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第八章 学校と研修
331 俺も頑張ろうかな
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コウヤは集落の中心辺りに来ると、腰についた小さな鞄の蓋を開け、中へ向けて声をかけた。
「『なないろ』出られる?」
《ひよっ》
まるでひよこの鳴き声のような可愛らしい声が返ってきた。
「あかいろ」
《ひよ!》
元気な声と共に、鞄から勢いよく上空へ飛び出したのは、赤い羽根ペン。
「だいだいいろ、きいろ、みどりいろ、あおいろ、あいいろ、むらさきいろ」
一つづつ口にする度に、ひよひよと鳴きながら、その色の羽根ペンが飛び出していく。
その数七本。それぞれの羽根の色は名の通りの赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色だ。羽根は、色を付けたわけではなく魔獣の羽根の色そのままを使っている。
コウヤはパックンに貢がれた七色の羽根を見て、この羽根ペンの武器を改良した。そして、これに『なないろ』と名付けたのだが、その時、武器とするならと魔石を組み込んだのが、この謎生物誕生の始まりだ。
作成中に考え事をしていたことも悪かった。レナルカが飛べるようになったし、飛べる小さなお友達がいたらなと考えてしまったのだ。
そして、ペン先の装飾に凝って心血を注いだ。そこに、神としての力も強くなってきていたこともあり、色々作用して出来上がったのがコレだ。
『こんなの出来たんだけど』とゼストラークに見せたら頭を抱えていたが、一応は謎生物として受け入れられたので良しとした。組み込んだ魔石が心臓となるので、括りとしてはゴーレムになる。
『なないろ』は、ペン先の方を下にして空中で円形に並び、クルクルと回りながら滞空する。それを見上げ、コウヤは指示を出した。
「対象は『迷宮の魔獣』と『迷宮の魔物』の二種類ね。範囲段階は『3』。【討伐開始】」
《ヒヨヨッ!》
その鳴き声が響くと同時に、色の残像を残してそれぞれ違う方向へ散っていった。
『なないろ』は、行動と対象や範囲を指定することで、あとは思考性を持って勝手に動いてくれる。
範囲は五段階に設定しており、コウヤを中心とした半径の距離で分かれていた。『3』は三キロだ。半径五キロまで対応できる。
攻撃手段は、魔法。それぞれが得意な属性を纏って貫いていく。順調に討伐を開始した『なないろ』の気配に頷き、コウヤも動き出す。
「俺も頑張ろうかな」
もはや、違和感を感じなくなった愛用の武器であるペーパーナイフを取り出し、コウヤも集落内の掃除を始めた。
コウヤを中心として動く『なないろ』の位置を確認しながら、集落内を彷徨っている魔獣や魔物を討伐していった。
十分ほどで片付けると、そのまま『なないろ』を展開しつつ、森へ入って行った。
順調に進み、半ばまで来た頃、リクトルスから念話が届いた。
『コウヤくん。投擲スキルでの戦い方を見せてやってくれるかい?』
「投擲スキル? いいけど……あっ、段階で見せたいってこと?」
『そう。せっかくだし見せてあげたかったんだけど、こっち、大分少なくなっちゃったから、頼むよ』
「わかった」
投擲スキルを極めると面白いことができると教えた手前、リクトルスはせっかくならばと、それを見せてやりたかったのだろう。
しかしさすがに、今回のランクで指導しながらという余裕はない。それでも、実戦の中で使っているところというのを見せたいと思うのは、リクトルスらしい。
現在、コウヤの姿は常にエリスリリアによって映像を撮られ、録画されている。今後の教材としても使えるだろうとリクトルスが考えているのが分かった。
何より、投擲スキルは軽く見られがちだ。そうした軽く見られることが、リクトルスには気に入らない。何事も極めてこそ道が拓ける。それを知って欲しかったのだ。
コウヤの戦闘スキルは【武闘士】スキルに集約されている。投擲スキルもそうだ。自身で【武闘士】スキルを【鑑定】すれば、何が集約されているのかも確認することができる。投擲スキルもきちんとその中にあった。因みに熟練度は【臨】だ。もう一つでカンストになる。
