261 / 475
第九章
366 結界みたいな?
しおりを挟む
コウヤは、転移が使えることを知られないよう、念のために王都の教会からユースールの教会へ飛んだ。
するとそこで、今からどこかへ転移しようとする神官達を見送っているジザルスと出会した。
「これはコウヤ様。お帰りなさいませ」
「ただいまです。忙しそう……ですね。もしかして、ベニばあさまやルー君の代わりで?」
書類片手に、神官達がジザルスに駆け寄って来る様を見て、そういえばと思い出す。ベニやルディエが居ないのだ。皆、ジザルスを頼るだろう。しかし、ジザルスは平気な顔をしていた。
彼も、忙しいのは嫌いではない。本音は討伐などの戦闘行為かバイクで爽快に飛びたいというのが一番らしいが、きちんと後方支援もできる人だ。
「いえ。幸い、王都や他の町と違い、ユースールは穏やかなものですし、割り振りさえ決まれば、こうして見送るだけなので、それほどでもありません」
ベニとルディエは、パックンを連れて他国に病人の回収に行っていて、まだ戻ってこない。どうやら、パックンも居るならついでにと、薬師達を連れて迷宮でスターバブルを採取したり、その他薬に必要となるものを集めているらしい。
既に病に倒れていた他国の王などは回収済みだとパックンからの念話で聞いている。そんな中、始まった純血主義達の暴走。
これに、聖魔教会は混血の者や、里抜けした者たちの保護のために奔走することになった。夢うつつというような状態であったとはいえ、ルディエと共に神官殺しとして、何百年と世界を巡って来た人たちだ。純血主義についてもよく知っていた。
同時に、一般的にこの事情が広がっていないことも理解したようだ。先頭に立ち、万全の警備態勢を取るためにも、ユースールに集まっていた白夜部隊をはじめとする神官達が派遣されたようだった。
ユースールには混血は少ない。ゲンのように、血が薄くなり、遠い血縁に異種族が居たなというくらいの者は居るが、そこまで来ると、寿命に少し影響するだけで、身体的特徴も出なくなる。よって、純血の者たちに察知されることもなかった。
タリスやエルテなど、血が濃い者も居るが、彼らは自分の身を守れるくらいの実力者。よって、教会に逃げ込む必要はない。寧ろ彼らは、純血主義の者がやって来たら、手痛く追い返す気満々で待ち構えている。
殺しにくるのだから、手加減無用で相手にできるのだ。タリス達にすれば、盗賊や暗殺者と変わりない。どちらにしろ犯罪者だ。撃退するのも気楽なものだろう。
とはいえ、これまでユースールに純血主義の者たちが来たことはなかった。
それでも、警戒はしているらしい。教会を出て町を駆けて行くと、兵士達の配置が少し変わっているように感じた。どうやら、門の所で確実に止めるつもりなのだろう。中心街より外の方に集まっているようだ。
一方、冒険者達は逆に中心街に多い。気配を探れば、冒険者ギルドの周りに多くの者が集まっていた。配置からすると、薬屋が中心のようだ。
近付くと、薬屋の前に陣取っていたグラムがコウヤに気付いて手を上げる。
「お、コウヤっ」
「こんにちは。グラムさん。皆さん……もしかして、ナチさんを?」
このユースールで、一番に純血主義の者に狙われるとすれば、ナチだろう。それを、ユースールの人たちは知っていた。
「おう。まあ、ここまで相手も中々来られないらしいが、王都や他の町でも騒いでるって聞いたからな。一応、警戒しとくかっ、てな」
「そうでしたか。ありがとうございます」
自分たちの意思で動いてくれたことが嬉しくて、コウヤは満面の笑みで礼を伝える。
「いや~、俺ら心配性らしくてな~。余計なことかもしれんが」
照れて後ろ頭を掻く冒険者達。彼らは底辺の暮らしや事情を知っている。だから、このユースールに来る過程で、純血主義に追われる者たちと関わることも多かったようだ。
「純血主義ってえの? 知り合いから聞いた時は、俺もグダグダになってたから、あんま気にしてなかったんだけどな」
「俺より理不尽なことに耐えてるって感じが、あん時はイラっとしたぜ」
「それ、それっ。不幸自慢ってやつ。一番かわいそうな俺は助けられて然るべきだ! って、思うんだよな~」
その人もそうだったのだろう。自分は理不尽な純血主義の者たちに追われて、殺されようとしている。だから、自分が一番かわいそうだと、アピールしていたのだ。
