371 / 475
第十二章
476 団体で動くのが……
しおりを挟む
王子であったフレスタとディスタには以前、コウヤの侍従となることを提案したが、迷宮化のための遠征に出る前には、国に戻りたいならば構わないと伝えていた。
二人は、後ろ盾を失くし、敵対派閥の者達の策略にかけられ、国から追い出されて来た。表向きは、この国に助けを求めるためだったが、国を出た時点で命を狙われ、王子としての立場も取り上げられていたのだ。
しかし、彼らが国を出ることになった原因、神教会の企みであった、王やその関係者にかけられた呪いのような病は、この国の薬師達により薬が作られ、確実に快方に向かっている。
その彼らが元気になれば、二人も国に戻ることが叶うだろう。だから、それならばそれで構わないと伝えたのだ。
だが、二人はそれをきっぱりと断った。戻ったとしても、敵対派閥に狙われる事は変わらないし、守りたいと思う者ももう、国元にはなかった。それよりも、この国で与えられるものがあるならば、そちらが良いと思ったようだ。
そして、コウヤの侍従になるべく、この国に残って勉強していたというわけだ。
「久し振りですね。フレスタ、ディスタ」
「「はいっ。お帰りなさいませ!」」
二人は、この国に来た頃とは別人のように、晴れやかな笑顔を見せるようになっていた。
「何か困った事はありませんでしたか?」
自分たちの国で暮らして来た生活とは、全く違うだろう。身内も近くに居らず、不安もあるのではないかとコウヤは心配していた。
「特にありません。何より、私たちが困る前に、色々と周りの方が助けてくださいますので」
「どちらかと言うと、こんなに親切にしてもらっていいのかという方に戸惑っています」
彼らは、国ではとても肩身の狭い思いをしていたため、この国での生活がとても楽に感じていた。
そんな二人に、コウヤはクスクスと笑った。
「それは慣れてください」
「頑張ります……」
「努力します……」
「大丈夫ですよ。自然に慣れますから。もう数ヶ月もすれば、同じように誰かに親切に出来るようになってるかもしれませんね」
「「っ、はい!」」
その返事からは、そうなれたら良いなという、二人の気持ちが伝わってきた。
そして、ふとその後ろにいたニールの様子が気になった。
「ん? どうしました? ニール」
「っ、いえ……今日のお召し物、大変よくお似合いです」
「あ……そう? なんか、今までで一番派手な感じがするんだけど」
「お似合いですよ」
物凄く満足そうに頷かれた。その周りも一緒にだ。コウヤの後ろでは、いつの間にか起きていたパックンやダンゴも、テンキもベッドの上で並んで頷いている。
「……着慣れないなあ……」
この場で、納得出来ないのはコウヤだけだった。
ニールは咳払いをした後、和かに告げる。
「じきに、朝食の用意も整います」
「そうだね……じゃあ行こうか。今日の予定を歩きながら聞かせてもらえる?」
「かしこまりました。では」
「うん」
そうして、コウヤが一歩踏み出すと、パックン、ダンゴ、テンキが人化してその後を追う。
コウヤの斜め後ろにニール。その後ろにフレスタ、ディスタ。その更に後ろに人化したパックン達が並び、キルヤ達メイドも後を追う。
これに、本来ならば護衛の近衛騎士が前と後ろを挟む形になるのだが、聖魔教の神官が鍛えた暗部もいることもあり、城の中はそれほどガチガチに護衛を固める必要がないということになっていた。
コウヤは、ふと後ろの気配を感じ取り、クスリと笑った。
「どうかなさいましたか?」
ニールが気になったようだ。これに、コウヤはクスクスと笑いながら説明する。
「こうやって団体で動くのが……まるで病院の回診行列みたいで」
「かいしん?」
「ううん。気にしないで。ちょっと楽しかっただけだから。それより、ニールはこっちに来ちゃって良かったの?」
本来、ニールはまだ宰相の補佐官の一人としてあるはず。既に、コウヤの元に来る事は決まっていたが、まだ補佐官の方の補充が間に合っていないらしいのだ。
だから、ニールがこちらに来るのは、まだ少し先になるはずだった。
「こちらで休みを取る前に、私の方で候補を挙げ、伝えられる仕事は教えておいたのです。試験期間も終わり、無事に引き継ぎをして参りました。今日より、正式にコウヤ様付きになります」
ニールは、休みを取り、迷宮討伐に参加する前には、既に自分で後任候補を挙げ、宰相に試験期間として預けていたらしい。
討伐を終えて帰って来た昨日、そのまま使えるとの答えを宰相にもらい、今日、めでたく補佐官の任から下りることができたというわけだ。
時間を無駄にしない見事な作戦だった。ニールらしいと言える。
「制服が間に合っておりませんが、お側に居ることには変わりませんので」
「そうなんだ……ベルナディオ宰相が困ってないなら良かった。これからよろしくね」
「もちろんです」
引き継ぎまできちんと済ませて来たならと、コウヤもほっとしていた。コウヤが気にすると分かっているから、ニールも先手を打ったのだ。
今日の予定を聞きながら、辿り着いた部屋。そこには、王族が全員集まっていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回は30日です。
