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第十三章
531 これで解放される
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聖女達は不満を口にしながらもようやく、目的とする王都の門をくぐった。
「はあ~……本当に腹立たしいっ」
「なんなのかしらっ。神に選ばれた私たちをっ、聖女を無下に扱うなんて、許せないわっ」
「きっと、私たちの尊さを知らない田舎者なのだわっ」
口はよく回るし、怒りや苛立ちによってよく歩いた。それを側で聞くことになる聖騎士達にとっては、精神的にもかなり辛いものがある。
そんな彼らのことを察して、どの領門でも心配そうに気遣ってくれる兵達に励まされ、王都に行けば解放されるから頑張ってと応援された。
それがなければ、彼らは潰れていただろう。
「……やっと……」
「ようやくだな……」
「これで解放される……」
「聖魔教会でいいんだよな?」
「ああ……そこでこいつらを預ければ終わる……」
三人の姦しい聖女達に対して、五人の元聖騎士も者達は、ほっとした様子を見せていた。
「聖魔教会は……あっ、案内板がある」
「親切だな……」
「なんか……っ、この優しさは刺さるなあ」
「俺たちも保護してもらえるんだよな?」
「そう聞いたな。腹も減った気がする……」
『聖魔教会はこちら→』との矢印の看板と、ざっくりとした地図があるのを見て、五人は涙を滲ませた。
聖魔教会の神官だという者達とは、幾度か接触があった。その時も、精神的に疲れて食欲もない彼らに、聖女達には内緒でと甘い飲み物を差し入れてもらっていた。
それはコウヤ特製のドリンクで、そのお陰もあってここまで辿り着けたのだ。
元神官殺しだと知っても、そんな人たちよりも聖女達の方が嫌いになっていた。だって、この看板を見ればわかる。聖女達にはない気遣いに感動するのだ。
「そういえば……うん。お腹が空いたかも……」
「さっきまで、気持ち悪かったのにな……」
「俺はチクチク痛かったんだが……」
精神的な苦痛の影響が、胃まできていた彼らは、これで聖女達から離れられるのだと思ったことで、一気に気が楽になったようだ。
これまでの旅路で感じなかった空腹感を覚えていた。
そして、少し笑顔も見えた。
「よし、じゃあ行くか」
「あと少しだな」
「うん。頑張ろう」
「何食べようか」
「おいおい。気が早いぞ」
そんな話をしながら進んでいると、聖女達が高い声を響かせる。
「ちょっとあなた達、どこに行くつもり?」
「そっちじゃありませんわ。城はあっちでしょう」
「その目は節穴なのかしら? あれが見えないなんて」
「「「「「……は……?」」」」」
何を言ってるんだこいつらはと口にしなかったのは褒められても良い。その表情には出ていたがそれは仕方がないだろう。
「は? じゃありませんわ。私たちは、城に向かうのです。聖女の息子に会うのですわ」
「聖女の息子ならば私たちの息子です。城にいるんでしょう? 道中で聞きませんでしたの? ここの王子が聖女の息子だと」
「きっと私たちを歓待してくれるわ。だって、聖女の息子なんですもの」
「「「「「……は?」」」」」
やべえなこいつらという顔をした元聖騎士達は、一瞬の後、キレた。
「っ、ふざけんな! 受け入れてもらえるはずがないだろ!」
「お前らこそ聞いてねえのかっ! その王子の両親っ、聖女様は、教国の追っ手のせいで一緒になれなかったんだぞっ」
「教国の中央にいたお前らを憎んでこそすれ、歓待するなんてあり得るか!」
「殺されないだけマシと思えっ!」
「バカじゃないのかっ」
「「「……」」」
聖女達は、何を言われたのか理解できなかったようだ。怒涛のように言われた言葉に、目を瞬かせる。
そして、彼女達が理解するよりも先に、聖騎士達は決断した。
「もう知らんっ!」
「もう嫌だ! 殺されたって、お前らのお守りはもう沢山だっ」
「お前らと一緒に居るくらいなら死んでやる!」
そう言って、錯乱状態になった聖騎士達は、自分の剣で死のうとまでした。
それを見て、周りに居た住民や冒険者達がいち早く取り押さえる。
「ちょっ、待て待てっ」
「うわあっ、ここで死ぬのはダメだってっ」
「落ち着け~っ、誰かっ、神官様をっ」
「大丈夫だっ。大丈夫だから、お前らは悪くないぞ~、その姉ちゃん達の顔を見れば、お前らが悪くないのは分かるからっ」
「うんうん。どっからどう見ても傲慢を地で行きそうな姉ちゃん達だもんなっ」
「よしよし。よく頑張ったよ。あんた達、おばちゃんの焼いたパンでも食べな」
事情は分からなくても、耳に入ってきていた聖女や騎士達の会話で察した住民達が、優しく騎士達を諭していく。
「ううっ……」
「もういやだ……っ」
「ひっ、ひっ、ううっ~」
背中を優しく撫でられ、よしよしと頭を叩かれて、聖騎士達は座り込んで涙を流す。本当にギリギリだったようだ。
そんな彼らの様子を見て、聖女達は不愉快そうに言い捨てる。
「っ、なんなの、私達が悪者みたいにっ。失礼にもほどがあるわ!」
「なんて見苦しいのっ。こんなのが聖騎士だなんて、許せないわっ。あんた達、二度と聖騎士と名乗るんじゃないわよ!」
「情けないっ。みっともないっ。もう知りませんわっ」
そう言って、彼女達はそのまま城へと向かって行く。
「あっ、まっ」
待てと騎士達が手を伸ばすが、それに聖女達は見向きもしなかった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回4日です!
