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intermission 6 アイドルは辛いよ
後片付けの時間
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Side-デュエル 11
自警団たちが観客を誘導している間に俺たちはアーシェ達と合流を果たし、共にラスファの様子を見に行ってみた。
ナユタに引っ張り込まれた物陰を覗き込むと、壁際にもたれかかるようにひっそりと倒れている人影が見える。
「ラ…ラスファ!?」
慌てて呼びかけるが、ピクリとも動かず応えない。どうも気を失っているようだ。
無言でナユタに目で問うと、彼女は居心地悪そうに身を縮めた。
「…すまない…」
何があったという前に、ナユタ…半魔族について説明しようと思う。
ナユタの祖先には、古代に繁栄を極めたという魔族がいたらしい。魔族とは生命力に優れ魔力に満ち、長命で好戦的な性質を持った種族の総称だ。
歴史上では数千年も前に、魔族の国同士での大きな戦争で滅亡したという。だがその血脈は細く細く人間の中に残されて、ごくたまに先祖返りとして発現することがある。彼らのことは『半魔族』と呼ばれた。
先祖返りとして生まれる『半魔族』だが、彼らは忌み子として扱われることが多い。その結果、独り立ちする年齢になる前に親から手放されることも少なくないそうだ。確かに俺も、傭兵稼業をしている頃によく見かけた覚えがある。
ここで初めて知ったが…彼らは戦いと血を好むことで知られ、吸血によって飛躍的に戦闘力を増すという性質を持っているそうだ。それで今回の無双状態が可能だったわけか。
ということは…。
それを聞くとラスファの様子を見ていたラグが、あっさりと頷いた。
「あ、確かにこれ…貧血の症状ですね」
「そうなの? この血の気の多い兄貴が? どんだけ吸ったのよ?」
呆れたようなアーシェの問いに、ナユタは未だ黄金のオーラが残る身体を縮めてみせた。っていうかアーシェ…身内に対してその言い草ってのもどうなんだ?
「すまない…今までなかったぐらい魔力に満ちた、美味い血だったもので、つい…」
…美味かったんだ…。
しかもそれで倒れるまで吸血されるというのも、相当に迷惑な話だ。
「夢中で吸って、気づいたら倒れてた。…どうしよう…?」
「いや、それ俺たちに聞かれてもな…。というか、魔力が高いほど味もいいのか?」
素朴な疑問を口にすると彼女は頷く。
「それに、得られる力もその分だけ確実に増す。だからあの時に指名して連れ出した」
「うわぁ…」
この時ばかりは俺、魔力を持たなくて良かったと心底思った。
その時、俺たちは気づかなかったが背後で小さな人影が動いていた。
それが後々、思わぬ方向に事態を動かす事になろうとは誰も思わなかった。
翌日。
うやむやのままに収束したアイドル総選挙の余韻が残る街のあちこちに、大きな話題が上っていた。
『摘発! 『青薔薇の輝き亭』創始者の、黒い過去!』
『仕組まれたアイドル総選挙! 優勝者は親子ともども、雲隠れか?』
『逃げぎわの悪あがき! 魔獣召喚し、どさくさに逃走を図るも捕縛!』
そんな見出しに彩られた雑誌が、飛ぶような売れ行きをみせていた。言うまでもない『エルダード・ゴシップ』だ。
俺は面白半分にアーチが買ってきた雑誌から目を上げ、苦いため息をつく。
「マジで書いちゃうとはなぁ…」
テーブルに雑誌を投げ出すと、女将さんが拾い上げた。
「それだけじゃないよ、見てみなコレ!」
示されたページを覗き込んで、全員が呻き声を上げた。
魔術師ギルドの作り出した、肖像画を紙に焼き付ける魔術具。それによって、雑誌に掲載された絵は…。
あの時の光景そのものだった。
物陰に集まって、倒れたラスファの様子を見る俺たち。全員が泥や埃にまみれ、辺りにはヘルハウンドの血が散っている。
見出しには『現地冒険者、名誉の負傷!』『お手柄! ヘルハウンドを撃退!』などと言う文字が踊っている。
「…うわあ…」
回復に丸一日かかったラスファはテーブルに突っ伏した。貧血がぶり返したんだろうか?
そのタイミングで、ネズミ記者のビルが入ってきた。
「やあやあ、英雄のみなさんお揃いで!」
数人分の殺気立った視線をものともせずに、へラリと笑うビル。
「いつの間に撮ったんだ、オメー?」
ビルの肩に手を回しながら問いかけるアーチ。どうでもいいが、なんでちょっと嬉しそうなんだ?
「まあ皆さん、細かいことは無しにしましょうや! いやー今回のこと、感謝いたしますよ! おかげで売り上げ好調ですわ。ありがたや!」
「拝むな!」
突っ伏していたテーブルを飛び越して、ラスファがビルの襟首掴んで揺さぶった。同時に冷気が辺りに立ち込める。貧血を起こして倒れたことが嘘のようだ…やっぱり血の気が多いのか?
