11 / 75
第2章
5.
しおりを挟む
目が覚めると、クレイズは酷い頭痛に顔をしかめた。
どうやら風邪を引いたらしい。久々に髪を洗ったせいだろうと思いながら、ゆっくりと体を起こす。
こめかみが酷く痛み、頭に手を遣った。
檻にある布団はただの布のように薄く、暖を取るには貧弱すぎた。
とにかく寒い。
「おい、誰かいないか?」
そう声をかけると、巡回中の警官が顔を覗かせた。
「どうした?」
「寒い。毛布をくれないか?」
震える体を抱きながら、クレイズは奥歯を鳴らした。だが警官は無理だ、と答えた。
これが囚人に対する警官の普通の態度だろう。
優しさなどずっとかけられた事がなかったので平気だったが、このままでは風邪を拗らせかねない。
「毛布を持って来い!早く持って来るんだ!」
無理に大声を出した。
その後にクレイズは酷い咳を何回もした。
「うるさいぞ。他の囚人の迷惑だろうが!」
再び顔を覗かせ、そう警官はクレイズを罵った。
「早くしろ!このグズ!」
クレイズも警官を罵った。すると通路の向こうからゲイナーが現れた。寝不足気味の酷い顔をしている。
「何事だ?こんな夜中に大声を出して」
ゲイナーが警官に尋ねると、さっきまで威張っていた警官は畏縮し、ゲイナーにクレイズの訴えを話した。
「じゃあ私が毛布を持って来よう。君はここにいてくれ」
そう言ってゲイナーは通路を戻って行った。
「さっさと持ってくればよかったんだ」
そう漏らすと、警官はクレイズを睨んだ。
「美人だからって、お高くとまってんじゃねーぞ」
思ってもいない事を言われたクレイズは目を丸くした。
ゲイナーはすぐに毛布を持って戻って来た。
「君は向こうを見回ってくれ」
そう指示され、警官は渋々と通路を歩いて行った。
檻にゲイナーと2人になるとクレイズは堪えていた咳をした。
胸が痛い。
「さぁ、温かくするんだ」
そう言ってゲイナーは、クレイズの肩に毛布をそっとかけると、咳込むクレイズの背中を摩りながら隣に腰掛けてきた。
毛布越しなのに、ゲイナーの手の温もりを感じる。それは気のせいだろうと思いながら、クレイズは目に滲んだ涙を拭った。
──これが優しさ、と言うものなんだろうか。
だとしたら、なんと温かいのだろう。
「大丈夫か?」
ゲイナーが心配そうに顔を覗き込んで来る。
「何故オレに優しくするんだ?オレは囚人だぞ」
優しくするのには何か魂胆があるに違いない。クレイズはそうも感じた。
「あぁ、そうだ。だが君は囚人である前に1人の人間だ。それに、女性だ」
ゲイナーはそう言った。
「何か、魂胆でもあるのか?本部長」
そうクレイズが言うと、ゲイナーは少し驚いた表情になった。
「いや、魂胆なんて。ただ娘が生きていたら、君ぐらいだろうと思ってな」
「死んだのか?」
そう尋ね返すと、ゲイナーは暗い影を背負った。
「幼い頃に、な。さぁ、もう随分と温かくなったんじゃないか?」
ゲイナーは無理に明るい顔を作ると、クレイズを見つめた。
「あぁ、そうだな。咳も出なくなった」
魂胆のない優しさなんてある筈がない。そう思ったが、ゲイナーになら無償の優しさがあってもおかしくないとも思った。
──どうかしてる。
クレイズは内心でそう自嘲すると、ゲイナーを見つめ返した。ぶつかった視線に温もりを感じる。
「なら、もう眠るといい。朝になってもまだ酷いようなら、病院に連れて行ってやろう」
そう言って立ち上がったゲイナーから、クレイズは懐かしさを感じさせる匂いを覚えた。
どこで嗅いだのだろうと考えているうちに、檻の外へ出て行く。
「おやすみ、クレイズ」
「本部長もな」
ゲイナーは通路の向こうに消えた。クレイズの側にはまだ、ゲイナーの匂いが漂っていた。
