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intermission 6 アイドルは辛いよ
後片付けは虎刈りで!
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side-アーシェ 4
「詐欺師の不正と有力者の親子が黒幕だったこと、おまけに逃亡時に魔獣まで放り込んだってのは結構な重罪でさァ」
ネズミ記者は、呆然とする兄貴の手を振りほどくと着地してよろめいた。やっぱし揺さぶられて目が回ってたみたいね…。
「それ以上に、あの絵面から伝わるもんも大きかったってことですわ。例え百の言葉を積み重ねたところで、一枚の絵に勝るとは思えませんわな」
その言葉でなんとなく、テーブルに広げたままの雑誌を眺める。うん…激闘の後でボロボロに汚れた上に、怪我人(ほんとは違うけど)の介抱をしてるようにしか見えない。辺りに飛んだヘルハウンドの血で、その誤解も深まってそうだよね確かに…。
「そんなわけで…雑誌の読者の間で『青薔薇亭』に対する、結構な反発運動が起きつつあるんでさ」
あたしたちは絶句した。魔術師ギルドの開発した魔術具が、そこまで大きく影響を与えることになるなんて思わなかった。
その後、間もなく『青薔薇亭』は完全に解散する事になった。今回のこともあるけど、ジェインさんやヴィヴィさんみたいな目にあった人たちのことも明るみに出たりして続けられなくなったみたいね。おまけに経営者は行方不明だし、背後を固めてた有力者も息子のハンスも雲隠れときたら…ねえ?
やっぱりあの雑誌に載った絵の影響も大きいのかな? って言っても、あれは半分兄貴の非公式親衛隊が怒りで奮起したってこともあったようだけど。
無自覚なのも罪よねー。実際どれだけ人数いるのかわかんないけどさ、貧血だったなんて事実…今さら広めらんないわ。
ジェインさんとヴィヴィさんは、あの後で正式にユニット組むって言ってた。白銀亭の二人部屋をシェアしてアイドル続けるんだって。うん、すっごくイイかも! あの二人には『青薔薇亭』時代から今まで苦楽をわかりあってるもの。今回のことで固い友情が芽生えたみたい。頑張ってほしいな、ホントに!
襲撃者達のことは、正直わかんない。アーちんのツテで盗賊ギルドに連れてかれたけど、そこからどうなったんだか?
「ギルドのおもてなしが楽しいんじゃねぇの?」
ってアーちんが言って、何も知らずラグちゃんが笑顔で頷いてたけど…絶対楽しんでるのはギルド職員だけだろうね…怖ッ!
そして今日、ネズミさんがまた来た。
デュエルはあからさまに嫌な顔をして、兄貴は無言で塩を手に取る。うわぁ、嫌われ者だ!
「ああ、そのままそのまま。今日はそう暑い日じゃねぇんで、塩分の補給は要りませんぜ!」
なんかこう、記者ってのは図々しくなきゃ出来ない仕事なのね…。単にこの人の性分って気がして来たけどさ。
「何の用だ、今さら?」
塩を手放さないまま、絶対零度の兄貴の声にも怯まない。
「いやね? 特ダネがまた転がってないか、定期的に見に来させてもらいたくて」
「「来んでいい」」
「あと、こいつらの社会見学をさせて貰いたいんで。あっしのガキですがね?」
「は?」
言われて出て来たのは、小さな小さなネズミ獣人の子供だった。背丈はあたしの腰くらいしかなくて、なんというか…こぎれいで可愛い。父親がドブネズミなら、子供はハムスターってとこかしら?小さな身体に見合ったサイズの魔導撮影機を首から下げて、つぶらな目でこっちをじっと見ている。
「初めまして、エイハムと申します! このたびは、父が大変なご迷惑をおかけしました!」
そう言って深々と頭を下げる。困惑したように目を見交わす兄貴たち。
「…子供の方がしっかりしてないか?」
デュエルが半眼でネズミ記者を見る。あたしも同感。
「いやいやいやいや、娘の出来がいいなんて! そんなホントのこと言われても…」
「出た、親バカ!」
「いや言ってないからそこまで」
娘のエイハム…ハムちゃんは、魔道撮影機の魅力にとりつかれたんだって。父親がその才能を見出して「記者になれ!」ってさ。別の方向での撮影って発想はないのかな? 気になったんで聞いてみたら、スクープよりも芸術方面に生かしたいって言ってる…やっぱりね。だからこっそり記者のふりしながら芸術作品を撮りたいんだって。それナイス!