「ナニ勝手なことしてくれてるんだ! 誰が名誉の負傷だ!」
だがビルはどこ吹く風。
「いや、実際の話…あんたのおかげで効果は格段に跳ね上がったんでさ」
「…は?」
自警団たちが観客を誘導している間に俺たちはアーシェ達と合流を果たし、共にラスファの様子を見に行ってみた。
ナユタに引っ張り込まれた物陰を覗き込むと、壁際にもたれかかるようにひっそりと倒れている人影が見える。
「ラ…ラスファ!?」
慌てて呼びかけるが、ピクリとも動かず応えない。どうも気を失っているようだ。
無言でナユタに目で問うと、彼女は居心地悪そうに身を縮めた。
「…すまない…」
何があったという前に、ナユタ…半魔族について説明しようと思う。
ナユタの祖先には、古代に繁栄を極めたという魔族がいたらしい。魔族とは生命力に優れ魔力に満ち、長命で好戦的な性質を持った種族の総称だ。
歴史上では数千年も前に、魔族の国同士での大きな戦争で滅亡したという。だがその血脈は細く細く人間の中に残されて、ごくたまに先祖返りとして発現することがある。彼らのことは『半魔族』と呼ばれた。
先祖返りとして生まれる『半魔族』だが、彼らは忌み子として扱われることが多い。その結果、独り立ちする年齢になる前に親から手放されることも少なくないそうだ。確かに俺も、傭兵稼業をしている頃によく見かけた覚えがある。
ここで初めて知ったが…彼らは戦いと血を好むことで知られ、吸血によって飛躍的に戦闘力を増すという性質を持っているそうだ。それで今回の無双状態が可能だったわけか。
ということは…。
それを聞くとラスファの様子を見ていたラグが、あっさりと頷いた。
「あ、確かにこれ…貧血の症状ですね」
「そうなの? この血の気の多い兄貴が? どんだけ吸ったのよ?」
呆れたようなアーシェの問いに、ナユタは未だ黄金のオーラが残る身体を縮めてみせた。っていうかアーシェ…身内に対してその言い草ってのもどうなんだ?
「すまない…今までなかったぐらい魔力に満ちた、美味い血だったもので、つい…」
…美味かったんだ…。
しかもそれで倒れるまで吸血されるというのも、相当に迷惑な話だ。
「夢中で吸って、気づいたら倒れてた。…どうしよう…?」
「いや、それ俺たちに聞かれてもな…。というか、魔力が高いほど味もいいのか?」
素朴な疑問を口にすると彼女は頷く。
「それに、得られる力もその分だけ確実に増す。だからあの時に指名して連れ出した」
「うわぁ…」
この時ばかりは俺、魔力を持たなくて良かったと心底思った。
その時、俺たちは気づかなかったが背後で小さな人影が動いていた。
それが後々、思わぬ方向に事態を動かす事になろうとは誰も思わなかった。
翌日。
うやむやのままに収束したアイドル総選挙の余韻が残る街のあちこちに、大きな話題が上っていた。
『摘発! 『青薔薇の輝き亭』創始者の、黒い過去!』
『仕組まれたアイドル総選挙! 優勝者は親子ともども、雲隠れか?』
『逃げぎわの悪あがき! 魔獣召喚し、どさくさに逃走を図るも捕縛!』
そんな見出しに彩られた雑誌が、飛ぶような売れ行きをみせていた。言うまでもない『エルダード・ゴシップ』だ。
俺は面白半分にアーチが買ってきた雑誌から目を上げ、苦いため息をつく。
「マジで書いちゃうとはなぁ…」
テーブルに雑誌を投げ出すと、女将さんが拾い上げた。
「それだけじゃないよ、見てみなコレ!」
示されたページを覗き込んで、全員が呻き声を上げた。
魔術師ギルドの作り出した、肖像画を紙に焼き付ける魔術具。それによって、雑誌に掲載された絵は…。
あの時の光景そのものだった。
物陰に集まって、倒れたラスファの様子を見る俺たち。全員が泥や埃にまみれ、辺りにはヘルハウンドの血が散っている。
見出しには『現地冒険者、名誉の負傷!』『お手柄! ヘルハウンドを撃退!』などと言う文字が踊っている。
「…うわあ…」
回復に丸一日かかったラスファはテーブルに突っ伏した。貧血がぶり返したんだろうか?
そのタイミングで、ネズミ記者のビルが入ってきた。
「やあやあ、英雄のみなさんお揃いで!」
数人分の殺気立った視線をものともせずに、へラリと笑うビル。
「いつの間に撮ったんだ、オメー?」
ビルの肩に手を回しながら問いかけるアーチ。どうでもいいが、なんでちょっと嬉しそうなんだ?
「まあ皆さん、細かいことは無しにしましょうや! いやー今回のこと、感謝いたしますよ! おかげで売り上げ好調ですわ。ありがたや!」
「拝むな!」
突っ伏していたテーブルを飛び越して、ラスファがビルの襟首掴んで揺さぶった。同時に冷気が辺りに立ち込める。貧血を起こして倒れたことが嘘のようだ…やっぱり血の気が多いのか?
「ナニ勝手なことしてくれてるんだ! 誰が名誉の負傷だ!」
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「いや、実際の話…あんたのおかげで効果は格段に跳ね上がったんでさ」
「…は?」
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