どうやら風邪を引いたらしい。久々に髪を洗ったせいだろうと思いながら、ゆっくりと体を起こす。
こめかみが酷く痛み、頭に手を遣った。
檻にある布団はただの布のように薄く、暖を取るには貧弱すぎた。
とにかく寒い。
「おい、誰かいないか?」
そう声をかけると、巡回中の警官が顔を覗かせた。
「どうした?」
「寒い。毛布をくれないか?」
震える体を抱きながら、クレイズは奥歯を鳴らした。だが警官は無理だ、と答えた。
これが囚人に対する警官の普通の態度だろう。
優しさなどずっとかけられた事がなかったので平気だったが、このままでは風邪を拗らせかねない。
「毛布を持って来い!早く持って来るんだ!」
無理に大声を出した。
その後にクレイズは酷い咳を何回もした。
「うるさいぞ。他の囚人の迷惑だろうが!」
再び顔を覗かせ、そう警官はクレイズを罵った。
「早くしろ!このグズ!」
クレイズも警官を罵った。すると通路の向こうからゲイナーが現れた。寝不足気味の酷い顔をしている。
「何事だ?こんな夜中に大声を出して」
ゲイナーが警官に尋ねると、さっきまで威張っていた警官は畏縮し、ゲイナーにクレイズの訴えを話した。
「じゃあ私が毛布を持って来よう。君はここにいてくれ」
そう言ってゲイナーは通路を戻って行った。
「さっさと持ってくればよかったんだ」
そう漏らすと、警官はクレイズを睨んだ。
「美人だからって、お高くとまってんじゃねーぞ」
思ってもいない事を言われたクレイズは目を丸くした。
ゲイナーはすぐに毛布を持って戻って来た。
「君は向こうを見回ってくれ」
そう指示され、警官は渋々と通路を歩いて行った。
檻にゲイナーと2人になるとクレイズは堪えていた咳をした。
胸が痛い。
「さぁ、温かくするんだ」
そう言ってゲイナーは、クレイズの肩に毛布をそっとかけると、咳込むクレイズの背中を摩りながら隣に腰掛けてきた。
毛布越しなのに、ゲイナーの手の温もりを感じる。それは気のせいだろうと思いながら、クレイズは目に滲んだ涙を拭った。
──これが優しさ、と言うものなんだろうか。
だとしたら、なんと温かいのだろう。
「大丈夫か?」
ゲイナーが心配そうに顔を覗き込んで来る。
「何故オレに優しくするんだ?オレは囚人だぞ」
優しくするのには何か魂胆があるに違いない。クレイズはそうも感じた。
「あぁ、そうだ。だが君は囚人である前に1人の人間だ。それに、女性だ」
ゲイナーはそう言った。
「何か、魂胆でもあるのか?本部長」
そうクレイズが言うと、ゲイナーは少し驚いた表情になった。
「いや、魂胆なんて。ただ娘が生きていたら、君ぐらいだろうと思ってな」
「死んだのか?」
そう尋ね返すと、ゲイナーは暗い影を背負った。
「幼い頃に、な。さぁ、もう随分と温かくなったんじゃないか?」
ゲイナーは無理に明るい顔を作ると、クレイズを見つめた。
「あぁ、そうだな。咳も出なくなった」
魂胆のない優しさなんてある筈がない。そう思ったが、ゲイナーになら無償の優しさがあってもおかしくないとも思った。
──どうかしてる。
クレイズは内心でそう自嘲すると、ゲイナーを見つめ返した。ぶつかった視線に温もりを感じる。
「なら、もう眠るといい。朝になってもまだ酷いようなら、病院に連れて行ってやろう」
そう言って立ち上がったゲイナーから、クレイズは懐かしさを感じさせる匂いを覚えた。
どこで嗅いだのだろうと考えているうちに、檻の外へ出て行く。
「おやすみ、クレイズ」
「本部長もな」
ゲイナーは通路の向こうに消えた。クレイズの側にはまだ、ゲイナーの匂いが漂っていた。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる