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第2章
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クレイズが安易に全ての罪を認めたため、取調べは早く終わった。
「君には弁護士をつける権利がある。その弁護士と、よく話し合いをする事だ」
そう言うとゲイナーは後ろにいた女に命じ、クレイズを風呂に入れてやってくれ、と言った。
「分かりました」
事務的に答えると女は立ち上がった。クレイズも警官に立たされる。
「君が女性だったとはな」
クレイズが女と取調室を出る時、ゲイナーがそう漏らした。
「あぁ、そうだ」
そう答えると、クレイズは取調室を出て、女と一緒に風呂に向かった。
女が見張りをする中、クレイズは長年洗っていなかった髪を丁寧に洗った。
久しぶりに見る髪は汚れで濁った金色をしている。指が何度も絡まった髪に引っ掛かり、シャンプーを何度も繰り返した。
「どのぐらいお風呂に入っていなかったのかしらね」
刺のある言い方をし、女は腕を組みながら浴室のタイル壁にもたれている。
「さぁ?覚えてないが、随分と入っていない」
そう答え、漸く泡立ち始めた髪を洗い流した。そして最後のシャンプーを手に取り、再び髪を頭皮と共に洗い出す。
「どうりで。臭い筈ね」
率直な物言いに、クレイズは女の事を気に入った。飾らない言葉に嘘はない。
「女、お前、名前は?」
念入りに洗った髪を洗い流し、リンスを髪に撫でつけながら尋ねた。すると女は、リリ、と答えた。
「リリか。愛らしい名前だな」
クレイズがそう言って顔を上げ振り返ると、リリは険しい顔をした。
「手を休めないで。早く洗ってちょうだい」
「そうだな」
クレイズは体を戻すと顔を洗った。次に顔を上げた時には、この曇った鏡を拭いて自分の顔を確認してみよう。そう思った。
ゲイナーは醜くない、と言っていた。それは多分ゲイナーなりの気遣いだろう。
僅かに震える手で曇った鏡を拭いた。水滴の残る鏡には、少し歪んだ自分が映っている。
目は猫のようにきつくつり上がり、貪欲に輝く瞳はアイスブルーをしている。
まだあちこちで絡まっている金色の髪は長く、濡れた体に張り付いていて煩わしかった。
「なぁ、リリ。髪を切ってくれないか?」
そう言って振り返ると、リリは目を見開き、はっとしたような表情になった。
「か……髪を?ええ、いいわよ」
少し戸惑いながら答えると、リリは浴室の外にいる警官にハサミを取って来させた。
一瞬だけ、冷たい風が浴室を吹き抜けた。
ハサミを持ったリリがクレイズを振り返り、少し首を傾ける。
「どのぐらい切るの?」
「そうだなぁ、うんと短くしてくれ。邪魔だからな」
鏡に映るリリを見遣りながらそう言った。そんなリリの髪は長く、後ろで1つに束ねられている。
「分かったわ」
囚人用の薄い服を着せられたクレイズは、再び手錠をかけられた。
「なぁリリ。オレは醜いか?」
洗面台の前で、クレイズの髪をドライヤーで乾かしてくれているリリを、鏡越しに見遣りながら尋ねた。
「それ、嫌味?」
そう言ったリリは、同じ様に鏡越しにクレイズを見ている。
リリは零れんばかりの丸い目に小さな鼻。唇は薄く、肌は日に焼けた為か浅黒い。髪は濃い茶色をしていた。
だが鏡に映るクレイズはそうではなかった。
肌は日に焼ける事もなかった為に白く、目はつり上がっていて筋の通った鼻と、ふくよかな唇をしていた。金色の髪はさっきリリに短く切ってもらい、肩先で揺れている。
「嫌味じゃない」
そう言うと、リリはドライヤーを止めてため息をついた。
「ムカつくわよね。だけど、アンタ美人よ。すっごくね。胸も大きいし。よくそんなでかい胸隠してたわよね!」
嫉妬にも似た羨望の眼差しでクレイズを睨むと、リリは乾いたわよ、と言った。
檻に入り薄っぺらく汚いベッドに腰掛けると、ゲイナーがやって来た。リリはクレイズを一瞥してから檻の外に出ると、そのまま通路を歩いて行った。
檻の外には警官が立っている。
「すっかり綺麗になったな、クレイズ」
そう言いながらゲイナーは、クレイズの手錠を外し、それをジャケットのポケットに仕舞った。
「何か用か?本部長」
自由になった両手を眺めながらそうが言うと、ゲイナーは少し困った顔をした。
「いや、用はもう済んだ」
そう言ってポケットに仕舞った手錠を見せ、咳ばらいを1つした。口元を押さえた左手に、指輪が見える。
「君が弁護士を選ばないのなら、国選弁護人をつける事になるが……いいか?」
「構わん。誰が弁護しようと何も変わらない」
投げやり的にそう言うと、ゲイナーは悲しそうに眉を下げた。
「じゃあ、早急に手配するとしよう」
