元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十章

395 緊急事案ですしね

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コウヤはトルヴァランの端を指差しながら説明する。

「この辺り、もう森ではなくなっています。ここと、ここにあった村も呑み込まれ、住民は散り散りになっているようです。噂では、突然作物が枯れて魔獣達が現れるようになったと……呪われたのだと言われていたそうです」
「その報告は……」

これに首を横に振る。

「報告としては、どこにも上がっていませんでした」

冒険者ギルドにも、噂程度の情報しかなかったのだ。

「仮に、魔獣の被害を訴えようとしたところで、この規模の村だと費用を気にして依頼をしません。冒険者に頼むのはお金がかかりますし、町からはかなり距離がありますので、領主への報告も遠慮したのではないかと」
「……そうか……」

小さな村は、見捨てられることが多い。特に特産があるわけでなければ、住めなくなるなら、町へ来いという考え方だ。その方が、兵達も居り、守りやすい。

領主によっては、問題があっても派兵することを渋った可能性もある。過去にそういったことがあったのかもしれない。

「以前から若い人たちは、かなり町の方へ出て来ていたようですから、村人も少なかったのだと思います。確かな話を聞くため現在、町に移り住んだはずの村人達を探してもらっています」

村を出て、冒険者になっていた者はすぐに見つかったため、彼らに住民を探してもらっている。残念ながら、冒険者になった若者達は、村の異変が出る前に出ていたらしく、情報を持っていなかったのだ。

「同じように他国にも、かなり侵食された所がありました。これらを解決するためには、多くの冒険者の投入が不可欠です」
「なるほど……支援か」
「はい。見てお分かりのように、この一つの里だけでここまで広がっています。これに対応する冒険者の数を試算したとしても、間違いなく一つの迷宮が集団暴走スタンピードする時の比ではないです。大陸中の冒険者が、一丸となる必要があります」

トルヴァランに掛かる迷宮化の範囲を見ても、国三つに関係がある。そして、大小あるが、迷宮化している場所は大陸に四箇所あるのだ。

ここで、タリスが引き継ぐ。

「この国は、王族も冒険者をしておられる。理解が最も早いと判断した上で、ご相談に伺ったということです。ご理解いただけますかな」

他の国にこれを持って行った所で、事実確認やら、前例がどうのと、決定するまでに何ヶ月もかける可能性があった。

まだ現状では、貴族達に被害はない。自分たちの身に降り掛からないなら、後でとする傾向が予想される以上、そちらへ割く時間を考えると、ギルドとしてもそんな国は後回しだ。

アビリス王もそれらを察したのだろう。ベルナディオと目を合わせ、頷き合って答える。

「賛同した国があるという前例を作りたいのだな」

タリスが重く頷いた。

「ええ。時間をかけることはできません。先駆けた答えがあれば、いくら鈍い国でも動くでしょう。それが……他国も交えた場所ならなおのこと」
「あ、まさか……」

ここで、ジルファスが、タリスとコウヤの顔を見て、それに思い至る。

「国際会議をすぐにでもと……?」

神教国の問題で集めようとしていた各国の代表会議。それを今回の件で強行しようというのだ。

「そうです。もうやってしまえばいいのではないかと」
「それも、神様監督の下でね♪」
「「「っ!!」」」

アビリス王、ジルファス、ベルナディオは、目を丸くする。近々、そのうちと考えていたそれを、今すぐにでも強行しそうな様子に思えたのだ。それは間違っていなかった。

「会議の場所も完成しました。実は、既にこの国の上空にいます」
「え!  それ、それは、ゼスト様が造られているという……」
「はい。試験航行で」

コウヤは上を指差して笑う。一方、タリスは少し声を抑え気味にアビリス王達へそれを見た感想を言う。

「すっごいよ。さすがゼスト様って感じ。空飛ぶ城とか……びっくり」
「……っ」

事情を知るアビリス王達はゴクリと唾を呑んだ。緊張した様子の彼らなど気にしていないコウヤは、呑気にそれを口にする。

「大陸にある全ての国王は参加必須です。それぞれの国のこういった会議室用に、会議の様子はモニターするということで……抵抗するのは拉致っちゃっていいですよね?」
「「「え……」」」

会議を強行するというのは分かったが、アビリス王達は、そこまで強行するとは思っていなかった。戸惑う三人を確認することなく、コウヤは、なおも続ける。

「というか、もう、それぞれの国所属の暗部の人たちからもOKもらっているんです。ちょっと南の方の遠い所の暗部の方達は、来られていないので分かりませんけど、北半分は暗部の人たちの協力も得られました。南半分は、神官さん達でどうにかできるということで」
「……」

自国の暗部が買収されていると知ったら、相当衝撃があるだろうなと、アビリス王達は少し気の毒に思いながらも、目を逸らす。

良いアイデアでしょうと、コウヤの自信満々の煌めく笑みも直視出来なかった。

「緊急の案件ですし、明日にでも決行します。一応、これから、それぞれの国に警こっ……報告することになってます」
「警こっ……そ、そうか……宰相、明日一日空けるように、調整を」
「……はい。緊急事案ですしね……」

ベルナディオも納得した。そして、きちんと知るべきことも確認してくる。

「その……コウヤ様、何人までよろしいですか?」
「王と宰相、それと補佐として二、三人。五人までですね。武力は必要ないので、騎士は無しです」

人数も制限しないと、際限なく連れて来そうだ。それでは困る。

「まあ、あれだよね~。神様の前で剣抜くとか、絶対ダメだしね~」
「リクト兄がいるから、問題ないけど」
「いやいや、ダメでしょ」
「「「……」」」

絶対ダメだと、アビリス王達も首を横に振っていた。

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読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎

三巻発売については近況報告にて♪
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