スラムに辿り着くのは、その後だ。まだ逃げる気力がある者たちの集まり。そこでの不幸自慢大会。それは、その時の彼らにとっては何ものよりも甘美な娯楽の時間だったのだ。
こうして、自然にユースールに集まった者たちは、知識としてそれを理解し、知っていたというわけだ。
「けど、あそこから抜け出してからよくよく考えたらさ……確かに理不尽だよな」
「俺ら人族にしたら、故郷に嫌気がさして出てくってだけの話だろ? なんで殺されなきゃならんのだ? 勝手にも程があるだろ」
そう。人族にとってすれば、本当におかしなことなのだ。冒険者達の中には、それこそ、閉鎖的な故郷が嫌で出てきた者や、その村独自の掟に疑問を持ち、反発して出てくる者は多い。
エルフや獣人が同じように考えて里を抜け出すのは、おかしなことではない。だから、彼らの多くは冒険者になる。同じように考えた者が多いのだ。馬が合うのも当然だろう。
「でもさあ。外で会った奴ら、なんでか一緒にここに来るの嫌がるよな? なんでだ? 俺らなら守ってやれるのに」
「確かに……ユースールなら大丈夫だぞって誘っても、来ないよな? 俺ら、信用されてなかったとか?」
どの町より、純血主義の事情に理解があるのがユースールだろう。それなのに、誘っても来ないらしい。いつか行くと約束した者も居たらしいが、未だに再会出来ていないという。
その理由は、薬屋から出てきたナチが教えてくれた。
「ユースールの手前に、普通では感じられない境界線があるんですよ」
「は? 結界みたいな?」
冒険者の問いかけに、ナチは笑って頷いた。
「私は、ここへ初めて連れて来られた時に感じた違和感を覚えています……あれは、畏怖です。かつて、コウルリーヤ様が消えた時に散った神の力が、この地には未だに満ちているんです」
一瞬、冒険者達が反射的にコウヤを振り返ろうとするのが感じられた。びくりと肩を揺らしたのは、コウヤの目にもしっかりと確認できたのだ。ちょっと面白いと思ったのは秘密だ。
冒険者達はあえて、動きを止めてナチの言葉に集中した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回は2巻連動のSSを投稿予定です。
二日空きます。
よろしくお願いします◎
するとそこで、今からどこかへ転移しようとする神官達を見送っているジザルスと出会した。
「これはコウヤ様。お帰りなさいませ」
「ただいまです。忙しそう……ですね。もしかして、ベニばあさまやルー君の代わりで?」
書類片手に、神官達がジザルスに駆け寄って来る様を見て、そういえばと思い出す。ベニやルディエが居ないのだ。皆、ジザルスを頼るだろう。しかし、ジザルスは平気な顔をしていた。
彼も、忙しいのは嫌いではない。本音は討伐などの戦闘行為かバイクで爽快に飛びたいというのが一番らしいが、きちんと後方支援もできる人だ。
「いえ。幸い、王都や他の町と違い、ユースールは穏やかなものですし、割り振りさえ決まれば、こうして見送るだけなので、それほどでもありません」
ベニとルディエは、パックンを連れて他国に病人の回収に行っていて、まだ戻ってこない。どうやら、パックンも居るならついでにと、薬師達を連れて迷宮でスターバブルを採取したり、その他薬に必要となるものを集めているらしい。
既に病に倒れていた他国の王などは回収済みだとパックンからの念話で聞いている。そんな中、始まった純血主義達の暴走。
これに、聖魔教会は混血の者や、里抜けした者たちの保護のために奔走することになった。夢うつつというような状態であったとはいえ、ルディエと共に神官殺しとして、何百年と世界を巡って来た人たちだ。純血主義についてもよく知っていた。
同時に、一般的にこの事情が広がっていないことも理解したようだ。先頭に立ち、万全の警備態勢を取るためにも、ユースールに集まっていた白夜部隊をはじめとする神官達が派遣されたようだった。
ユースールには混血は少ない。ゲンのように、血が薄くなり、遠い血縁に異種族が居たなというくらいの者は居るが、そこまで来ると、寿命に少し影響するだけで、身体的特徴も出なくなる。よって、純血の者たちに察知されることもなかった。
タリスやエルテなど、血が濃い者も居るが、彼らは自分の身を守れるくらいの実力者。よって、教会に逃げ込む必要はない。寧ろ彼らは、純血主義の者がやって来たら、手痛く追い返す気満々で待ち構えている。
