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第十章

386 一人前だな

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コウヤがまだギルド職員となる前。レンスフィート達がコウヤをお茶に誘いたいがために兵士達に探させた所から、幼い子ども達が面白がって一緒にコウヤを追いかけるようになったというのが鬼ごっこ遊びの始まりだ。

それが、そのまま兵士達の訓練になっていったという経緯から考えて分かるように、既に子ども達は索敵スキルも持っている。森の中も、実は護衛をつけなくても問題ない。

身体強化も熟練度は、まちまちだが、彼ら五人はスキルとして持っている。

ユースールの子ども達は自立心が強い。一人でもやっていけるように、常に考えて行動しようとする基礎が出来上がっているのだ。

それでも、大人たちを心配させないように、それを普段は抑えている。これは、コウヤの入れ知恵だ。

「そういえば、ヨクトくん。昨日、乱闘騒ぎに巻き込まれたんだって?」
「ちがうよ、コウヤお兄ちゃん。よっくんは、巻き込まれたんじゃなくて、巻き込まれに行ったの」

道具屋の娘のフィトが訂正する。

花屋の息子ヨクトは、体格も良くなってきているので、もうしばらくしたら冒険者ばりに森へ繰り出しても、親に殊更心配されるということもなくなるだろうと思っていた。

そんな中、他所から来た冒険者が店先で乱闘騒ぎを起こした所に割り込んだらしい。

「だって、店先にあった鉢植え、けち蹴散らかされたんだもんよ。頭にきて、投げ飛ばしてやったんだ」
「え~、ヨクト兄、ダメじゃない。わたしたちは、ナイショのヒーローになるのよ?」

ヨクトを批難するのは、細工師の所の娘。一番年少だからというのもあるが、コウヤの言ったことを素直に守る。

あまり目立ち過ぎると、逆に外の悪い大人たちに利用されかねない。だから、コウヤはこう言ったのだ。


『君たちは、この町の影のヒーローになってほしいな』


遊び心も入れた言葉だ。だが、いざという時に大人を助けられる。その方がずっとカッコいいでしょうと言い聞かせれば、五人は素直に受け取り、同意した。

「いや、まあ……ついな」
「もうっ、気をつけてよ?」
「はい……」

一番の年少の少女に注意を受ける見た目ガキ大将な男の子。ちょっと面白いと思ったのは内緒だ。

ずんずんとシュンを先頭にして森を進む。コウヤは改めて感心していた。それは、パックンやダンゴも同じだったようだ。

《正確な位置取り……( ゚д゚)》
《魔獣を綺麗に避けてるでしゅ……》
《中々やりおる……( ̄^ ̄)》
「うん。本当に……」

ここまで正確に把握しながら進めるものだろうかと、コウヤは驚かされた。子どもの成長は早いというが、これは本当にすごい成長振りだ。

「この辺の難しい薬草の判断や採取も出来るし……これで戦えたら、文句なくCランク査定かな……」
《一人前だな》
《一人前でしゅね……》

今更だが、コウヤはちょっと不安になってきた。ようやくここで少しだけ、自分がきっかけになった魔改造に気付いたのだ。だが、そこはコウヤだ。ポジティブに考える。

「まあ、ちょっと安心できるようになったってことだよね。うん。子どもの才能は伸ばしてこそだよ」
《……伸ばすより開花しまくってるけどね》
《将来の心配……の意味が変わってきそうでしゅ……》

何でもやっていける子にしたいと親は願うものだ。将来、困る事が少ないようにと、様々な道を時に無理やり示して見せる。だが、この子ども達は、既にその心配は無用。その代わり、出来過ぎて困りそうだ。将来への道が広がり過ぎた。

「家業があるし、大丈夫でしょ」
《主……次の代の心配もしてあげようよ……》
《出来る親を持った子は卑屈になりやすいでしゅよ》
「……人って難しいね……」
《ほどほどが一番 ( ̄ー ̄) 》
《何事も……でしゅね》
「……はい……」

ちょっと反省したコウヤだ。

それから数分。目的の場所に着いた。そこは、拓けた場所だった。その中央に、大きな木があり、自然に目を向ける。

そして、それと目が合った。

「うわ~……間違いなく特殊個体だ……」

コウヤには、一目で分かった。はっきりとした意思を持ち、長い年月を生きてきた者の気配があったのだ。

ジェットイーグルは、元々頭の良い個体だ。だが、それ以前に野生の本能も強い。強者と弱者の判断も早く正確だ。そんな中でも他の魔獣や魔物と違う所がある。それは、常に挑むという所だ。

正確に獲物の力量を測り、敵対する者が弱者ならば見逃し、強者ならば挑む。それは、ジェットイーグルという種族の矜持のようなもの。

そして、稀にこれを極め過ぎて、特殊個体となるものがある。種族の中での進化のようなものだ。これは遺伝するものではなく、個に与えられた恩恵のようなものだった。

ただし、それは良い事ばかりではない。そうした個体は、とても孤独になりやすいのだ。

コウヤはジェットイーグルと目を合わせたまま、一歩踏み出す。そして、当たり前のように和やかに笑って挨拶をした。

「こんにちは」
《っ……キュ……》

まさか、警戒するでもなく、戸惑うでもなく、普通に挨拶されるとは思わなかったのだろう。人のように、目を大きく見開いて、ジェットイーグルは驚いていた。

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