「はあ~……本当に腹立たしいっ」
「なんなのかしらっ。神に選ばれた私たちをっ、聖女を無下に扱うなんて、許せないわっ」
「きっと、私たちの尊さを知らない田舎者なのだわっ」
口はよく回るし、怒りや苛立ちによってよく歩いた。それを側で聞くことになる聖騎士達にとっては、精神的にもかなり辛いものがある。
そんな彼らのことを察して、どの領門でも心配そうに気遣ってくれる兵達に励まされ、王都に行けば解放されるから頑張ってと応援された。
それがなければ、彼らは潰れていただろう。
「……やっと……」
「ようやくだな……」
「これで解放される……」
「聖魔教会でいいんだよな?」
「ああ……そこでこいつらを預ければ終わる……」
三人の姦しい聖女達に対して、五人の元聖騎士も者達は、ほっとした様子を見せていた。
「聖魔教会は……あっ、案内板がある」
「親切だな……」
「なんか……っ、この優しさは刺さるなあ」
「俺たちも保護してもらえるんだよな?」
「そう聞いたな。腹も減った気がする……」
『聖魔教会はこちら→』との矢印の看板と、ざっくりとした地図があるのを見て、五人は涙を滲ませた。
聖魔教会の神官だという者達とは、幾度か接触があった。その時も、精神的に疲れて食欲もない彼らに、聖女達には内緒でと甘い飲み物を差し入れてもらっていた。
それはコウヤ特製のドリンクで、そのお陰もあってここまで辿り着けたのだ。
元神官殺しだと知っても、そんな人たちよりも聖女達の方が嫌いになっていた。だって、この看板を見ればわかる。聖女達にはない気遣いに感動するのだ。
「そういえば……うん。お腹が空いたかも……」
「さっきまで、気持ち悪かったのにな……」
「俺はチクチク痛かったんだが……」
精神的な苦痛の影響が、胃まできていた彼らは、これで聖女達から離れられるのだと思ったことで、一気に気が楽になったようだ。
これまでの旅路で感じなかった空腹感を覚えていた。
そして、少し笑顔も見えた。
「よし、じゃあ行くか」
「あと少しだな」
「うん。頑張ろう」
「何食べようか」
「おいおい。気が早いぞ」
そんな話をしながら進んでいると、聖女達が高い声を響かせる。
「ちょっとあなた達、どこに行くつもり?」
「そっちじゃありませんわ。城はあっちでしょう」
「その目は節穴なのかしら? あれが見えないなんて」
「「「「「……は……?」」」」」
何を言ってるんだこいつらはと口にしなかったのは褒められても良い。その表情には出ていたがそれは仕方がないだろう。
「は? じゃありませんわ。私たちは、城に向かうのです。聖女の息子に会うのですわ」
「聖女の息子ならば私たちの息子です。城にいるんでしょう? 道中で聞きませんでしたの? ここの王子が聖女の息子だと」
「きっと私たちを歓待してくれるわ。だって、聖女の息子なんですもの」
「「「「「……は?」」」」」
やべえなこいつらという顔をした元聖騎士達は、一瞬の後、キレた。
「っ、ふざけんな! 受け入れてもらえるはずがないだろ!」
「お前らこそ聞いてねえのかっ! その王子の両親っ、聖女様は、教国の追っ手のせいで一緒になれなかったんだぞっ」
「教国の中央にいたお前らを憎んでこそすれ、歓待するなんてあり得るか!」
「殺されないだけマシと思えっ!」
「バカじゃないのかっ」
「「「……」」」
聖女達は、何を言われたのか理解できなかったようだ。怒涛のように言われた言葉に、目を瞬かせる。
そして、彼女達が理解するよりも先に、聖騎士達は決断した。
「もう知らんっ!」
「もう嫌だ! 殺されたって、お前らのお守りはもう沢山だっ」
「お前らと一緒に居るくらいなら死んでやる!」
そう言って、錯乱状態になった聖騎士達は、自分の剣で死のうとまでした。
それを見て、周りに居た住民や冒険者達がいち早く取り押さえる。
「ちょっ、待て待てっ」
「うわあっ、ここで死ぬのはダメだってっ」
「落ち着け~っ、誰かっ、神官様をっ」
「大丈夫だっ。大丈夫だから、お前らは悪くないぞ~、その姉ちゃん達の顔を見れば、お前らが悪くないのは分かるからっ」
「うんうん。どっからどう見ても傲慢を地で行きそうな姉ちゃん達だもんなっ」
「よしよし。よく頑張ったよ。あんた達、おばちゃんの焼いたパンでも食べな」
事情は分からなくても、耳に入ってきていた聖女や騎士達の会話で察した住民達が、優しく騎士達を諭していく。
「ううっ……」
「もういやだ……っ」
「ひっ、ひっ、ううっ~」
背中を優しく撫でられ、よしよしと頭を叩かれて、聖騎士達は座り込んで涙を流す。本当にギリギリだったようだ。
そんな彼らの様子を見て、聖女達は不愉快そうに言い捨てる。
「っ、なんなの、私達が悪者みたいにっ。失礼にもほどがあるわ!」
「なんて見苦しいのっ。こんなのが聖騎士だなんて、許せないわっ。あんた達、二度と聖騎士と名乗るんじゃないわよ!」
「情けないっ。みっともないっ。もう知りませんわっ」
そう言って、彼女達はそのまま城へと向かって行く。
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待てと騎士達が手を伸ばすが、それに聖女達は見向きもしなかった。
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