元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十一章

435 ご心配なく!

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ユキは、相当キレているようで、転がっていった壮年の男の所まで肩を怒らせ、足を踏み鳴らしながら歩いていく。

そして、男の頭というか、髪を引っ掴んで持ち上げた。その様子に、コウヤは目を輝かせて感心する。

「すごいっ。あんなに無駄のない身体強化、ばばさま達以外で初めて見た……魔力の流れがとっても綺麗っ」

煌めく笑顔で、明らかに暴力的な場面に感動するコウヤ。これにジンクは苦笑いを浮かべる。

「あ、うん……さ、さすが、目の付け所が違うなあ……」
《すごい形相で殴り殺そうとしてますけどね……》

ユキは、引き上げた反対の手を握り、容赦なく顔を殴りつけていた。子どもが見てはいけない場面だ。

しかし、幸いなことに、コウヤはユキの身体強化の様子に目が行っており、行動は気にしていなかった。例え、その拳が赤く染まりだしていたとしても、男の顔がボロボロになっていたとしても、そちらには意識が向いていない。

これに気付いたジンクが、ゆっくりとコウヤの前に移動し、その場面を隠した。

「ん? どうしたんです? ジンクおじさん」
「いやなに……その……っ、俺の身体強化も見て欲しいな~って! ほら、どう? 部分強化もこう!」
「わあっ。そっか、彫刻する時には、部分的に強化した方が効率がいいもんねっ」

思考がそれに囚われたことで、ユキが完全に気絶した男を投げ捨てたところも見ていない。その上に、ユキはテンキがさり気なく差し出した白い布を受け取り、倒れた男のボロボロになった顔に被せて満足げに頷いたのも見ていない。

ユキは、今更ながらにコウヤや憧れのジンクの前でやらかしたことに気付いた。気付いてから、見えなければ問題ないと判断した。

ユキは表情を整えながら、手に付いた汚れを、優雅に取り出したハンカチで拭う。髪の乱れも直して咳払いを一つ。

テンキがその間、密かに男の顔を隠す布が風で飛ばないように、布の四つ端に石を置いたのにも、コウヤは気付いていない。

ユキが戻ってきた。

「お待たせいたしました」
「あ、はい。あれ? えっと……」

コウヤは確認した。顔に白い布を被せられ、地面に横たわる男の姿を。ユキとジンクの間の肩口から覗くようにして見る。

「……生きてますよね?」

テンキが重力操作で、男の手を重ねて腹の上に置いていた。完璧に弔っている様子だ。だが、生きている。テンキが早い段階で死なないよう呪いをかけていた。

「はい♪  ここの者たちは軟弱ですから、日除けの布をテンキ様にいただきましたので、あの様に……ご心配なく!」
「……うん?」

コウヤは雲で隠れた太陽をチラリと確認する。そのまま目線を下げてユキの笑顔を見ると、頷いた。同意しなくてはならない雰囲気だったのだ。こういう笑みを浮かべる時のばばさま達には、逆らわない。これをユキにも適応した。

ジンクとテンキは、ヒソヒソと語り合う。

「はあ……まさかユキが、ベニちゃん達みたいなことするとは……」
《あれは相当、頭にキてましたね。咄嗟に命の保護をしてしまいましたよ……》

テンキはユキが拳を握った所でヤバいと思い、慌てて死なない呪いをかけたのだ。お陰で彼は生きている。ユキはすっかり男が弱体化していることを忘れていたのだ。

「ベニちゃんはね~、拳を握っちゃうと殺しちゃいそうだからって、ああいう時は平手打ちにするんだ。それはそれは、見事な往復ビンタの嵐をね」
《往復ビンタは、かなり力が要りますよ。あれは難しい……》

人化できるようになって、テンキはそれを知った。

「……やったことあるんだ……」
《ええ。それこそ、主様が褒めるほどの美しい身体強化をしないと無理でしょうね》
「……なるほど……」

テンキも着目するところがコウヤに似て少し普通とは違うようだ。

ここでようやく落ち着いた。

「さて……では、先程愚かにもアレが言った言葉に同意した者はどなたかしら?」
「「「「「っ!!」」」」」

ユキは首を少し傾げながら、般若の形相で同胞達に詰め寄って行った。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。

お知らせです!
第四巻の発売が決定しました。
ただ……残念なお知らせもあります。
この四巻をもって書籍化は完結ということになりました。
力及ばず申し訳ありません。
せめてユースールの人たちが活躍するスタンピードまではいきたかったのですが残念です。

書籍化は終わってしまいましたがこちらはまだまだ続きます!
これからもよろしくお願いします!
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