「なら……とりあえず【中】からだね」
よしと頷き、上空を見上げて手を振る。これからやるよとの合図だ。
小石を蹴り上げ、それを手にして目の前に現れたウルフ系の魔獣の一匹の眉間目掛けて投げる。
貫くとまではいかず、それでも当たったことで方向を見失ったようにして倒れる。そこに、ペーパーナイフで一閃して倒した。
「次は【大】」
同じように石を蹴り上げて手にし、向かってくるウルフへ投げる。これも眉間にまっすぐだ。そして、それは簡単に貫き、一発で仕留めた。
これは、ユースールの冒険者の多くが出来るようになっている。これくらい出来るようになると【必中スキル】が生えるのだが、恐らく多くの者が気付いていないだろう。剣術でもなんでもこのスキルは生かすことができるので有り難い。
そして、問題は次だ。
「【極】だと……」
同じように手に入れた石を投げる。その石は、手から離れたと同時に一気に加速。光の弾丸となって、後ろに続いていたウルフを二体おまけに貫いていた。
【極】は、力加減までしっかりと調整できるようにならなくては到達できない。それは、この威力のためだ。加減できなければ、味方やその先の物まで貫く可能性がある。
「これでいいのかな?」
ちゃんと見てたかなと、また上空に手を振っておいた。
ちなみに【越】で岩も貫通するレーザー並みになる。【臨】ではそれが複数同時に投げられるようになり、【神】で追尾機能が付く。最後はもはや、投擲の腕は関係ないのではないかと思えるものだ。さすがにこれらは見せられない。
その時、飛行船に残ってこれを見ていた冒険者達は唖然としていた。
バスガイドのように、エリスリリアによって説明はされていたが、見た物が信じられなかったというのが彼らの感想だ。この時ばかりは、エリスリリアに見惚れていた彼らも正気に戻っていたらしい。
後に、戦闘に出ているユースールの冒険者達が見るのだが、その時も同じように唖然とすることになる。
たかが投擲スキルと馬鹿にしていた冒険者達は、これにより考え方を改めた。そう、リクトルスの狙い通り、何事も極めてみなければ分からないのだと理解したのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
ご報告を未だご覧になっていない方
『著者近況』よりご覧ください。
よろしくお願いします◎
「『なないろ』出られる?」
《ひよっ》
まるでひよこの鳴き声のような可愛らしい声が返ってきた。
「あかいろ」
《ひよ!》
元気な声と共に、鞄から勢いよく上空へ飛び出したのは、赤い羽根ペン。
「だいだいいろ、きいろ、みどりいろ、あおいろ、あいいろ、むらさきいろ」
一つづつ口にする度に、ひよひよと鳴きながら、その色の羽根ペンが飛び出していく。
その数七本。それぞれの羽根の色は名の通りの赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色だ。羽根は、色を付けたわけではなく魔獣の羽根の色そのままを使っている。
コウヤはパックンに貢がれた七色の羽根を見て、この羽根ペンの武器を改良した。そして、これに『なないろ』と名付けたのだが、その時、武器とするならと魔石を組み込んだのが、この謎生物誕生の始まりだ。
作成中に考え事をしていたことも悪かった。レナルカが飛べるようになったし、飛べる小さなお友達がいたらなと考えてしまったのだ。
そして、ペン先の装飾に凝って心血を注いだ。そこに、神としての力も強くなってきていたこともあり、色々作用して出来上がったのがコレだ。
『こんなの出来たんだけど』とゼストラークに見せたら頭を抱えていたが、一応は謎生物として受け入れられたので良しとした。組み込んだ魔石が心臓となるので、括りとしてはゴーレムになる。
『なないろ』は、ペン先の方を下にして空中で円形に並び、クルクルと回りながら滞空する。それを見上げ、コウヤは指示を出した。
「対象は『迷宮の魔獣』と『迷宮の魔物』の二種類ね。範囲段階は『3』。【討伐開始】」
《ヒヨヨッ!》
その鳴き声が響くと同時に、色の残像を残してそれぞれ違う方向へ散っていった。
『なないろ』は、行動と対象や範囲を指定することで、あとは思考性を持って勝手に動いてくれる。
