Prisoner

たける

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第2章

5.

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目が覚めると、クレイズは酷い頭痛に顔をしかめた。
どうやら風邪を引いたらしい。久々に髪を洗ったせいだろうと思いながら、ゆっくりと体を起こす。
こめかみが酷く痛み、頭に手を遣った。
檻にある布団はただの布のように薄く、暖を取るには貧弱すぎた。
とにかく寒い。

「おい、誰かいないか?」

そう声をかけると、巡回中の警官が顔を覗かせた。

「どうした?」
「寒い。毛布をくれないか?」

震える体を抱きながら、クレイズは奥歯を鳴らした。だが警官は無理だ、と答えた。
これが囚人に対する警官の普通の態度だろう。
優しさなどずっとかけられた事がなかったので平気だったが、このままでは風邪を拗らせかねない。

「毛布を持って来い!早く持って来るんだ!」

無理に大声を出した。
その後にクレイズは酷い咳を何回もした。

「うるさいぞ。他の囚人の迷惑だろうが!」

再び顔を覗かせ、そう警官はクレイズを罵った。

「早くしろ!このグズ!」

クレイズも警官を罵った。すると通路の向こうからゲイナーが現れた。寝不足気味の酷い顔をしている。

「何事だ?こんな夜中に大声を出して」

ゲイナーが警官に尋ねると、さっきまで威張っていた警官は畏縮し、ゲイナーにクレイズの訴えを話した。

「じゃあ私が毛布を持って来よう。君はここにいてくれ」

そう言ってゲイナーは通路を戻って行った。

「さっさと持ってくればよかったんだ」

そう漏らすと、警官はクレイズを睨んだ。

「美人だからって、お高くとまってんじゃねーぞ」

思ってもいない事を言われたクレイズは目を丸くした。
ゲイナーはすぐに毛布を持って戻って来た。

「君は向こうを見回ってくれ」

そう指示され、警官は渋々と通路を歩いて行った。
檻にゲイナーと2人になるとクレイズは堪えていた咳をした。
胸が痛い。

「さぁ、温かくするんだ」

そう言ってゲイナーは、クレイズの肩に毛布をそっとかけると、咳込むクレイズの背中を摩りながら隣に腰掛けてきた。
毛布越しなのに、ゲイナーの手の温もりを感じる。それは気のせいだろうと思いながら、クレイズは目に滲んだ涙を拭った。


──これが優しさ、と言うものなんだろうか。
  だとしたら、なんと温かいのだろう。


「大丈夫か?」

ゲイナーが心配そうに顔を覗き込んで来る。

「何故オレに優しくするんだ?オレは囚人だぞ」

優しくするのには何か魂胆があるに違いない。クレイズはそうも感じた。

「あぁ、そうだ。だが君は囚人である前に1人の人間だ。それに、女性だ」

ゲイナーはそう言った。

「何か、魂胆でもあるのか?本部長」

そうクレイズが言うと、ゲイナーは少し驚いた表情になった。

「いや、魂胆なんて。ただ娘が生きていたら、君ぐらいだろうと思ってな」
「死んだのか?」

そう尋ね返すと、ゲイナーは暗い影を背負った。

「幼い頃に、な。さぁ、もう随分と温かくなったんじゃないか?」

ゲイナーは無理に明るい顔を作ると、クレイズを見つめた。

「あぁ、そうだな。咳も出なくなった」

魂胆のない優しさなんてある筈がない。そう思ったが、ゲイナーになら無償の優しさがあってもおかしくないとも思った。


──どうかしてる。


クレイズは内心でそう自嘲すると、ゲイナーを見つめ返した。ぶつかった視線に温もりを感じる。

「なら、もう眠るといい。朝になってもまだ酷いようなら、病院に連れて行ってやろう」

そう言って立ち上がったゲイナーから、クレイズは懐かしさを感じさせる匂いを覚えた。
どこで嗅いだのだろうと考えているうちに、檻の外へ出て行く。

「おやすみ、クレイズ」
「本部長もな」

ゲイナーは通路の向こうに消えた。クレイズの側にはまだ、ゲイナーの匂いが漂っていた。




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