元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十章

387 素質あり?

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ジェットイーグルの驚いたような表情に少し笑いながら、コウヤはゆったりとした足取りで近づき、状態を確認した。

「怪我は……ちゃんと治ってるみたいだね。けど……魔力の巡りがおかしいかな。変な感じする?」
《……キュビ……》

手で触れられるくらいの距離に近付いても、ジェットイーグルは警戒を解いたまま、コウヤと目を合わせて会話する。

敵にはなり得ないと理解している証拠だろう。

「そっか。なら、ちょっと待ってね。そのままだと飛ぶのも安定しないもんね?」
《っ、キュビー》

わかるのかと、少し身を乗り出すジェットイーグル。それに返事をしながら、コウヤは亜空間から調薬に使う鉢などを取り出す。

「うん。わかるよ」
《キュビー……》
「食事はできてる?」
《……キュビー……》

満足に食べれてはいないようだ。この木に居るのは、僅かに上の方に生る実を食べるためだろう。

「そこの木の実しか食べてないんだね。なら、食事が先かな。その間に薬の調合しちゃうね。シュン君、手伝ってくれる? このお肉を細かく切ってほしいんだ。あ、あと、その上にいる子達の分も出すね」
《キュビー!》

気付いていたのかとジェットイーグルが少し警戒した。

「ごめん。危害は加えないよ。まだ子どもなんだね」
《キュビー……》

木を見上げる。その上の方に、何匹かいるのを感じていた。

「あ、やっぱり上の方にいるよね? コウヤお兄ちゃん、その上にいるのはその鳥さんの子どもなの?」

離れた場所で立ち止まったままになっていたフィトが木の上の方に目を向ける。彼女も、気配だけは気付いていたのだろう。不用意に近付かなかったのはそのせいだ。他の子ども達もそうだろう。

姿が見えるのは、コウヤが話しかけたジェットイーグルだけ。だが、確かに木の上の方に気配があったことに気付き、子ども達は警戒していたというわけだ。危機管理も出来ているなと、コウヤは内心満足げに頷く。

「同じ種類の子どもみたいだ。でもおかしいね? ジェットイーグルは托卵種で、子育てはしないって聞いたことあるけど」

これは、たまにコウヤにケルベロスなどの散歩の依頼なんかが来る、ベニ達の古い友人の魔獣研究者から聞いたことだ。

ジェットイーグルは、幼獣の間だけ持つ能力がある。それは、擬態だ。これにより、鳥類に限定はするが、他の種の巣へ託されて育てられる。雑食なので果物しか食べない特別な種でも可。だから、ジェットイーグルの幼獣は、まず見つからないらしい。

そのような生態であるのに、このジェットイーグルが幼獣を育てているのはおかしいと、コウヤは思ったのだ。

《キュビー》
「え、師弟制ってこと? 他の子の子どもなら良いの?」
《キュビー》

自分の子ではないなら、子育てもするらしい。ただし、才能ある子に限るという。

この世界は危険が多い。その中で、魔獣と呼ばれるものではない、ただの野鳥も存在する。そんな種への托卵もあるので、親が帰って来ない場合もある。その場合、自分の子でなければ弟子として育てることがあるというのだ。

「へえ~。でも……それにしては多いよね? 四匹?」
《キュビー……》
「ふふ。優しいんだ」
《キュ、キュビー……っ》
「良いと思うけど? 本来の君なら、何匹でも養う……ううん、弟子にするのに問題はないと思うしね。大丈夫。ちゃんと飛べるようにするよ」
《キュビー……》

このジェットイーグルは、特殊個体。他のジェットイーグルとも一線を画す存在。だから、寂しかったのもあるかもしれない。その寂しいと思う感覚さえ理解できてしまうほど賢かったのだ。

連れてきた弟子達は、まだ才能さえ感じられないほど幼い個体だったかもしれない。親が帰って来ないことで、このまま弱っていくだけの子どもを見つけ、見捨てることが出来なかったのだろう。

他のジェットイーグルならば、きっとそのまま見捨てる存在も、彼には無理だった。共感する心があったからだ。寂しい、辛い、悲しい。そんな感情を抱いてしまったのだろう。

コウヤは、その場で座り込み、調薬を始めた。スターバブルの精製水を使う魔力調整に効果のある薬を作らなくてはならないのだ。これは作り立てが一番良い。

いくらコウヤの亜空間やパックンの中なら時間経過を止められると言っても、これはなるべくその場で作るようにしている。とはいえ、気分的な問題が大半だ。

「ああ、そうだ。この辺は今外から魔獣や魔物が入って来ないようにしたから、子ども達も下ろしていいよ。あと、こっちの子ども達を紹介してもいいかな」
《キュビー》

小さく頷きも返ってきた。

「こっちの子がシュン。君との会話も出来るようになってる。シュン君、自己紹介しておいて」
「あ、はい。シュンです。よろしくお願いします」
《キュビー》
「う、うん……ケガが治ってよかったよ。それで、えっと……友達を紹介するね」
《キュビー》

そうして、フィト達を手招き、シュンは彼に友人達を紹介した。

《キュビー!》

それが終わると、ジェットイーグルは、木の上の方で隠れていた弟子達を呼び寄せる。

《ピっ》
《ピュ》
《キュ》
《ピュピー》

大きさも様々な幼獣達。そろそろ成体になる個体もいた。それぞれが頭を下げたりして、シュン達と挨拶交わす。シュンが通訳して話をしていたのだが、少しして、ヨクトが声を上げた。

「あっ、なんか……キタかも……っ、コウヤ兄! オレも『従魔術』出た!」
「え……」

その直後、フィトが手を上げる。

「わわっ、わたしもだ!」
「うわ~……」

コウヤは珍しく引いた。そこにジェットイーグルが伝えてくる。

《キュ、キュビー》
「えっ……分かるの? なんとなく?」
《キュビー》

彼は、なぜか従魔術の素質がある者を感じ取れるらしい。これは、どうやら危機感的な勘で、自分を従えることが可能な者をなるべく避けるためについた直感的なものらしい。

そして、その直感によれば、シュン以外の四人の子ども達全員がその素質ありとのこと。

「この子達全員? 素質あり?」
《キュビー!》
「そ、そう……」

この子ども達はどれだけ才能を持っているのだろう。少し怖くなったコウヤだ。だが、この際だと判断する。

「なら、いっそのこと、全員生やしちゃってくれる?」
《キュビー!》

意図的にやった事はないので、出来るかどうかは分からないが、やってみるとのことだった。

この数分後、子ども達は無事全員が『従魔術』のスキルを生やした。そして、その流れで、ジェットイーグルはシュンとの契約を願い出たのだ。

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三日空きます。
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