殺しにくるのだから、手加減無用で相手にできるのだ。タリス達にすれば、盗賊や暗殺者と変わりない。どちらにしろ犯罪者だ。撃退するのも気楽なものだろう。
とはいえ、これまでユースールに純血主義の者たちが来たことはなかった。
それでも、警戒はしているらしい。教会を出て町を駆けて行くと、兵士達の配置が少し変わっているように感じた。どうやら、門の所で確実に止めるつもりなのだろう。中心街より外の方に集まっているようだ。
一方、冒険者達は逆に中心街に多い。気配を探れば、冒険者ギルドの周りに多くの者が集まっていた。配置からすると、薬屋が中心のようだ。
近付くと、薬屋の前に陣取っていたグラムがコウヤに気付いて手を上げる。
「お、コウヤっ」
「こんにちは。グラムさん。皆さん……もしかして、ナチさんを?」
このユースールで、一番に純血主義の者に狙われるとすれば、ナチだろう。それを、ユースールの人たちは知っていた。
「おう。まあ、ここまで相手も中々来られないらしいが、王都や他の町でも騒いでるって聞いたからな。一応、警戒しとくかっ、てな」
「そうでしたか。ありがとうございます」
自分たちの意思で動いてくれたことが嬉しくて、コウヤは満面の笑みで礼を伝える。
「いや~、俺ら心配性らしくてな~。余計なことかもしれんが」
照れて後ろ頭を掻く冒険者達。彼らは底辺の暮らしや事情を知っている。だから、このユースールに来る過程で、純血主義に追われる者たちと関わることも多かったようだ。
「純血主義ってえの? 知り合いから聞いた時は、俺もグダグダになってたから、あんま気にしてなかったんだけどな」
「俺より理不尽なことに耐えてるって感じが、あん時はイラっとしたぜ」
「それ、それっ。不幸自慢ってやつ。一番かわいそうな俺は助けられて然るべきだ! って、思うんだよな~」
その人もそうだったのだろう。自分は理不尽な純血主義の者たちに追われて、殺されようとしている。だから、自分が一番かわいそうだと、アピールしていたのだ。
スラムに辿り着くのは、その後だ。まだ逃げる気力がある者たちの集まり。そこでの不幸自慢大会。それは、その時の彼らにとっては何ものよりも甘美な娯楽の時間だったのだ。
こうして、自然にユースールに集まった者たちは、知識としてそれを理解し、知っていたというわけだ。
「けど、あそこから抜け出してからよくよく考えたらさ……確かに理不尽だよな」
「俺ら人族にしたら、故郷に嫌気がさして出てくってだけの話だろ? なんで殺されなきゃならんのだ? 勝手にも程があるだろ」
そう。人族にとってすれば、本当におかしなことなのだ。冒険者達の中には、それこそ、閉鎖的な故郷が嫌で出てきた者や、その村独自の掟に疑問を持ち、反発して出てくる者は多い。
エルフや獣人が同じように考えて里を抜け出すのは、おかしなことではない。だから、彼らの多くは冒険者になる。同じように考えた者が多いのだ。馬が合うのも当然だろう。
「でもさあ。外で会った奴ら、なんでか一緒にここに来るの嫌がるよな? なんでだ? 俺らなら守ってやれるのに」
「確かに……ユースールなら大丈夫だぞって誘っても、来ないよな? 俺ら、信用されてなかったとか?」
どの町より、純血主義の事情に理解があるのがユースールだろう。それなのに、誘っても来ないらしい。いつか行くと約束した者も居たらしいが、未だに再会出来ていないという。
その理由は、薬屋から出てきたナチが教えてくれた。
「ユースールの手前に、普通では感じられない境界線があるんですよ」
「は? 結界みたいな?」
冒険者の問いかけに、ナチは笑って頷いた。
「私は、ここへ初めて連れて来られた時に感じた違和感を覚えています……あれは、畏怖です。かつて、コウルリーヤ様が消えた時に散った神の力が、この地には未だに満ちているんです」
一瞬、冒険者達が反射的にコウヤを振り返ろうとするのが感じられた。びくりと肩を揺らしたのは、コウヤの目にもしっかりと確認できたのだ。ちょっと面白いと思ったのは秘密だ。
冒険者達はあえて、動きを止めてナチの言葉に集中した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回は2巻連動のSSを投稿予定です。
二日空きます。
よろしくお願いします◎
218
お気に入りに追加
11,119
あなたにおすすめの小説


【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。