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第十二章
477 選抜戦?
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ミラルファとアルキスは、討伐にも参加していたため、久し振りという気はしないが、ジルファスやアビリス王達とは長く会っていなかったように感じた。
それもこれも、ここ数日の密度が濃すぎたせいだろう。
コウヤは笑顔でこちらに顔を向けた一同に挨拶する。
「おはようございます」
「「「「「っ、おはようっ」」」」」
大人組は、コウヤの王子様らしい姿に感動気味に挨拶を返す。
一方、弟のリルファムと伯父のシンリームは、久しぶりに会えたと嬉しそうに返した。
「おはようございますっ、コウヤにいさまっ。あいたかったですっ」
「おはよう、コウヤくんっ。お疲れ様」
「ありがとうございます。シン様。リルも久し振りだね」
「はいっ。えへへ、にいさまぁ」
コウヤが近付くと、リルファムは椅子から降りて嬉しそうに抱き着いた。
そんなリルファムの頭を撫でていれば、ジルファスが歩み寄って来る。その顔には、少し羨ましげなものも見える。
「コウヤ。ちゃんと休めたかい? その……大変だったよね」
「いえ。大変というよりは、楽しかったですよ。大きな怪我人も出ることなく終えられて、今は少しほっとしていますけど」
「そうか……いや、コウヤが戦ってるのも見たよっ。それと……王子としてのお披露目前に、かなり民達や他国の者にも人気が……」
だんだんと肩を落としていくジルファス。これに追従するのがイスリナだった。
「そうよっ。コウヤさんっ。前々から、この王都では『可愛くて有能な子どものギルド職員がいる』って話題になってたのよ?」
「そうなんですか?」
そうだったのかとコウヤがキョロキョロと周りを見回して確認すると、ジルファスも少しなぜか泣きそうな顔で頷くし、ミラルファとアルキスも重々しく頷く。アビリス王は苦笑気味に同意していた。
「そうですっ! それが、あんな大々的に顔を見せちゃってっ。『コウヤ君カワイイっ』とか、『あの子が居るなら、冒険者になるっ』とか毎日聞きましたよ」
「毎日……」
そんなにかとコウヤは目を瞬かせる。
次にジルファスが引き継いで苦言らしきものを続ける。
「コウヤが拡張工事や学園の建設工事の現場にも顔を見せてたのを、住民達は知ってるから、是非手伝いたいという人も増えてるんだ……そのお陰で、工事がドラム組が居なくてもよく進んでるよ……」
「そうなんですかっ。良かったですっ」
「……うん……まあね……コウヤに『会いたいから』じゃなくて『少しでも手伝いたいから』って理由だから、受け入れてるけど……ちょっと不安だよ……」
『あんな可愛い子が頑張ってるんだから、自分たちも!』というのが、コウヤを知った者たちの総意で、決して下心があるわけではない。それは良かったのだが、ジルファス達としては、複雑な気持ちだ。
もちろん、中にはお近付きになりたいと言う者も居るが、節度は守ってくれそうだということだ。当然だが、悪い方に向かった場合は、夜陰に乗じて神官達が動くので居なかったことになるだろう。
そんな不安もあるということだ。
ミラルファが笑いながら近付いてくる。
「ふふふっ。人気になるのも問題ねえ。さあ、話も尽きないもの。続きは、食事をいただきながらにしましょう」
「はい。久し振りのお城のご飯、楽しみです」
そうコウヤが告げれば、控えていた料理長が背筋を伸ばして答える。
「はっ! コウヤ様のお口に合えばと思っております。是非、忌憚ない意見もお聞かせください!」
「そんな……いえ、では、後で新しいレシピ本もお渡ししますね」
「っ、ありがとうございます!!」
ちょっと暑苦しくなった料理長は、それでも勤勉で、本当に意見が欲しい時にだけやって来る。コウヤとしても、料理の話は好きなので、時間があればいつでもと受け付けていた。
そうして出されたのは、コウヤがレシピ提供していたフレンチトーストをメインとしたものだった。
甘さも適度で、硬めとフワフワの柔らかいものの好き嫌いの意見が分かれるというのを聞いていた料理長は、先にどちらも試してもらえるようにと小さく用意し、その後、選んでもらうということにしたらしい。
コウヤはフレンチトーストは少し硬めが好きだ。
「んっ、美味しいっ。それに、固さの違う二種類を作るなんて、贅沢ですね。どちらも美味しいですし、違いがはっきりしていて楽しいです」
「っ、ありがとうございます!! 今日のご昼食もご期待ください!!」
「ええ。楽しみにしてます」
「はい!!」
ウキウキ、ワクワク、キラキラとした様子で、料理長は部屋を出て行った。
ここからは、ゆったりとした時間が流れる。だが、そのままのんびりはしていられない。
食事を終え、落ち着いたジルファスが口を開く。
「すまないが、しばらくはコウヤはこの城の中に居て欲しいんだ」
「時間があれば、学園の工事の様子を見に行こうと思っていたんですけど?」
もうじきに学園は完成となるはずなのだ。最終確認もコウヤは立ち会うことになっている。最初よりも、多くの者が手伝ってくれているならば、その日は確実に早くなるだろう。
これに、ジルファスが困ったように眉根を寄せる。
「ほら、コウヤは有名になり過ぎた。だから、せめて護衛を確実に付けたいんだ」
「護衛……ああ、近衛騎士ですか」
コウヤの近衛騎士がまだ決まっていなかった。
「そうだ。明日、コウヤの近衛騎士の選抜戦を行う予定だ」
「……選抜戦?」
