330 / 497
第十一章
435 ご心配なく!
しおりを挟む
ユキは、相当キレているようで、転がっていった壮年の男の所まで肩を怒らせ、足を踏み鳴らしながら歩いていく。
そして、男の頭というか、髪を引っ掴んで持ち上げた。その様子に、コウヤは目を輝かせて感心する。
「すごいっ。あんなに無駄のない身体強化、ばばさま達以外で初めて見た……魔力の流れがとっても綺麗っ」
煌めく笑顔で、明らかに暴力的な場面に感動するコウヤ。これにジンクは苦笑いを浮かべる。
「あ、うん……さ、さすが、目の付け所が違うなあ……」
《すごい形相で殴り殺そうとしてますけどね……》
ユキは、引き上げた反対の手を握り、容赦なく顔を殴りつけていた。子どもが見てはいけない場面だ。
しかし、幸いなことに、コウヤはユキの身体強化の様子に目が行っており、行動は気にしていなかった。例え、その拳が赤く染まりだしていたとしても、男の顔がボロボロになっていたとしても、そちらには意識が向いていない。
これに気付いたジンクが、ゆっくりとコウヤの前に移動し、その場面を隠した。
「ん? どうしたんです? ジンクおじさん」
「いやなに……その……っ、俺の身体強化も見て欲しいな~って! ほら、どう? 部分強化もこう!」
「わあっ。そっか、彫刻する時には、部分的に強化した方が効率がいいもんねっ」
思考がそれに囚われたことで、ユキが完全に気絶した男を投げ捨てたところも見ていない。その上に、ユキはテンキがさり気なく差し出した白い布を受け取り、倒れた男のボロボロになった顔に被せて満足げに頷いたのも見ていない。
ユキは、今更ながらにコウヤや憧れのジンクの前でやらかしたことに気付いた。気付いてから、見えなければ問題ないと判断した。
ユキは表情を整えながら、手に付いた汚れを、優雅に取り出したハンカチで拭う。髪の乱れも直して咳払いを一つ。
テンキがその間、密かに男の顔を隠す布が風で飛ばないように、布の四つ端に石を置いたのにも、コウヤは気付いていない。
ユキが戻ってきた。
「お待たせいたしました」
「あ、はい。あれ? えっと……」
コウヤは確認した。顔に白い布を被せられ、地面に横たわる男の姿を。ユキとジンクの間の肩口から覗くようにして見る。
「……生きてますよね?」
テンキが重力操作で、男の手を重ねて腹の上に置いていた。完璧に弔っている様子だ。だが、生きている。テンキが早い段階で死なないよう呪いをかけていた。
「はい♪ ここの者たちは軟弱ですから、日除けの布をテンキ様にいただきましたので、あの様に……ご心配なく!」
「……うん?」
コウヤは雲で隠れた太陽をチラリと確認する。そのまま目線を下げてユキの笑顔を見ると、頷いた。同意しなくてはならない雰囲気だったのだ。こういう笑みを浮かべる時のばばさま達には、逆らわない。これをユキにも適応した。
ジンクとテンキは、ヒソヒソと語り合う。
「はあ……まさかユキが、ベニちゃん達みたいなことするとは……」
《あれは相当、頭にキてましたね。咄嗟に命の保護をしてしまいましたよ……》
テンキはユキが拳を握った所でヤバいと思い、慌てて死なない呪いをかけたのだ。お陰で彼は生きている。ユキはすっかり男が弱体化していることを忘れていたのだ。
「ベニちゃんはね~、拳を握っちゃうと殺しちゃいそうだからって、ああいう時は平手打ちにするんだ。それはそれは、見事な往復ビンタの嵐をね」
《往復ビンタは、かなり力が要りますよ。あれは難しい……》
人化できるようになって、テンキはそれを知った。
「……やったことあるんだ……」
《ええ。それこそ、主様が褒めるほどの美しい身体強化をしないと無理でしょうね》
「……なるほど……」
テンキも着目するところがコウヤに似て少し普通とは違うようだ。
ここでようやく落ち着いた。
「さて……では、先程愚かにもアレが言った言葉に同意した者はどなたかしら?」
「「「「「っ!!」」」」」
ユキは首を少し傾げながら、般若の形相で同胞達に詰め寄って行った。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
お知らせです!
第四巻の発売が決定しました。
ただ……残念なお知らせもあります。
この四巻をもって書籍化は完結ということになりました。
力及ばず申し訳ありません。
せめてユースールの人たちが活躍するスタンピードまではいきたかったのですが残念です。
書籍化は終わってしまいましたがこちらはまだまだ続きます!
