むしろ拒むように……」
俺は呆れた。きっとこいつは、分からないのだろう。大切な人への接し方が。
邦彦は続けて言った。
「お前が元々婚約者の立場を捨てていなければ………お前が妻と出会わなければ…」
「俺のせいにして楽になりたいだけだろう。俺や明梨の意思はお前には関係ない」
「…そうだろうな。ただ一つを除いては」
「1つ?」
「裕。お前は……俺の妻のことが好きなんじゃないのか」
「………は?」
「とぼける気か?なら言ってやろう。お前はどうしてこの村に時々帰ってくるんだ?
それはあいつに会うためだろう。それほどお前にとってあいつの存在は大きいってことだ。だから俺はお前を憎んでいる。あいつも…自覚がないだけで本当は……」
「俺が……明梨を……?」
自覚がなかった訳ではない。
本当は心のどこかで自分の気持ちに気づいていたんだ。でも口にするのが怖かった。それを認めてしまうと悔しくな
るから。
俺が…婚約者としての立場を捨てていなければ…
今なら分かる。
最初から…初めて会ったあの日から、俺は特別な感情を明梨に寄せていたことに。
-第十二章 完-
あいつは俺を見ると変なものを見たかのような顔をした。
「裕の方から来るなんてな」
「お前に聞きたいことがある」
「何が知りたいんだ?」
「お前……明梨に何をした?」
「は?」
邦彦は睨みつけるように俺を見ている。俺は構わず続けた。
「8年ぶりに会って思ったんだが……あいつを変えてしまったのはお前か?」
「いいや。俺じゃない。原因があるとすれば…それはお前だよ。裕」
「俺が?」
邦彦は頷くかわりにため息をついた。
「……最初、結婚式を挙げてからしばらくは妻が苦手だったんだ。
意志が強すぎて、眩しくて近寄り難かった。
けど…一緒に暮らすうちに“苦手”が“好き”にかわり、“他人”から“家族”になった。
最初の頃は本当にただの他人だったんだ。妻のことが好きだと自覚した頃には結婚してから3年が経っていた。」
「……おきて一番だったお前が人を好きになるなんてな」
皮肉っぽく言ってやると、邦彦は苦笑いをして俯いている。
「好きになっても…どうしようもなかった。妻は俺のことを信用していない。娘ができた今でも。
…ゆっくりと時間をかければ仲良くなれたのかもしれない。しかし縁が9歳になると俺がこの手で妻を殺さねばならない。お前だって知っているはずだ」
「あぁ。……明梨を殺せるのか?お前は」
「殺せるさ。おきてだからな。それにあいつは…俺を求めていない。
俺がどれだけ優しい言葉をかけて接してやっても、あいつが口にするのはいつも雪や裕のことばかり…。
近くにいるのは俺なのに」
邦彦の口調が徐々に激しいものに変わった。
俺は少し怖くなって邦彦から目をそらした。
「お前……」
「あいつにとってお前の存在が大きすぎるんだ。
だから俺は、あいつから全てを奪ってやった。あいつの周りに誰も近づけず、妻と話すことができるのは俺と娘のみの状態にしてやった。
初めは普段と変わらなかったが次第に何も言わなくなり部屋に閉じ籠った。
それでも…あいつは俺を求めはしなかった。むしろ拒むように……」
俺は呆れた。きっとこいつは、分からないのだろう。大切な人への接し方が。
邦彦は続けて言った。
「お前が元々婚約者の立場を捨てていなければ………お前が妻と出会わなければ…」
「俺のせいにして楽になりたいだけだろう。俺や明梨の意思はお前には関係ない」
「…そうだろうな。ただ一つを除いては」
「1つ?」
「裕。お前は……俺の妻のことが好きなんじゃないのか」
「………は?」
「とぼける気か?なら言ってやろう。お前はどうしてこの村に時々帰ってくるんだ?
それはあいつに会うためだろう。それほどお前にとってあいつの存在は大きいってことだ。だから俺はお前を憎んでいる。あいつも…自覚がないだけで本当は……」
「俺が……明梨を……?」
自覚がなかった訳ではない。
本当は心のどこかで自分の気持ちに気づいていたんだ。でも口にするのが怖かった。それを認めてしまうと悔しくな
るから。
俺が…婚約者としての立場を捨てていなければ…
今なら分かる。
最初から…初めて会ったあの日から、俺は特別な感情を明梨に寄せていたことに。
-第十二章 完-
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