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第2章
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目が覚めると、クレイズは酷い頭痛に顔をしかめた。
どうやら風邪を引いたらしい。久々に髪を洗ったせいだろうと思いながら、ゆっくりと体を起こす。
こめかみが酷く痛み、頭に手を遣った。
檻にある布団はただの布のように薄く、暖を取るには貧弱すぎた。
とにかく寒い。
「おい、誰かいないか?」
そう声をかけると、巡回中の警官が顔を覗かせた。
「どうした?」
「寒い。毛布をくれないか?」
震える体を抱きながら、クレイズは奥歯を鳴らした。だが警官は無理だ、と答えた。
これが囚人に対する警官の普通の態度だろう。
優しさなどずっとかけられた事がなかったので平気だったが、このままでは風邪を拗らせかねない。
「毛布を持って来い!早く持って来るんだ!」
無理に大声を出した。
その後にクレイズは酷い咳を何回もした。
「うるさいぞ。他の囚人の迷惑だろうが!」
再び顔を覗かせ、そう警官はクレイズを罵った。
「早くしろ!このグズ!」
クレイズも警官を罵った。すると通路の向こうからゲイナーが現れた。寝不足気味の酷い顔をしている。
「何事だ?こんな夜中に大声を出して」
ゲイナーが警官に尋ねると、さっきまで威張っていた警官は畏縮し、ゲイナーにクレイズの訴えを話した。
「じゃあ私が毛布を持って来よう。君はここにいてくれ」
そう言ってゲイナーは通路を戻って行った。
「さっさと持ってくればよかったんだ」
そう漏らすと、警官はクレイズを睨んだ。
「美人だからって、お高くとまってんじゃねーぞ」
思ってもいない事を言われたクレイズは目を丸くした。
ゲイナーはすぐに毛布を持って戻って来た。
「君は向こうを見回ってくれ」
そう指示され、警官は渋々と通路を歩いて行った。
檻にゲイナーと2人になるとクレイズは堪えていた咳をした。
胸が痛い。
「さぁ、温かくするんだ」
そう言ってゲイナーは、クレイズの肩に毛布をそっとかけると、咳込むクレイズの背中を摩りながら隣に腰掛けてきた。
毛布越しなのに、ゲイナーの手の温もりを感じる。それは気のせいだろうと思いながら、クレイズは目に滲んだ涙を拭った。
──これが優しさ、と言うものなんだろうか。
だとしたら、なんと温かいのだろう。
「大丈夫か?」
ゲイナーが心配そうに顔を覗き込んで来る。
「何故オレに優しくするんだ?オレは囚人だぞ」
優しくするのには何か魂胆があるに違いない。クレイズはそうも感じた。
「あぁ、そうだ。だが君は囚人である前に1人の人間だ。それに、女性だ」
ゲイナーはそう言った。
「何か、魂胆でもあるのか?本部長」
そうクレイズが言うと、ゲイナーは少し驚いた表情になった。
「いや、魂胆なんて。ただ娘が生きていたら、君ぐらいだろうと思ってな」
「死んだのか?」
そう尋ね返すと、ゲイナーは暗い影を背負った。
「幼い頃に、な。さぁ、もう随分と温かくなったんじゃないか?」
ゲイナーは無理に明るい顔を作ると、クレイズを見つめた。
「あぁ、そうだな。咳も出なくなった」
魂胆のない優しさなんてある筈がない。そう思ったが、ゲイナーになら無償の優しさがあってもおかしくないとも思った。
──どうかしてる。
クレイズは内心でそう自嘲すると、ゲイナーを見つめ返した。ぶつかった視線に温もりを感じる。
「なら、もう眠るといい。朝になってもまだ酷いようなら、病院に連れて行ってやろう」
そう言って立ち上がったゲイナーから、クレイズは懐かしさを感じさせる匂いを覚えた。
どこで嗅いだのだろうと考えているうちに、檻の外へ出て行く。
「おやすみ、クレイズ」
「本部長もな」