これからもよろしくお願いします!
そして、男の頭というか、髪を引っ掴んで持ち上げた。その様子に、コウヤは目を輝かせて感心する。
「すごいっ。あんなに無駄のない身体強化、ばばさま達以外で初めて見た……魔力の流れがとっても綺麗っ」
煌めく笑顔で、明らかに暴力的な場面に感動するコウヤ。これにジンクは苦笑いを浮かべる。
「あ、うん……さ、さすが、目の付け所が違うなあ……」
《すごい形相で殴り殺そうとしてますけどね……》
ユキは、引き上げた反対の手を握り、容赦なく顔を殴りつけていた。子どもが見てはいけない場面だ。
しかし、幸いなことに、コウヤはユキの身体強化の様子に目が行っており、行動は気にしていなかった。例え、その拳が赤く染まりだしていたとしても、男の顔がボロボロになっていたとしても、そちらには意識が向いていない。
これに気付いたジンクが、ゆっくりとコウヤの前に移動し、その場面を隠した。
「ん? どうしたんです? ジンクおじさん」
「いやなに……その……っ、俺の身体強化も見て欲しいな~って! ほら、どう? 部分強化もこう!」
「わあっ。そっか、彫刻する時には、部分的に強化した方が効率がいいもんねっ」
思考がそれに囚われたことで、ユキが完全に気絶した男を投げ捨てたところも見ていない。その上に、ユキはテンキがさり気なく差し出した白い布を受け取り、倒れた男のボロボロになった顔に被せて満足げに頷いたのも見ていない。
ユキは、今更ながらにコウヤや憧れのジンクの前でやらかしたことに気付いた。気付いてから、見えなければ問題ないと判断した。
ユキは表情を整えながら、手に付いた汚れを、優雅に取り出したハンカチで拭う。髪の乱れも直して咳払いを一つ。
テンキがその間、密かに男の顔を隠す布が風で飛ばないように、布の四つ端に石を置いたのにも、コウヤは気付いていない。
ユキが戻ってきた。
「お待たせいたしました」
「あ、はい。あれ? えっと……」
コウヤは確認した。顔に白い布を被せられ、地面に横たわる男の姿を。ユキとジンクの間の肩口から覗くようにして見る。
「……生きてますよね?」
テンキが重力操作で、男の手を重ねて腹の上に置いていた。完璧に弔っている様子だ。だが、生きている。テンキが早い段階で死なないよう呪いをかけていた。
「はい♪ ここの者たちは軟弱ですから、日除けの布をテンキ様にいただきましたので、あの様に……ご心配なく!」
「……うん?」
コウヤは雲で隠れた太陽をチラリと確認する。そのまま目線を下げてユキの笑顔を見ると、頷いた。同意しなくてはならない雰囲気だったのだ。こういう笑みを浮かべる時のばばさま達には、逆らわない。これをユキにも適応した。
ジンクとテンキは、ヒソヒソと語り合う。
「はあ……まさかユキが、ベニちゃん達みたいなことするとは……」
《あれは相当、頭にキてましたね。咄嗟に命の保護をしてしまいましたよ……》
テンキはユキが拳を握った所でヤバいと思い、慌てて死なない呪いをかけたのだ。お陰で彼は生きている。ユキはすっかり男が弱体化していることを忘れていたのだ。
「ベニちゃんはね~、拳を握っちゃうと殺しちゃいそうだからって、ああいう時は平手打ちにするんだ。それはそれは、見事な往復ビンタの嵐をね」
《往復ビンタは、かなり力が要りますよ。あれは難しい……》
人化できるようになって、テンキはそれを知った。
「……やったことあるんだ……」
《ええ。それこそ、主様が褒めるほどの美しい身体強化をしないと無理でしょうね》
「……なるほど……」
テンキも着目するところがコウヤに似て少し普通とは違うようだ。
ここでようやく落ち着いた。
「さて……では、先程愚かにもアレが言った言葉に同意した者はどなたかしら?」
「「「「「っ!!」」」」」
ユキは首を少し傾げながら、般若の形相で同胞達に詰め寄って行った。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
お知らせです!
第四巻の発売が決定しました。
ただ……残念なお知らせもあります。
この四巻をもって書籍化は完結ということになりました。
力及ばず申し訳ありません。
せめてユースールの人たちが活躍するスタンピードまではいきたかったのですが残念です。
書籍化は終わってしまいましたがこちらはまだまだ続きます!
これからもよろしくお願いします!
378
あなたにおすすめの小説
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】
キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。
それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。
もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。
そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。
普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。
マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。
彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。