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第十二章 秋野裕
~再会1~
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『儀』が終わってから早8年が過ぎた。
婚約者のことを聞いて以来、明梨と1度も会うことがないままだった。
というより、会えなかったんだ。明梨を見ているとなぜか落ち着かない。婚約と聞いた時も何故か苛立った。
明梨に会うと自分が変わってしまいそうで怖い。
でも……久々に会うことにした。
あの人に……雪に頼まれたから。
俺は麻生家の門をくぐった。
噂によると、明梨に娘ができたらしい。
そして明梨は、変わってしまったそうだ。
明梨の部屋の扉をノックすると、小さい声で返事が返ってきた。
久々に見る明梨はかなり大人びていて落ちつきがあった。疲れているのか、顔色が悪い。
「久しぶりだな」
「えぇ。本当に。8年間も何してたの?」
「あちこちふらふらしていたんだ。村にも帰ってなかった。」
「そう…。そういえば婚儀の日もあなたはいなかったもの。…むしろ会わなくてよかったとさえ思っていたわ」
穏やかな口調だった。
明梨の手の中には作りかけの人形がある。
「それ、娘用の人形か?」
「そうよ。…娘がいること知っているの?」
「噂で聞いたんだ」
「……縁っていうの。娘の名前。」
「ゆかり?」
「そう。縁起の“縁”って書いて ゆかり。4歳になったばかりよ」
「……そうか。お前は今どうなんだ?」
「私?」
明梨はきょとんとして俺を見つめている。
「今お前は何のために生きているんだ?」
「……わからない。なんかもう、どうでもよくなってきた。この8年間ね、特に何もすることがなかったからろくに部屋から出ることもなく過ごしてきたの。今の私の楽しみは縁と話すことだけ」
そう言って顔を伏せる明梨に、俺はがっかりした。
俺が好きだった明梨は、こんな奴じゃない。
子供っぽくて、落ち着きのない奴だったけれど…
いつだって前向きで、先のことを見据えていた。
「お前がしたかったのはこれかよ。母親との約束忘れたのか?自由に生きたいって言ってたのは何だったんだよ!」
明梨は何も言わなかった。
「何も言わないつもりか?……本気でがっかりしたよ」
吐き捨てるように言うと、明梨は俺をじっと見つめた。
「自由を諦めたわけじゃないわ。私だって…がっかりしてるもの。今の自分に」
「がっかり?」
「そうよ。…この8年間、どう過ごしてきたと思う?
そりゃあ私だって変わらない気持ちであなたに会いたかった。でも今は違う。もう…大人になってしまったの。私も、あなたも」
大人……か。
俺は改めて時の流れを実感した。
「これからのことくらい、自分で決めろよ。お前が決めたっていうなら…それでいいから」
それくらいしか言えなかった。
婚約者のことを聞いて以来、明梨と1度も会うことがないままだった。
というより、会えなかったんだ。明梨を見ているとなぜか落ち着かない。婚約と聞いた時も何故か苛立った。
明梨に会うと自分が変わってしまいそうで怖い。
でも……久々に会うことにした。
あの人に……雪に頼まれたから。
俺は麻生家の門をくぐった。
噂によると、明梨に娘ができたらしい。
そして明梨は、変わってしまったそうだ。
明梨の部屋の扉をノックすると、小さい声で返事が返ってきた。
久々に見る明梨はかなり大人びていて落ちつきがあった。疲れているのか、顔色が悪い。
「久しぶりだな」
「えぇ。本当に。8年間も何してたの?」
「あちこちふらふらしていたんだ。村にも帰ってなかった。」
「そう…。そういえば婚儀の日もあなたはいなかったもの。…むしろ会わなくてよかったとさえ思っていたわ」
穏やかな口調だった。
明梨の手の中には作りかけの人形がある。
「それ、娘用の人形か?」
「そうよ。…娘がいること知っているの?」
「噂で聞いたんだ」
「……縁っていうの。娘の名前。」
「ゆかり?」
「そう。縁起の“縁”って書いて ゆかり。4歳になったばかりよ」
「……そうか。お前は今どうなんだ?」
「私?」
明梨はきょとんとして俺を見つめている。
「今お前は何のために生きているんだ?」
「……わからない。なんかもう、どうでもよくなってきた。この8年間ね、特に何もすることがなかったからろくに部屋から出ることもなく過ごしてきたの。今の私の楽しみは縁と話すことだけ」
そう言って顔を伏せる明梨に、俺はがっかりした。
俺が好きだった明梨は、こんな奴じゃない。
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いつだって前向きで、先のことを見据えていた。
「お前がしたかったのはこれかよ。母親との約束忘れたのか?自由に生きたいって言ってたのは何だったんだよ!」
明梨は何も言わなかった。
「何も言わないつもりか?……本気でがっかりしたよ」
吐き捨てるように言うと、明梨は俺をじっと見つめた。
「自由を諦めたわけじゃないわ。私だって…がっかりしてるもの。今の自分に」
「がっかり?」
「そうよ。…この8年間、どう過ごしてきたと思う?
そりゃあ私だって変わらない気持ちであなたに会いたかった。でも今は違う。もう…大人になってしまったの。私も、あなたも」
大人……か。
俺は改めて時の流れを実感した。
「これからのことくらい、自分で決めろよ。お前が決めたっていうなら…それでいいから」
それくらいしか言えなかった。
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