勿忘草 ~人形の涙~

夢華彩音

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第八章 麻生明梨

~宿命1~

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翌朝、雪は私の部屋にやってきた。
「お嬢様。長くなりますがよろしいですか?」

私は椅子に腰掛けて小さく頷いた。
雪は私の様子を見ながら話し始めた。
「お嬢様の役目はご存知の通り“村を守ること”です。守るというのは村のおきてに従うということを意味します。例えそれが本人の意志ではなかったとしても。      

あなた様の役目は、生と死を同時に行うことです。

20歳になると、お父上が選んだ相手との婚儀が行われます。もちろん式の日までお互い顔を合わせることは一切ありません。
結婚することにより命をつなぐ第1歩とするのが『生』ということになります。そして…」
雪は言葉を切って顔を伏せた。

「そして?」
待ちきれずに尋ねると、雪は顔を伏せたまま呟くように言った。

「……婚儀を終えた後、夜にもう1つ、『死』の儀を行うのです。」
「誰かが死ぬってこと?」
「まぁ、そうですが…“死ぬ”ではなく“殺す”という意味です。」
「…ころ…す?誰が、誰を殺すっていうの」
「…お嬢様が、わたしを殺すのです」

私は言葉を失った。
私の反応を見た雪は悲しげな顔をした。

「雪は…はじめからそのつもりで私の世話係になったの?」
「…はい。お嬢様にお役目があるように、わたしにも逃れられない役割があるのです」
「どうして、私は大事な人ばかり失わなきゃならないの……」
「お嬢様…」
「お母様ももういないのに。雪まで……それも私が殺すだなんてっ」

雪はそっと私の手を握った。それは初めての行為だった。同時にー。驚いた。

手が……

「作り物みたい。……硬い」

雪は悲しげに微笑んだ。
「わたしは、人間じゃない。ただの人形です」
「人形…」
「はい。“ユキ”という人形です」
「人形なのに、動けるの?」
「人間の魂が入っているので。…それより、わたしが怖くないのですか?人形ですよ?」
「え?怖い?どうして?怖いわけないじゃん。だって、ずっと一緒にいたし…これからも一緒に…いたいし」

一緒にいたいと口にした途端、涙がこぼれた。

泣いちゃだめなのに……泣いたら受け入れたと思われてしまう。
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