17 / 32
第八章 麻生明梨
~宿命1~
しおりを挟む
翌朝、雪は私の部屋にやってきた。
「お嬢様。長くなりますがよろしいですか?」
私は椅子に腰掛けて小さく頷いた。
雪は私の様子を見ながら話し始めた。
「お嬢様の役目はご存知の通り“村を守ること”です。守るというのは村のおきてに従うということを意味します。例えそれが本人の意志ではなかったとしても。
あなた様の役目は、生と死を同時に行うことです。
20歳になると、お父上が選んだ相手との婚儀が行われます。もちろん式の日までお互い顔を合わせることは一切ありません。
結婚することにより命をつなぐ第1歩とするのが『生』ということになります。そして…」
雪は言葉を切って顔を伏せた。
「そして?」
待ちきれずに尋ねると、雪は顔を伏せたまま呟くように言った。
「……婚儀を終えた後、夜にもう1つ、『死』の儀を行うのです。」
「誰かが死ぬってこと?」
「まぁ、そうですが…“死ぬ”ではなく“殺す”という意味です。」
「…ころ…す?誰が、誰を殺すっていうの」
「…お嬢様が、わたしを殺すのです」
私は言葉を失った。
私の反応を見た雪は悲しげな顔をした。
「雪は…はじめからそのつもりで私の世話係になったの?」
「…はい。お嬢様にお役目があるように、わたしにも逃れられない役割があるのです」
「どうして、私は大事な人ばかり失わなきゃならないの……」
「お嬢様…」
「お母様ももういないのに。雪まで……それも私が殺すだなんてっ」
雪はそっと私の手を握った。それは初めての行為だった。同時にー。驚いた。
手が……
「作り物みたい。……硬い」
雪は悲しげに微笑んだ。
「わたしは、人間じゃない。ただの人形です」
「人形…」
「はい。“ユキ”という人形です」
「人形なのに、動けるの?」
「人間の魂が入っているので。…それより、わたしが怖くないのですか?人形ですよ?」
「え?怖い?どうして?怖いわけないじゃん。だって、ずっと一緒にいたし…これからも一緒に…いたいし」
一緒にいたいと口にした途端、涙がこぼれた。
泣いちゃだめなのに……泣いたら受け入れたと思われてしまう。
「お嬢様。長くなりますがよろしいですか?」
私は椅子に腰掛けて小さく頷いた。
雪は私の様子を見ながら話し始めた。
「お嬢様の役目はご存知の通り“村を守ること”です。守るというのは村のおきてに従うということを意味します。例えそれが本人の意志ではなかったとしても。
あなた様の役目は、生と死を同時に行うことです。
20歳になると、お父上が選んだ相手との婚儀が行われます。もちろん式の日までお互い顔を合わせることは一切ありません。
結婚することにより命をつなぐ第1歩とするのが『生』ということになります。そして…」
雪は言葉を切って顔を伏せた。
「そして?」
待ちきれずに尋ねると、雪は顔を伏せたまま呟くように言った。
「……婚儀を終えた後、夜にもう1つ、『死』の儀を行うのです。」
「誰かが死ぬってこと?」
「まぁ、そうですが…“死ぬ”ではなく“殺す”という意味です。」
「…ころ…す?誰が、誰を殺すっていうの」
「…お嬢様が、わたしを殺すのです」
私は言葉を失った。
私の反応を見た雪は悲しげな顔をした。
「雪は…はじめからそのつもりで私の世話係になったの?」
「…はい。お嬢様にお役目があるように、わたしにも逃れられない役割があるのです」
「どうして、私は大事な人ばかり失わなきゃならないの……」
「お嬢様…」
「お母様ももういないのに。雪まで……それも私が殺すだなんてっ」
雪はそっと私の手を握った。それは初めての行為だった。同時にー。驚いた。
手が……
「作り物みたい。……硬い」
雪は悲しげに微笑んだ。
「わたしは、人間じゃない。ただの人形です」
「人形…」
「はい。“ユキ”という人形です」
「人形なのに、動けるの?」
「人間の魂が入っているので。…それより、わたしが怖くないのですか?人形ですよ?」
「え?怖い?どうして?怖いわけないじゃん。だって、ずっと一緒にいたし…これからも一緒に…いたいし」
一緒にいたいと口にした途端、涙がこぼれた。
泣いちゃだめなのに……泣いたら受け入れたと思われてしまう。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。
【R15】アリア・ルージュの妄信
皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。
異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
さんざめく左手 ― よろず屋・月翔 散冴 ―
流々(るる)
ミステリー
【この男の冷たい左手が胸騒ぎを呼び寄せる。アウトローなヒーロー、登場】
どんな依頼でもお受けします。それがあなたにとっての正義なら
企業が表向きには処理できない事案を引き受けるという「よろず屋」月翔 散冴(つきかけ さんざ)。ある依頼をきっかけに大きな渦へと巻き込まれていく。彼にとっての正義とは。
サスペンスあり、ハードボイルドあり、ミステリーありの痛快エンターテイメント!
※さんざめく:さざめく=胸騒ぎがする(精選版 日本国語大辞典より)、の音変化。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
ランネイケッド
パープルエッグ
ミステリー
ある朝、バス停で高校生の翆がいつものように音楽を聴きながらバスを待っていると下着姿の若い女性が走ってきて翠にしがみついてきた。
突然の出来事に唖然とする翆だが下着姿の女性は翠の腰元にしがみついたまま地面にひざをつき今にも倒れそうになっていた。
女性の悲壮な顔がなんとも悩めかしくまるで自分を求めているような錯覚さえ覚える。
一体なにがあったというのだろうか?
このブラジャーは誰のもの?
本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。
保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。
誰が、一体、なんの為に。
この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる