元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第九章

366 結界みたいな?

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コウヤは、転移が使えることを知られないよう、念のために王都の教会からユースールの教会へ飛んだ。

するとそこで、今からどこかへ転移しようとする神官達を見送っているジザルスと出会でくわした。

「これはコウヤ様。お帰りなさいませ」
「ただいまです。忙しそう……ですね。もしかして、ベニばあさまやルー君の代わりで?」

書類片手に、神官達がジザルスに駆け寄って来る様を見て、そういえばと思い出す。ベニやルディエが居ないのだ。皆、ジザルスを頼るだろう。しかし、ジザルスは平気な顔をしていた。

彼も、忙しいのは嫌いではない。本音は討伐などの戦闘行為かバイクで爽快に飛びたいというのが一番らしいが、きちんと後方支援もできる人だ。

「いえ。幸い、王都や他の町と違い、ユースールは穏やかなものですし、割り振りさえ決まれば、こうして見送るだけなので、それほどでもありません」

ベニとルディエは、パックンを連れて他国に病人の回収に行っていて、まだ戻ってこない。どうやら、パックンも居るならついでにと、薬師達を連れて迷宮でスターバブルを採取したり、その他薬に必要となるものを集めているらしい。

既に病に倒れていた他国の王などは回収済みだとパックンからの念話で聞いている。そんな中、始まった純血主義達の暴走。

これに、聖魔教会は混血の者や、里抜けした者たちの保護のために奔走することになった。夢うつつというような状態であったとはいえ、ルディエと共に神官殺しとして、何百年と世界を巡って来た人たちだ。純血主義についてもよく知っていた。

同時に、一般的にこの事情が広がっていないことも理解したようだ。先頭に立ち、万全の警備態勢を取るためにも、ユースールに集まっていた白夜部隊をはじめとする神官達が派遣されたようだった。

ユースールには混血は少ない。ゲンのように、血が薄くなり、遠い血縁に異種族が居たなというくらいの者は居るが、そこまで来ると、寿命に少し影響するだけで、身体的特徴も出なくなる。よって、純血の者たちに察知されることもなかった。

タリスやエルテなど、血が濃い者も居るが、彼らは自分の身を守れるくらいの実力者。よって、教会に逃げ込む必要はない。寧ろ彼らは、純血主義の者がやって来たら、手痛く追い返す気満々で待ち構えている。

殺しにくるのだから、手加減無用で相手にできるのだ。タリス達にすれば、盗賊や暗殺者と変わりない。どちらにしろ犯罪者だ。撃退するのも気楽なものだろう。

とはいえ、これまでユースールに純血主義の者たちが来たことはなかった。

それでも、警戒はしているらしい。教会を出て町を駆けて行くと、兵士達の配置が少し変わっているように感じた。どうやら、門の所で確実に止めるつもりなのだろう。中心街より外の方に集まっているようだ。

一方、冒険者達は逆に中心街に多い。気配を探れば、冒険者ギルドの周りに多くの者が集まっていた。配置からすると、薬屋が中心のようだ。

近付くと、薬屋の前に陣取っていたグラムがコウヤに気付いて手を上げる。

「お、コウヤっ」
「こんにちは。グラムさん。皆さん……もしかして、ナチさんを?」

このユースールで、一番に純血主義の者に狙われるとすれば、ナチだろう。それを、ユースールの人たちは知っていた。

「おう。まあ、ここまで相手も中々来られないらしいが、王都や他の町でも騒いでるって聞いたからな。一応、警戒しとくかっ、てな」
「そうでしたか。ありがとうございます」

自分たちの意思で動いてくれたことが嬉しくて、コウヤは満面の笑みで礼を伝える。

「いや~、俺ら心配性らしくてな~。余計なことかもしれんが」

照れて後ろ頭を掻く冒険者達。彼らは底辺の暮らしや事情を知っている。だから、このユースールに来る過程で、純血主義に追われる者たちと関わることも多かったようだ。

「純血主義ってえの? 知り合いから聞いた時は、俺もグダグダになってたから、あんま気にしてなかったんだけどな」
「俺より理不尽なことに耐えてるって感じが、あん時はイラっとしたぜ」
「それ、それっ。不幸自慢ってやつ。一番かわいそうな俺は助けられて然るべきだ! って、思うんだよな~」

その人もそうだったのだろう。自分は理不尽な純血主義の者たちに追われて、殺されようとしている。だから、自分が一番かわいそうだと、アピールしていたのだ。

スラムに辿り着くのは、その後だ。まだ逃げる気力がある者たちの集まり。そこでの不幸自慢大会。それは、その時の彼らにとっては何ものよりも甘美な娯楽の時間だったのだ。

こうして、自然にユースールに集まった者たちは、知識としてそれを理解し、知っていたというわけだ。

「けど、あそこから抜け出してからよくよく考えたらさ……確かに理不尽だよな」
「俺ら人族にしたら、故郷に嫌気がさして出てくってだけの話だろ? なんで殺されなきゃならんのだ? 勝手にも程があるだろ」

そう。人族にとってすれば、本当におかしなことなのだ。冒険者達の中には、それこそ、閉鎖的な故郷が嫌で出てきた者や、その村独自のおきてに疑問を持ち、反発して出てくる者は多い。

エルフや獣人が同じように考えて里を抜け出すのは、おかしなことではない。だから、彼らの多くは冒険者になる。同じように考えた者が多いのだ。馬が合うのも当然だろう。

「でもさあ。外で会った奴ら、なんでか一緒にここに来るの嫌がるよな? なんでだ? 俺らなら守ってやれるのに」
「確かに……ユースールなら大丈夫だぞって誘っても、来ないよな? 俺ら、信用されてなかったとか?」

どの町より、純血主義の事情に理解があるのがユースールだろう。それなのに、誘っても来ないらしい。いつか行くと約束した者も居たらしいが、未だに再会出来ていないという。

その理由は、薬屋から出てきたナチが教えてくれた。

「ユースールの手前に、普通では感じられない境界線があるんですよ」
「は? 結界みたいな?」

冒険者の問いかけに、ナチは笑って頷いた。

「私は、ここへ初めて連れて来られた時に感じた違和感を覚えています……あれは、畏怖です。かつて、コウルリーヤ様が消えた時に散った神の力が、この地には未だに満ちているんです」

一瞬、冒険者達が反射的にコウヤを振り返ろうとするのが感じられた。びくりと肩を揺らしたのは、コウヤの目にもしっかりと確認できたのだ。ちょっと面白いと思ったのは秘密だ。

冒険者達はあえて、動きを止めてナチの言葉に集中した。

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読んでくださりありがとうございます◎
次回は2巻連動のSSを投稿予定です。
二日空きます。
よろしくお願いします◎
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感想 2,775

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