ちゃっかりしてるとこは親譲りっぽいな。とりあえず今はアイドルの撮影に勤しむって。それなら応援しよっと。
「そうそう、本題はこっちでさ」
ネズミさんが懐から絵を取り出した。それを見て、デュエルと兄貴が絶句する。あたしはどさくさ紛れに覗きこんだ。
『アイドルの三角関係?! アイドルJとNが火花を散らす! お相手は護衛を務めた…?』
そんな陳腐な見出しが張り付いた雑誌のページだ。目線加工されたナユタさんとジェインさんが睨み合っている絵だ。その隅に見えるか見えないかのギリギリのラインで、兄貴らしき絵もついている。
「もう事件は終わったってことで、解禁ってことでいいでしょ? 掴んだスクープをお蔵入りにするにゃ、ちぃと勿体無いとは…え? ちょっと? 何するんで? 」
兄貴は無言でネズミさんを引きずって、奥まったところに引っ込んだ。途端に悲鳴が上がる。
「あの…止めなくていいの? ハムちゃん…」
「たまには痛い目みたほうがいいと思います」
あたしの問いかけに、随分とドライな答えが返って来た。見た目によらずハードな性格みたい…嫌いじゃないけど。
次の日。
虎刈りのネズミがスクープを追う姿が見られたそうな。多分それでも、あの性格は変わらないだろうな…。
まあまだ気になることはあるけど、今回はこれで解決ってことでいいよね?
次はどんな事件が来るんだろ?
退屈しないよね、この町って!
「詐欺師の不正と有力者の親子が黒幕だったこと、おまけに逃亡時に魔獣まで放り込んだってのは結構な重罪でさァ」
ネズミ記者は、呆然とする兄貴の手を振りほどくと着地してよろめいた。やっぱし揺さぶられて目が回ってたみたいね…。
「それ以上に、あの絵面から伝わるもんも大きかったってことですわ。例え百の言葉を積み重ねたところで、一枚の絵に勝るとは思えませんわな」
その言葉でなんとなく、テーブルに広げたままの雑誌を眺める。うん…激闘の後でボロボロに汚れた上に、怪我人(ほんとは違うけど)の介抱をしてるようにしか見えない。辺りに飛んだヘルハウンドの血で、その誤解も深まってそうだよね確かに…。
「そんなわけで…雑誌の読者の間で『青薔薇亭』に対する、結構な反発運動が起きつつあるんでさ」
あたしたちは絶句した。魔術師ギルドの開発した魔術具が、そこまで大きく影響を与えることになるなんて思わなかった。
その後、間もなく『青薔薇亭』は完全に解散する事になった。今回のこともあるけど、ジェインさんやヴィヴィさんみたいな目にあった人たちのことも明るみに出たりして続けられなくなったみたいね。おまけに経営者は行方不明だし、背後を固めてた有力者も息子のハンスも雲隠れときたら…ねえ?
やっぱりあの雑誌に載った絵の影響も大きいのかな? って言っても、あれは半分兄貴の非公式親衛隊が怒りで奮起したってこともあったようだけど。
無自覚なのも罪よねー。実際どれだけ人数いるのかわかんないけどさ、貧血だったなんて事実…今さら広めらんないわ。
ジェインさんとヴィヴィさんは、あの後で正式にユニット組むって言ってた。白銀亭の二人部屋をシェアしてアイドル続けるんだって。うん、すっごくイイかも! あの二人には『青薔薇亭』時代から今まで苦楽をわかりあってるもの。今回のことで固い友情が芽生えたみたい。頑張ってほしいな、ホントに!