よろしくお願いします◎
二人は、後ろ盾を失くし、敵対派閥の者達の策略にかけられ、国から追い出されて来た。表向きは、この国に助けを求めるためだったが、国を出た時点で命を狙われ、王子としての立場も取り上げられていたのだ。
しかし、彼らが国を出ることになった原因、神教会の企みであった、王やその関係者にかけられた呪いのような病は、この国の薬師達により薬が作られ、確実に快方に向かっている。
その彼らが元気になれば、二人も国に戻ることが叶うだろう。だから、それならばそれで構わないと伝えたのだ。
だが、二人はそれをきっぱりと断った。戻ったとしても、敵対派閥に狙われる事は変わらないし、守りたいと思う者ももう、国元にはなかった。それよりも、この国で与えられるものがあるならば、そちらが良いと思ったようだ。
そして、コウヤの侍従になるべく、この国に残って勉強していたというわけだ。
「久し振りですね。フレスタ、ディスタ」
「「はいっ。お帰りなさいませ!」」
二人は、この国に来た頃とは別人のように、晴れやかな笑顔を見せるようになっていた。
「何か困った事はありませんでしたか?」
自分たちの国で暮らして来た生活とは、全く違うだろう。身内も近くに居らず、不安もあるのではないかとコウヤは心配していた。
「特にありません。何より、私たちが困る前に、色々と周りの方が助けてくださいますので」
「どちらかと言うと、こんなに親切にしてもらっていいのかという方に戸惑っています」
彼らは、国ではとても肩身の狭い思いをしていたため、この国での生活がとても楽に感じていた。
そんな二人に、コウヤはクスクスと笑った。
「それは慣れてください」
「頑張ります……」
「努力します……」
「大丈夫ですよ。自然に慣れますから。もう数ヶ月もすれば、同じように誰かに親切に出来るようになってるかもしれませんね」
「「っ、はい!」」
その返事からは、そうなれたら良いなという、二人の気持ちが伝わってきた。
そして、ふとその後ろにいたニールの様子が気になった。
「ん? どうしました? ニール」
「っ、いえ……今日のお召し物、大変よくお似合いです」
「あ……そう? なんか、今までで一番派手な感じがするんだけど」
「お似合いですよ」
物凄く満足そうに頷かれた。その周りも一緒にだ。コウヤの後ろでは、いつの間にか起きていたパックンやダンゴも、テンキもベッドの上で並んで頷いている。
「……着慣れないなあ……」
この場で、納得出来ないのはコウヤだけだった。
ニールは咳払いをした後、和かに告げる。
「じきに、朝食の用意も整います」
「そうだね……じゃあ行こうか。今日の予定を歩きながら聞かせてもらえる?」
「かしこまりました。では」
「うん」
そうして、コウヤが一歩踏み出すと、パックン、ダンゴ、テンキが人化してその後を追う。
コウヤの斜め後ろにニール。その後ろにフレスタ、ディスタ。その更に後ろに人化したパックン達が並び、キルヤ達メイドも後を追う。
これに、本来ならば護衛の近衛騎士が前と後ろを挟む形になるのだが、聖魔教の神官が鍛えた暗部もいることもあり、城の中はそれほどガチガチに護衛を固める必要がないということになっていた。
コウヤは、ふと後ろの気配を感じ取り、クスリと笑った。
「どうかなさいましたか?」
ニールが気になったようだ。これに、コウヤはクスクスと笑いながら説明する。
「こうやって団体で動くのが……まるで病院の回診行列みたいで」
「かいしん?」
「ううん。気にしないで。ちょっと楽しかっただけだから。それより、ニールはこっちに来ちゃって良かったの?」
本来、ニールはまだ宰相の補佐官の一人としてあるはず。既に、コウヤの元に来る事は決まっていたが、まだ補佐官の方の補充が間に合っていないらしいのだ。
だから、ニールがこちらに来るのは、まだ少し先になるはずだった。
「こちらで休みを取る前に、私の方で候補を挙げ、伝えられる仕事は教えておいたのです。試験期間も終わり、無事に引き継ぎをして参りました。今日より、正式にコウヤ様付きになります」
ニールは、休みを取り、迷宮討伐に参加する前には、既に自分で後任候補を挙げ、宰相に試験期間として預けていたらしい。
討伐を終えて帰って来た昨日、そのまま使えるとの答えを宰相にもらい、今日、めでたく補佐官の任から下りることができたというわけだ。
時間を無駄にしない見事な作戦だった。ニールらしいと言える。
「制服が間に合っておりませんが、お側に居ることには変わりませんので」
「そうなんだ……ベルナディオ宰相が困ってないなら良かった。これからよろしくね」
「もちろんです」
引き継ぎまできちんと済ませて来たならと、コウヤもほっとしていた。コウヤが気にすると分かっているから、ニールも先手を打ったのだ。
今日の予定を聞きながら、辿り着いた部屋。そこには、王族が全員集まっていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回は30日です。
よろしくお願いします◎
263
お気に入りに追加
11,119
あなたにおすすめの小説


【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。