そう言ってゲイナーは出て行った。檻に鍵がかけられ、警官も姿を消した。
檻で1人になったクレイズは、これからどうしようかを考える事にした。
「君には弁護士をつける権利がある。その弁護士と、よく話し合いをする事だ」
そう言うとゲイナーは後ろにいた女に命じ、クレイズを風呂に入れてやってくれ、と言った。
「分かりました」
事務的に答えると女は立ち上がった。クレイズも警官に立たされる。
「君が女性だったとはな」
クレイズが女と取調室を出る時、ゲイナーがそう漏らした。
「あぁ、そうだ」
そう答えると、クレイズは取調室を出て、女と一緒に風呂に向かった。
女が見張りをする中、クレイズは長年洗っていなかった髪を丁寧に洗った。
久しぶりに見る髪は汚れで濁った金色をしている。指が何度も絡まった髪に引っ掛かり、シャンプーを何度も繰り返した。
「どのぐらいお風呂に入っていなかったのかしらね」
刺のある言い方をし、女は腕を組みながら浴室のタイル壁にもたれている。
「さぁ?覚えてないが、随分と入っていない」
そう答え、漸く泡立ち始めた髪を洗い流した。そして最後のシャンプーを手に取り、再び髪を頭皮と共に洗い出す。
「どうりで。臭い筈ね」
率直な物言いに、クレイズは女の事を気に入った。飾らない言葉に嘘はない。
「女、お前、名前は?」
念入りに洗った髪を洗い流し、リンスを髪に撫でつけながら尋ねた。すると女は、リリ、と答えた。
「リリか。愛らしい名前だな」
クレイズがそう言って顔を上げ振り返ると、リリは険しい顔をした。
「手を休めないで。早く洗ってちょうだい」
「そうだな」
クレイズは体を戻すと顔を洗った。次に顔を上げた時には、この曇った鏡を拭いて自分の顔を確認してみよう。そう思った。
ゲイナーは醜くない、と言っていた。それは多分ゲイナーなりの気遣いだろう。
僅かに震える手で曇った鏡を拭いた。水滴の残る鏡には、少し歪んだ自分が映っている。
目は猫のようにきつくつり上がり、貪欲に輝く瞳はアイスブルーをしている。
まだあちこちで絡まっている金色の髪は長く、濡れた体に張り付いていて煩わしかった。
「なぁ、リリ。髪を切ってくれないか?」
そう言って振り返ると、リリは目を見開き、はっとしたような表情になった。
「か……髪を?ええ、いいわよ」
少し戸惑いながら答えると、リリは浴室の外にいる警官にハサミを取って来させた。
一瞬だけ、冷たい風が浴室を吹き抜けた。
ハサミを持ったリリがクレイズを振り返り、少し首を傾ける。
「どのぐらい切るの?」
「そうだなぁ、うんと短くしてくれ。邪魔だからな」
鏡に映るリリを見遣りながらそう言った。そんなリリの髪は長く、後ろで1つに束ねられている。
「分かったわ」
囚人用の薄い服を着せられたクレイズは、再び手錠をかけられた。
「なぁリリ。オレは醜いか?」
洗面台の前で、クレイズの髪をドライヤーで乾かしてくれているリリを、鏡越しに見遣りながら尋ねた。
「それ、嫌味?」
そう言ったリリは、同じ様に鏡越しにクレイズを見ている。
リリは零れんばかりの丸い目に小さな鼻。唇は薄く、肌は日に焼けた為か浅黒い。髪は濃い茶色をしていた。
だが鏡に映るクレイズはそうではなかった。
肌は日に焼ける事もなかった為に白く、目はつり上がっていて筋の通った鼻と、ふくよかな唇をしていた。金色の髪はさっきリリに短く切ってもらい、肩先で揺れている。
「嫌味じゃない」
そう言うと、リリはドライヤーを止めてため息をついた。
「ムカつくわよね。だけど、アンタ美人よ。すっごくね。胸も大きいし。よくそんなでかい胸隠してたわよね!」
嫉妬にも似た羨望の眼差しでクレイズを睨むと、リリは乾いたわよ、と言った。
檻に入り薄っぺらく汚いベッドに腰掛けると、ゲイナーがやって来た。リリはクレイズを一瞥してから檻の外に出ると、そのまま通路を歩いて行った。
檻の外には警官が立っている。
「すっかり綺麗になったな、クレイズ」
そう言いながらゲイナーは、クレイズの手錠を外し、それをジャケットのポケットに仕舞った。
「何か用か?本部長」
自由になった両手を眺めながらそうが言うと、ゲイナーは少し困った顔をした。
「いや、用はもう済んだ」
そう言ってポケットに仕舞った手錠を見せ、咳ばらいを1つした。口元を押さえた左手に、指輪が見える。
「君が弁護士を選ばないのなら、国選弁護人をつける事になるが……いいか?」
「構わん。誰が弁護しようと何も変わらない」
投げやり的にそう言うと、ゲイナーは悲しそうに眉を下げた。
「じゃあ、早急に手配するとしよう」
そう言ってゲイナーは出て行った。檻に鍵がかけられ、警官も姿を消した。
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