襲撃者達のことは、正直わかんない。アーちんのツテで盗賊ギルドに連れてかれたけど、そこからどうなったんだか?
「ギルドのおもてなしが楽しいんじゃねぇの?」
ってアーちんが言って、何も知らずラグちゃんが笑顔で頷いてたけど…絶対楽しんでるのはギルド職員だけだろうね…怖ッ!
そして今日、ネズミさんがまた来た。
デュエルはあからさまに嫌な顔をして、兄貴は無言で塩を手に取る。うわぁ、嫌われ者だ!
「ああ、そのままそのまま。今日はそう暑い日じゃねぇんで、塩分の補給は要りませんぜ!」
なんかこう、記者ってのは図々しくなきゃ出来ない仕事なのね…。単にこの人の性分って気がして来たけどさ。
「何の用だ、今さら?」
塩を手放さないまま、絶対零度の兄貴の声にも怯まない。
「いやね? 特ダネがまた転がってないか、定期的に見に来させてもらいたくて」
「「来んでいい」」
「あと、こいつらの社会見学をさせて貰いたいんで。あっしのガキですがね?」
「は?」
言われて出て来たのは、小さな小さなネズミ獣人の子供だった。背丈はあたしの腰くらいしかなくて、なんというか…こぎれいで可愛い。父親がドブネズミなら、子供はハムスターってとこかしら?小さな身体に見合ったサイズの魔導撮影機を首から下げて、つぶらな目でこっちをじっと見ている。
「初めまして、エイハムと申します! このたびは、父が大変なご迷惑をおかけしました!」
そう言って深々と頭を下げる。困惑したように目を見交わす兄貴たち。
「…子供の方がしっかりしてないか?」
デュエルが半眼でネズミ記者を見る。あたしも同感。
「いやいやいやいや、娘の出来がいいなんて! そんなホントのこと言われても…」
「出た、親バカ!」
「いや言ってないからそこまで」
娘のエイハム…ハムちゃんは、魔道撮影機の魅力にとりつかれたんだって。父親がその才能を見出して「記者になれ!」ってさ。別の方向での撮影って発想はないのかな? 気になったんで聞いてみたら、スクープよりも芸術方面に生かしたいって言ってる…やっぱりね。だからこっそり記者のふりしながら芸術作品を撮りたいんだって。それナイス!
ちゃっかりしてるとこは親譲りっぽいな。とりあえず今はアイドルの撮影に勤しむって。それなら応援しよっと。
「そうそう、本題はこっちでさ」
ネズミさんが懐から絵を取り出した。それを見て、デュエルと兄貴が絶句する。あたしはどさくさ紛れに覗きこんだ。
『アイドルの三角関係?! アイドルJとNが火花を散らす! お相手は護衛を務めた…?』
そんな陳腐な見出しが張り付いた雑誌のページだ。目線加工されたナユタさんとジェインさんが睨み合っている絵だ。その隅に見えるか見えないかのギリギリのラインで、兄貴らしき絵もついている。
「もう事件は終わったってことで、解禁ってことでいいでしょ? 掴んだスクープをお蔵入りにするにゃ、ちぃと勿体無いとは…え? ちょっと? 何するんで? 」
兄貴は無言でネズミさんを引きずって、奥まったところに引っ込んだ。途端に悲鳴が上がる。
「あの…止めなくていいの? ハムちゃん…」
「たまには痛い目みたほうがいいと思います」
あたしの問いかけに、随分とドライな答えが返って来た。見た目によらずハードな性格みたい…嫌いじゃないけど。
次の日。
虎刈りのネズミがスクープを追う姿が見られたそうな。多分それでも、あの性格は変わらないだろうな…。
まあまだ気になることはあるけど、今回はこれで解決ってことでいいよね?
次はどんな事件が来るんだろ?
退屈しないよね、この町って!
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