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第八章 麻生明梨
~宿命2~
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「雪は、怖くないの?死ぬんだよ?」
「…怖くはないですね…元々動けなかった訳ですし。殺す方がお辛いでしょう」
私は何も言わなかった。
分かっているなら慰めないでよ。余計に辛くなる。
私は自分の役目を心から憎いと思った。
雪はわざと明るい口調で言った。
「わたしは人形ですので、痛みを感じないんです。だから……どうぞご自分の役目をお果たし下さい。かつてあなたのお母上がそうされたように」
「お母様も…殺したんだね。役目に従って」
「はい。務めを果たされました。…次はお嬢様の番です」
「お母様は、自由を望んでいたんじゃなかったの?いつも言ってたのよ」
「そうですね…お嬢様よりも強く自由を望んでおられていました。しかし、できなかったんです。」
雪は私をじっと見つめた。
「お嬢様のために、務めを果たされたのです」
「私のために?」
「お嬢様が、自分で未来を決めることができるようにしたくて……その一心で自分を捨てられたのです」
今まで知らなかった母の胸の内が少し分かった気がした。
母が私に言いたかった『自由』とは、村を捨てなさいという意味ではなく、私にとって大切な人のために自分が何をすべきなのか考えなさいということなのだろう。
母は私のためにおきてに従った。
今度は私が選ばなくてはならない。
雪は強い口調で言った。
「あなたは、私のことで悩んではいけません。あなたが選ぶべきなのは、私のことではありません。その選択権を使えるのは1度きりです。どうか私をちゃんと殺して下さい。あなたが考えて選ぶべきなのは…今ではありません。」
「どういうこと?私にとって大切なのは雪だよ」
雪は首を振った。
「いいえ。違います。私を殺すことだけが役目ではありません。私を殺すことは罪にはならない。私自身、もう楽になりたい…
いずれ生まれてくるあなたの娘のために、今は耐えてください」
力強いその口調は明らかに“雪”のものではなかった。
この人は……“ユキ”じゃない。
「あなたは…誰?雪は?雪はどこにいるの」
「……あなたは、雪がいいの?」
「怖いの。あなたが誰だか分からないから。」
“雪”は私に歩み寄ってきた。
「お願い。雪に会わせて。」
「……分かりました。私はもういきます。でも…少しだけ、いい?」
「え?」
“雪”は私をそっと抱きしめた。思いがけない展開に驚いたが、不思議なことに嫌ではなかった。
それどころか…あたたかい。言いようもない懐かしさを感じていた。
不意に涙がこぼれ落ちた。体を離した“雪”は優しい目をしている。
すると突然雪の表情が変わった。そしてー。
「お嬢様」
聞き覚えのある声。
これは…雪だ。
「雪。さっきの人は誰?」
「……後に分かりますよ」
雪は私を見つめて言った。
「わたしを…殺して下さいますか?」
私は…何も言わずにただ頷くことしかできなかった。
さっきの人のことばが突き刺さる。
誰か分からないけれど…あの人の言葉は信じるべきだと思った。
私はあの人に会ったことがある。
そんな気がしてならなかった。
-第八章 完-
「…怖くはないですね…元々動けなかった訳ですし。殺す方がお辛いでしょう」
私は何も言わなかった。
分かっているなら慰めないでよ。余計に辛くなる。
私は自分の役目を心から憎いと思った。
雪はわざと明るい口調で言った。
「わたしは人形ですので、痛みを感じないんです。だから……どうぞご自分の役目をお果たし下さい。かつてあなたのお母上がそうされたように」
「お母様も…殺したんだね。役目に従って」
「はい。務めを果たされました。…次はお嬢様の番です」
「お母様は、自由を望んでいたんじゃなかったの?いつも言ってたのよ」
「そうですね…お嬢様よりも強く自由を望んでおられていました。しかし、できなかったんです。」
雪は私をじっと見つめた。
「お嬢様のために、務めを果たされたのです」
「私のために?」
「お嬢様が、自分で未来を決めることができるようにしたくて……その一心で自分を捨てられたのです」
今まで知らなかった母の胸の内が少し分かった気がした。
母が私に言いたかった『自由』とは、村を捨てなさいという意味ではなく、私にとって大切な人のために自分が何をすべきなのか考えなさいということなのだろう。
母は私のためにおきてに従った。
今度は私が選ばなくてはならない。
雪は強い口調で言った。
「あなたは、私のことで悩んではいけません。あなたが選ぶべきなのは、私のことではありません。その選択権を使えるのは1度きりです。どうか私をちゃんと殺して下さい。あなたが考えて選ぶべきなのは…今ではありません。」
「どういうこと?私にとって大切なのは雪だよ」
雪は首を振った。
「いいえ。違います。私を殺すことだけが役目ではありません。私を殺すことは罪にはならない。私自身、もう楽になりたい…
いずれ生まれてくるあなたの娘のために、今は耐えてください」
力強いその口調は明らかに“雪”のものではなかった。
この人は……“ユキ”じゃない。
「あなたは…誰?雪は?雪はどこにいるの」
「……あなたは、雪がいいの?」
「怖いの。あなたが誰だか分からないから。」
“雪”は私に歩み寄ってきた。
「お願い。雪に会わせて。」
「……分かりました。私はもういきます。でも…少しだけ、いい?」
「え?」
“雪”は私をそっと抱きしめた。思いがけない展開に驚いたが、不思議なことに嫌ではなかった。
それどころか…あたたかい。言いようもない懐かしさを感じていた。
不意に涙がこぼれ落ちた。体を離した“雪”は優しい目をしている。
すると突然雪の表情が変わった。そしてー。
「お嬢様」
聞き覚えのある声。
これは…雪だ。
「雪。さっきの人は誰?」
「……後に分かりますよ」
雪は私を見つめて言った。
「わたしを…殺して下さいますか?」
私は…何も言わずにただ頷くことしかできなかった。
さっきの人のことばが突き刺さる。
誰か分からないけれど…あの人の言葉は信じるべきだと思った。
私はあの人に会ったことがある。
そんな気がしてならなかった。
-第八章 完-
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