ゲイナーは通路の向こうに消えた。クレイズの側にはまだ、ゲイナーの匂いが漂っていた。
どうやら風邪を引いたらしい。久々に髪を洗ったせいだろうと思いながら、ゆっくりと体を起こす。
こめかみが酷く痛み、頭に手を遣った。
檻にある布団はただの布のように薄く、暖を取るには貧弱すぎた。
とにかく寒い。
「おい、誰かいないか?」
そう声をかけると、巡回中の警官が顔を覗かせた。
「どうした?」
「寒い。毛布をくれないか?」
震える体を抱きながら、クレイズは奥歯を鳴らした。だが警官は無理だ、と答えた。
これが囚人に対する警官の普通の態度だろう。
優しさなどずっとかけられた事がなかったので平気だったが、このままでは風邪を拗らせかねない。
「毛布を持って来い!早く持って来るんだ!」
無理に大声を出した。
その後にクレイズは酷い咳を何回もした。
「うるさいぞ。他の囚人の迷惑だろうが!」
再び顔を覗かせ、そう警官はクレイズを罵った。
「早くしろ!このグズ!」
クレイズも警官を罵った。すると通路の向こうからゲイナーが現れた。寝不足気味の酷い顔をしている。
「何事だ?こんな夜中に大声を出して」
ゲイナーが警官に尋ねると、さっきまで威張っていた警官は畏縮し、ゲイナーにクレイズの訴えを話した。
「じゃあ私が毛布を持って来よう。君はここにいてくれ」
そう言ってゲイナーは通路を戻って行った。
「さっさと持ってくればよかったんだ」
そう漏らすと、警官はクレイズを睨んだ。
「美人だからって、お高くとまってんじゃねーぞ」
思ってもいない事を言われたクレイズは目を丸くした。
ゲイナーはすぐに毛布を持って戻って来た。
「君は向こうを見回ってくれ」
そう指示され、警官は渋々と通路を歩いて行った。
檻にゲイナーと2人になるとクレイズは堪えていた咳をした。
胸が痛い。
「さぁ、温かくするんだ」
そう言ってゲイナーは、クレイズの肩に毛布をそっとかけると、咳込むクレイズの背中を摩りながら隣に腰掛けてきた。
毛布越しなのに、ゲイナーの手の温もりを感じる。それは気のせいだろうと思いながら、クレイズは目に滲んだ涙を拭った。
──これが優しさ、と言うものなんだろうか。
だとしたら、なんと温かいのだろう。
「大丈夫か?」
ゲイナーが心配そうに顔を覗き込んで来る。
「何故オレに優しくするんだ?オレは囚人だぞ」
優しくするのには何か魂胆があるに違いない。クレイズはそうも感じた。
「あぁ、そうだ。だが君は囚人である前に1人の人間だ。それに、女性だ」
ゲイナーはそう言った。
「何か、魂胆でもあるのか?本部長」
そうクレイズが言うと、ゲイナーは少し驚いた表情になった。
「いや、魂胆なんて。ただ娘が生きていたら、君ぐらいだろうと思ってな」
「死んだのか?」
そう尋ね返すと、ゲイナーは暗い影を背負った。
「幼い頃に、な。さぁ、もう随分と温かくなったんじゃないか?」
ゲイナーは無理に明るい顔を作ると、クレイズを見つめた。
「あぁ、そうだな。咳も出なくなった」
魂胆のない優しさなんてある筈がない。そう思ったが、ゲイナーになら無償の優しさがあってもおかしくないとも思った。
──どうかしてる。
クレイズは内心でそう自嘲すると、ゲイナーを見つめ返した。ぶつかった視線に温もりを感じる。
「なら、もう眠るといい。朝になってもまだ酷いようなら、病院に連れて行ってやろう」
そう言って立ち上がったゲイナーから、クレイズは懐かしさを感じさせる匂いを覚えた。
どこで嗅いだのだろうと考えているうちに、檻の外へ出て行く。
「おやすみ、クレイズ」
「本部長もな」
ゲイナーは通路の向こうに消えた。クレイズの側にはまだ、ゲイナーの匂いが漂っていた。
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