範囲は五段階に設定しており、コウヤを中心とした半径の距離で分かれていた。『3』は三キロだ。半径五キロまで対応できる。
攻撃手段は、魔法。それぞれが得意な属性を纏って貫いていく。順調に討伐を開始した『なないろ』の気配に頷き、コウヤも動き出す。
「俺も頑張ろうかな」
もはや、違和感を感じなくなった愛用の武器であるペーパーナイフを取り出し、コウヤも集落内の掃除を始めた。
コウヤを中心として動く『なないろ』の位置を確認しながら、集落内を彷徨っている魔獣や魔物を討伐していった。
十分ほどで片付けると、そのまま『なないろ』を展開しつつ、森へ入って行った。
順調に進み、半ばまで来た頃、リクトルスから念話が届いた。
『コウヤくん。投擲スキルでの戦い方を見せてやってくれるかい?』
「投擲スキル? いいけど……あっ、段階で見せたいってこと?」
『そう。せっかくだし見せてあげたかったんだけど、こっち、大分少なくなっちゃったから、頼むよ』
「わかった」
投擲スキルを極めると面白いことができると教えた手前、リクトルスはせっかくならばと、それを見せてやりたかったのだろう。
しかしさすがに、今回のランクで指導しながらという余裕はない。それでも、実戦の中で使っているところというのを見せたいと思うのは、リクトルスらしい。
現在、コウヤの姿は常にエリスリリアによって映像を撮られ、録画されている。今後の教材としても使えるだろうとリクトルスが考えているのが分かった。
何より、投擲スキルは軽く見られがちだ。そうした軽く見られることが、リクトルスには気に入らない。何事も極めてこそ道が拓ける。それを知って欲しかったのだ。
コウヤの戦闘スキルは【武闘士】スキルに集約されている。投擲スキルもそうだ。自身で【武闘士】スキルを【鑑定】すれば、何が集約されているのかも確認することができる。投擲スキルもきちんとその中にあった。因みに熟練度は【臨】だ。もう一つでカンストになる。
「なら……とりあえず【中】からだね」
よしと頷き、上空を見上げて手を振る。これからやるよとの合図だ。
小石を蹴り上げ、それを手にして目の前に現れたウルフ系の魔獣の一匹の眉間目掛けて投げる。
貫くとまではいかず、それでも当たったことで方向を見失ったようにして倒れる。そこに、ペーパーナイフで一閃して倒した。
「次は【大】」
同じように石を蹴り上げて手にし、向かってくるウルフへ投げる。これも眉間にまっすぐだ。そして、それは簡単に貫き、一発で仕留めた。
これは、ユースールの冒険者の多くが出来るようになっている。これくらい出来るようになると【必中スキル】が生えるのだが、恐らく多くの者が気付いていないだろう。剣術でもなんでもこのスキルは生かすことができるので有り難い。
そして、問題は次だ。
「【極】だと……」
同じように手に入れた石を投げる。その石は、手から離れたと同時に一気に加速。光の弾丸となって、後ろに続いていたウルフを二体おまけに貫いていた。
【極】は、力加減までしっかりと調整できるようにならなくては到達できない。それは、この威力のためだ。加減できなければ、味方やその先の物まで貫く可能性がある。
「これでいいのかな?」
ちゃんと見てたかなと、また上空に手を振っておいた。
ちなみに【越】で岩も貫通するレーザー並みになる。【臨】ではそれが複数同時に投げられるようになり、【神】で追尾機能が付く。最後はもはや、投擲の腕は関係ないのではないかと思えるものだ。さすがにこれらは見せられない。
その時、飛行船に残ってこれを見ていた冒険者達は唖然としていた。
バスガイドのように、エリスリリアによって説明はされていたが、見た物が信じられなかったというのが彼らの感想だ。この時ばかりは、エリスリリアに見惚れていた彼らも正気に戻っていたらしい。
後に、戦闘に出ているユースールの冒険者達が見るのだが、その時も同じように唖然とすることになる。
たかが投擲スキルと馬鹿にしていた冒険者達は、これにより考え方を改めた。そう、リクトルスの狙い通り、何事も極めてみなければ分からないのだと理解したのだ。
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