そんなものがあるのかと、コウヤは大きく首を傾げた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
それもこれも、ここ数日の密度が濃すぎたせいだろう。
コウヤは笑顔でこちらに顔を向けた一同に挨拶する。
「おはようございます」
「「「「「っ、おはようっ」」」」」
大人組は、コウヤの王子様らしい姿に感動気味に挨拶を返す。
一方、弟のリルファムと伯父のシンリームは、久しぶりに会えたと嬉しそうに返した。
「おはようございますっ、コウヤにいさまっ。あいたかったですっ」
「おはよう、コウヤくんっ。お疲れ様」
「ありがとうございます。シン様。リルも久し振りだね」
「はいっ。えへへ、にいさまぁ」
コウヤが近付くと、リルファムは椅子から降りて嬉しそうに抱き着いた。
そんなリルファムの頭を撫でていれば、ジルファスが歩み寄って来る。その顔には、少し羨ましげなものも見える。
「コウヤ。ちゃんと休めたかい? その……大変だったよね」
「いえ。大変というよりは、楽しかったですよ。大きな怪我人も出ることなく終えられて、今は少しほっとしていますけど」
「そうか……いや、コウヤが戦ってるのも見たよっ。それと……王子としてのお披露目前に、かなり民達や他国の者にも人気が……」
だんだんと肩を落としていくジルファス。これに追従するのがイスリナだった。
「そうよっ。コウヤさんっ。前々から、この王都では『可愛くて有能な子どものギルド職員がいる』って話題になってたのよ?」
「そうなんですか?」
そうだったのかとコウヤがキョロキョロと周りを見回して確認すると、ジルファスも少しなぜか泣きそうな顔で頷くし、ミラルファとアルキスも重々しく頷く。アビリス王は苦笑気味に同意していた。
「そうですっ! それが、あんな大々的に顔を見せちゃってっ。『コウヤ君カワイイっ』とか、『あの子が居るなら、冒険者になるっ』とか毎日聞きましたよ」
「毎日……」
そんなにかとコウヤは目を瞬かせる。
次にジルファスが引き継いで苦言らしきものを続ける。
「コウヤが拡張工事や学園の建設工事の現場にも顔を見せてたのを、住民達は知ってるから、是非手伝いたいという人も増えてるんだ……そのお陰で、工事がドラム組が居なくてもよく進んでるよ……」
「そうなんですかっ。良かったですっ」
「……うん……まあね……コウヤに『会いたいから』じゃなくて『少しでも手伝いたいから』って理由だから、受け入れてるけど……ちょっと不安だよ……」
『あんな可愛い子が頑張ってるんだから、自分たちも!』というのが、コウヤを知った者たちの総意で、決して下心があるわけではない。それは良かったのだが、ジルファス達としては、複雑な気持ちだ。
もちろん、中にはお近付きになりたいと言う者も居るが、節度は守ってくれそうだということだ。当然だが、悪い方に向かった場合は、夜陰に乗じて神官達が動くので居なかったことになるだろう。
そんな不安もあるということだ。
ミラルファが笑いながら近付いてくる。
「ふふふっ。人気になるのも問題ねえ。さあ、話も尽きないもの。続きは、食事をいただきながらにしましょう」
「はい。久し振りのお城のご飯、楽しみです」
そうコウヤが告げれば、控えていた料理長が背筋を伸ばして答える。
「はっ! コウヤ様のお口に合えばと思っております。是非、忌憚ない意見もお聞かせください!」
「そんな……いえ、では、後で新しいレシピ本もお渡ししますね」
「っ、ありがとうございます!!」
ちょっと暑苦しくなった料理長は、それでも勤勉で、本当に意見が欲しい時にだけやって来る。コウヤとしても、料理の話は好きなので、時間があればいつでもと受け付けていた。
そうして出されたのは、コウヤがレシピ提供していたフレンチトーストをメインとしたものだった。
甘さも適度で、硬めとフワフワの柔らかいものの好き嫌いの意見が分かれるというのを聞いていた料理長は、先にどちらも試してもらえるようにと小さく用意し、その後、選んでもらうということにしたらしい。
コウヤはフレンチトーストは少し硬めが好きだ。
「んっ、美味しいっ。それに、固さの違う二種類を作るなんて、贅沢ですね。どちらも美味しいですし、違いがはっきりしていて楽しいです」
「っ、ありがとうございます!! 今日のご昼食もご期待ください!!」
「ええ。楽しみにしてます」
「はい!!」
ウキウキ、ワクワク、キラキラとした様子で、料理長は部屋を出て行った。
ここからは、ゆったりとした時間が流れる。だが、そのままのんびりはしていられない。
食事を終え、落ち着いたジルファスが口を開く。
「すまないが、しばらくはコウヤはこの城の中に居て欲しいんだ」
「時間があれば、学園の工事の様子を見に行こうと思っていたんですけど?」
もうじきに学園は完成となるはずなのだ。最終確認もコウヤは立ち会うことになっている。最初よりも、多くの者が手伝ってくれているならば、その日は確実に早くなるだろう。
これに、ジルファスが困ったように眉根を寄せる。
「ほら、コウヤは有名になり過ぎた。だから、せめて護衛を確実に付けたいんだ」
「護衛……ああ、近衛騎士ですか」
コウヤの近衛騎士がまだ決まっていなかった。
「そうだ。明日、コウヤの近衛騎士の選抜戦を行う予定だ」
「……選抜戦?」
そんなものがあるのかと、コウヤは大きく首を傾げた。
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読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
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